高校野球部が舞台
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今まで読んだ東野圭吾の作品でもスポーツを扱ったものは多い
アーチェリー、バレエ、スキージャンプ、剣道 等等・・・
その種目が物語に大きく関わるだけに、それらのシーンの描写が見事であればあるほど臨場感も伝わってきてよく知らない競技であってもどんどん引き込まれる
そういう意味では本作品は競技中の描写は少なかった
それだけ野球が日本国民に浸透していて詳細の説明が不要である、ということもあるだろうが、それ以上に主人公のこれまで生きてきた背景とか人間性とかに(いつもにも増して)重きを置いている感じだった
実際にプロを目指すほどの人物は私の周りにはいないので、よくわからないけれど、彼の"プロ"を意識した野球に対する"挑み"方(競技・金銭 を含めて)には高校生とは思えない(もっと幼い頃からその心積もりはあったのだろう)恐ろしさが伝わってきた
だからこそあの決着の付け方にも十分説得力があった
ただ、これまでにも言われているように、"魔球"というダイイングメッセージや腕の切断ということに対する必然性の説明がちょっと弱かったような気がするのは確か
それ以外にも、いつもの東野作品のように、"全ての出来事が解決への伏線になっている"という緻密さはあまり感じられなかった
でも、逆にそれが読者が想像力を膨らませることになっているのだと思えば一概に"良い"とか"悪い"とか言い切れない
少なくとも私自身、主人公の死の謎が明らかにされた時点で腕の切断の理由について色々思いを巡らせ、それはすごく楽しかったから
(魔球の秘密がアノ腕に隠されてると思ったんだけどな~、指先に深い傷跡を付けた、とかばね指みたいに指が曲がっていた、とか・・・)
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いわゆる"クローズド・サークル"もの
文庫
これだけ携帯電話が普及し、治安のよい日本で、"クローズド・サークル"の条件を満たす環境を作るのは難しい
でも、本作では"バーチャル・クローズド・サークル"とでもいうべき状態を作り出すことによって、ミステリーが出来上がっている
すなわち、登場人物が皆役者で、「吹雪で外界と遮断された山荘に閉じ込められた人」という演技をするように命じられたからだ
もちろん、その気になれば電話をかけることも町へ出かけることも出来るが、有名舞台監督の下、「条件を破ったらオーディション失格」と言われ、役者達は皆、律儀に言いつけを守る
おお!こんなテがあったのか!とその設定だけでワクワク
そんな中で、名作ミステリーさながらに独りずつ役者が"殺された設定"に・・・
で、途中から"これは舞台稽古じゃない"ムードいっぱいになってきて・・・・・・
本編は、登場人物の一人"久我"と、"筆者"の二人の視点で描かれている
(正確には"筆者"では無いのだが・・・・)
途中で久我じゃないほうの視点は誰なんだろう?監督が隠しカメラでも仕掛けたのかな?
と、ずっと気になっていたのだが、ラストまで読んでびっくり
まさか3重構造になっているとは!
最後はちょっと無理矢理まとめた感じもしたが、とにかくいつものように東野圭吾の文章のうまさで読み出したら止まらなくて一気に読んでしまった
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交通事故をテーマにした連作集
文庫
私の今の職場では企業の社会的立場上、交通安全にすごくうるさい
最初はその扱いに驚いたものだが、交通事故の恐ろしさを毎週のように頭に叩き込まれ、いつの間にか以前よりずっと交通安全を意識するようになったと思う
そんな私ですら、この小説を読んで"絶対に安全運転しよう"とあらためて強く感じた
信号無視、違法駐車、投げ捨て、等々、交通事故の原因は様々だ
そして、実際に事故が起こってしまうと、それだけではない、私達の考えの及ばない悲劇が起こり得る
実際には目撃者がいなかったり、当事者が志望してしまったり、嘘の証言があったり・・・と真実が明かされないまま処分されてしまっている事故も沢山あるに違いない、とこの小説を読んで確信してしまった
自分が不当な扱いを受けないためにも、恨まれないためにも、周りの人を悲しませないためにも、後ろめたい思いをしないためにも・・・・・絶対に交通事故は起こしたくないし、遭いたくない
そういう意味では交通安全の啓蒙活動にも使えるのではないか、とまで思った
雪山、暗号、密室、宝探し・・・・・と推理小説のアイテム満載の小説
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マザー・グースの歌詞が暗号になっているのが面白い
プロローグの謎めいた出来事に頭が奪われているうちにマコトが登場して、更に頭が混乱して・・・・
最初の数ページでかなり頭の中を引っ掻き回されてしまった
いかにも東野圭吾らしく、密室の謎が図入りで説明してあったり、何気ない言葉にしっかり伏線やヒントが隠されていたり・・・・と"これぞ推理小説"と言ったつくりになっていながら、それぞれの人物の描写も細かくて毎度のコトながらあっという間に読み終わってしまった
加賀刑事シリーズ
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最初から犯人がわかっている殺人事件について、加賀刑事が小さな嘘を丹念に拾い集めて真実を暴いて行く・・・・という連作ミステリー
他の東野作品に漏れず、伏線の張り方や犯人のたくらんだトリックなどは短編でありながらとてもレベルが高いと思う
しかも、いずれの犯人についてもその犯行に至った経緯はただ咎めるには余りにも悲しくて・・・・・
そんな人間の弱さが生み出した犯行を加賀刑事は優しくしかし冷静に淡々と暴いて行く
犯した罪は悪いことであっても犯人達に同情せずにはいられなかった

