第2900話 壁は曲がり角のしるし

2021年03月12日 08時00分00秒 | Weblog

人生には、どんなに望んでも叶わぬ夢があることを知った。

受験や資格試験。

今にして思えば、勉強は自分ひとりの努力でなんとかできるけれど、命だけは・・・。

 

私には、ひとり息子がいる。

わがままかもしれないが、息子にも私のように弟や妹がいる世界を望み、

四人家族でも、五人家族でも、望むところだった。

「ひとりでも、いるんだからいいじゃない」とは思えなかった。

どんなに祈っても、子どもを授かるという奇跡が訪れることはなく、

満たされないまま、少しずつ壁に近づいていく。

 

ある日、見上げると、私の前にそびえ立つ、高く、厚い壁。

「あぁ、もう私には無理なのだ。」と悟った瞬間、希望の光がなくなった。

「どんなにあがいても、私はこの壁の向こうに行くことができないのだ。」

不意に襲ってくる喪失感。

「あきらめるしかないのだ。この壁を乗り越えるだけが人生ではない。」

何度も自分に言い聞かせながら、私は壁に沿って別の道を探した。

 

生み出せるものは、子どもだけではないはず。

女性の価値は、子どもを産むことだけではないはず。

私が、私に似た子をこの世にのこせなかったことにも、何か意味があるはず・・・

私の中から生まれた思いで、社会や世界とつながっていくことはできないだろうか。

 

そうだ、絵本を創ろう。趣味でもいい。私は、初めて絵本を創った。

無から有を。

自分の中から生み出すという「出産」に挑戦していると、

目の前に立ちはだかっていた壁は、いつの間にか透明になっていた。

乗り越えられない壁は、新たな道に進む曲がり角だったのだ。

 

正直、今でも、もちろん欲しかったなぁと時折、思う。けれど、

そんな私だからこそわかる人の痛みや命の尊さを胸に

これからも私の中から生まれてくるものたちを、育んでいきたいと思っている。

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