いかにも"推理小説"っぽい作品
文庫
最近東野作品ばかり読んでいるせいか、ちょっとした会話や情景描写にも
"ひょっとして、これは後々の伏線か???"
と、過剰に反応してしまう
この作品も、いかにも怪しい小道具がたくさん出てきたので、色々気にし過ぎて凄く疲れたが、ぐいぐい引き込まれた
そもそも建物の形が"十字"ということが怪しい
カソリック系の大聖堂は十字の形をしていることが多いので、キリスト教がらみの話か?なんて余計なことまで考えてしまったり・・・・・
今までの東野作品の流れから"この人が怪しいかも・・・"という予想をするようになってしまったのだが、それは全く何の根拠も無い状態での思い込みで、まったく役に立たない
いや、却って推理の邪魔してるのかも・・・
この作品では、限られた空間、連続殺人、数々の怪しい状況証拠・・・と
冒頭にも書いた通り、江戸川乱歩かアガサ・クリスティーか、というような"推理小説"の雰囲気たっぷりに話が進められていく
途中で時々挿入されている、ピエロ"僕"の独白
私は、この"ピエロの目"こそが、損得や好き嫌いに影響されないもっとも客観的で公平な視線であり、重大なヒントが隠されているに違いない、と思い、殊更その部分を注意深く読んだ
結果として、それが当たっていた部分もあり、それに嵌められた部分もあり・・
最後の最後には、ピエロだけが聞いた、佳織の重要で悲しいセリフが明らかにされ・・・・
他の東野作品に違わず、綿密なトリックに加え人間の悲しさ、などもしっかり描かれていたのに加え、最後には重~い余韻の残る作品だった

まさしく"謎解き"がテーマになっている
タイトル通り、容疑者は二人
さらに、本人の自殺の可能性もある
謎解きに徹してあるだけに、無駄なエピソードは極力省いてあり、
犯人も二人のうちどちらか(or自殺)であることは明らかで、早くラストが知りたくてあっという間に読めてしまった
が・・・・・
最後の最後まで読んでも犯人の名前は明かされないのだ
私が購入したのは文庫版で、巻末に袋とじで「推理の手引き」が付いていて、
これを読めば(名前は明らかにされていないものの)犯人はわかる、という仕掛けになっている
一方単行本では、それすらなかったため問い合わせが殺到したらしい
(ただし、文庫本では重要な一語が削除されており、推理を難しくしているが)
とにかく、クライマックスでは加賀刑事と主人公(死んでいた女性の兄)の二人の犯人究明のやり取りが怒涛のように展開され、犯人をどんどん追い詰める
"で、結局二人のうちどっちが犯人なの?"
と、さんざんじらされた挙句、名前が明かされない・・・・・
最後まで読んで"へ?"と思って、前のページへ戻って上の二人のやり取りを読み直したり、ヒントになりそうな物証を抜き出してみたり・・・・
読み終わった後も結構な時間楽しむことが出来た
結局、"多分こっちだろうなぁ"程度の推理で袋とじを破ってしまったが、こういう謎解きは頭の体操にもなって面白い
加賀刑事シリーズ「私が彼女をころした」も同じ趣向らしいので是非読んでみたい

前作同様、一見オカルト現象と思われる事件の謎を物理学的に解いていく、刑事草薙&物理学者湯川のコンビ
相変わらず二人は人物的魅力たっぷりだし、話のテンポもよい
が・・・・、今回は"「物理学者」である湯川"の必然性が感じられなかったような気がする
前作は、専門的な用語や道具が色々出てきて、ガリレオ先生が理系の知識を駆使して見事に謎を解いてくれたのだが、本作は、「超常現象の謎を暴く」ことに主眼が置かれていたので、特に「物理学的知識」を使わずに解かれた謎もあり、「見事だなぁ」とは思ったが、前作で味わった「私もちょっと賢くなった」気分に浸ることはできなかった(←文章ヘタクソ・・・)
そう、本作のガリレオ先生は以前書いたことのある「トリック」の仲間由紀恵の役回りのような感じ・・・・
そもそも、草薙刑事はなんでもかんでも湯川に相談しているのでは・・・?
なんて、ちょっと心配してしまった
もっとも、それが作者の意図する所なのかも知れないし、十分面白かったからいいんだけど
さぁ、次はいよいよシリーズ3作目直木賞受賞作品「容疑者Xの献身」に続くわけで・・・・早く文庫にならないかなぁ

こういうの好き
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オカルトを科学で解明する名探偵登場!
突然、燃え上がる若者の頭、心臓だけ腐った男の死体、幽体離脱した少年……。天才科学者が常識を超えた謎に挑む連載ミステリー
↑は出版社の内容紹介
さすが、理系出身の東野圭吾らしい作品
数々の殺人トリックを物理的理論から解決していく
もちろん私の物理的知識では理解不能な箇所が多いが、それでも、ストーリー展開の面白さ、登場人物(湯川&草薙)の魅力のおかげで一気に読んでしまった
(1日で読了・・・・ちょっともったいない感じ)
で、なんとなく私自身が賢くなった気になれるのも嬉しい
ただ、こんなに見事なトリックを次から次へと紹介してしまって模倣犯が出て来ないかちょっと心配だったり・・・・
色々考えさせられる内容だった
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物語そのものは、またまた密室殺人の謎解きモノ
タイトルに"学生街"とあるものの、舞台となっているのは"新"学生街にとって代わられてしまった"旧"学生街で、登場人物に学生はほとんど出てこない
で、全体のムードもなんとなく気だるくて、かといって間延びしているわけでもなく、中盤から終盤に向けてじわじわと謎が広がり、また色々なことが明らかになっていく展開は、なんだかすごく好き
この作品では、相変わらずの謎解きの楽しさはもちろんのこと、主人公の内面の描写も良かった
主人公光平が、広美を一途に愛する気持ち、彼自身がモラトリアムの真っ只中にいることの苛立ち、焦り、親に対する申し訳なさ・・・等々がひしひしと伝わって来て、それだけに、終盤の父親のセリフに対する気持ちや、広美の本心がわかってしまったときの切なさ等が自分のことのように思われてしまった
私自身の覚書の意味も込めて、心に残った部分をちょっと長いけど引用してみようっと
1年ぶりに会った父親との会話・・・
自分のこれからのことについて何か指示するつもりじゃなかったのか?と父親に問いかける主人公に対して
父:「どんな人間でも、一種類の人生しか経験することはできん。
一種類しか知らんわけだ。それなのにほかの人間の生き方をとやかくいうことは、
傲慢というもんだ」
主人公:「道を誤ったらどうするんだい?」
父:「間違ったかどうかも、本当は自分で決めることだと思うがな。
間違いだと思えば引き返せばよい。小さなあやまちをいくつも繰り返しながら、
一生というのは終わっていくものではないかな」
主人公:「中には大きなあやまちもある」
父:「それは、ある」
「その場合でも、その事実から目をそらしてはいかんだろうな。
償う気持ちを宝にして、その後の事に当たるべきだろうな。
それでなくては、生きてはいけん。たぶん、な」
こういうところが私が東野作品にハマってしまった大きな理由の1つだ

アリバイトリックの謎解きモノ
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読み終わってから気付いたが、東野圭吾の中でもかなり初期の作品
セリフが多いこともあって、すぐに読み終わってしまった
主人公[あたし]と作中3回だけ登場する[私]の二人の視点で物語が進められている
[あたし]は推理作家で、恋人が殺されてしまったことをきっかけに犯人探しを始め、連続殺人事件にかかわるようになる
最近の東野作品に比べると、なんとなく洗練されていないと言うか・・・
私でも途中でなんとなく犯人がわかったほどなので・・・
それでも、何人もの人が殺されていながら、犯人が"本当の悪人"とは思えない、殺人行為自体が様々な愛の形の結果・・・・といった部分はその他多くの東野作品に通じるような気がする
その愛の対象は恋人であったり家族であったり・・・
もし、私だったら・・・と思うと
この作品の[あたし]は東野作品にしては、完璧すぎず人間らしくて、淡々とひたむきに犯人を追う姿が好き

このところちょっと重めの本ばかり読んでいたので、結構軽めのこの作品はなんだかあっけなかった感じ
誘拐(しかも狂言)を犯人(主人公)の視点で語る、という話の展開は面白いと思ったし、
携帯電話やフリーメールやインターネットの掲示板を使ったやりとりも
"なるほどね~、これなら真似しようって思う人がいるんぢゃないの?"と感心してしまった
(もっとも、これらの手段はすぐアシがつきそうだけど・・・
この作品が発表された当初は、そのあたりの情報が浸透してなかったのかな)
作者自身の
「"いい人"の出てこない小説を書きたかった」という言葉通りで、
登場人物の誰にも親しみを感じられなかったのも、
妙に冷めた気持ちのまま読んでしまった原因かもしれない
いつも書いていることだけど,
私は映画でも小説でも登場人物に対する"思い入れ度"で作品に対する"入り込み度"が変わってくるので・・・・(実は、ここにreviewを書くようになって自覚した)
と言っても、重い話ばかり、それも話にどっぷり浸かって読んでばかりいると疲れるので、たまにはこういう軽い作品もよいかな
Amazonなどの評価を見ると、珍しく原作より映画のほうが評判が良い
仲間由紀恵好きだし、是非映画版観なくては・・・


まだ、気持ちはどっぷり浸かりっぱなしです




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不治の病に侵された息子を持つ主人公が妻に聞かせた過去の不思議な体験・・
それは、20年以上前にその息子に出会い自分の人生が大きく変わった、ということ
現在、過去、そして未来が交錯する物語の展開は、それだけを考えるとすごく非現実的で、ありふれたSF小説だと思われがちかもしれません
でも、その中に、主人公やトキオやそのほかの登場人物の、人生や家族に対する深い愛情が様々な形で描き出されていて、私自身の心に響いてきました
明日だけが未来じゃない
生んでくれたこと感謝するよ
未来を生きてください
それぞれがそれぞれの思いを込めたこれらの言葉を思い出すだけでも、胸がいっぱいになる感じです
自分が生まれてきたことに感謝できること、自分が死に行く時に誰かの未来を思いやる気持ちが持てること、そんな人生を送ることが出来たら素敵だなぁ、と改めて思いました
中盤、主人公のダメダメっぷりに苛立ったし、ちょっと捕り物が長すぎてダレそうになったけど、後半は本当に素晴らしかったです
電車の中じゃなくてよかった・・・・
最後は涙ボロボロになってしまったので・・・・


大好きな東野作品なのに読むのに時間がかかってしまいました



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卒業を間近に控えた大学生が主な登場人物です
「眠りの森」の加賀刑事の東野作品初登場作品、ということで順番が前後しちゃったけど読んでみました
全体の印象としては、東野作品にしては色々詰め込みすぎてちょっと歯切れが悪いかな、って気がしました
「雪月花之式」の作法云々は"東野圭吾は博学だなぁ"と思う半面、図入りの説明が細かすぎてナナメ読みしちゃいました(ごめんなさい)
私はこの作品に限らず、東野作品の魅力は巧妙なトリックと繊細な人間関係や人物像の描写のすばらしさだと思っていますが、この作品に関しては、ちょっとトリックに重きを置きすぎたかなぁって思いました
この作品でも、"卒業"に対する加賀の心情や最後の藤堂の手紙などは引き込まれるものがあったのですが、ちょっと登場人物に現実味を感じられなかったのが残念です
だって、加賀をはじめとして誰も彼もが"硬派"で優秀なんだもの

でも、だからこそ(?)加賀は限りなくカッコイイ!のかな(←ワケわかんなくてごめんなさい)
まだまだ東野マツリは続きます

(2006/1/12)

またまた東野ワールドにやられちゃいました



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今回の舞台はバレエ団です
そこで次々と起こる殺人事件
愛情と、嫉妬と、憎悪と・・・
毎度のことながら、さまざまな人物の描写は本当に見事でぐいぐい引き込まれてしまいます
ただ・・・
"謎解き"という点から見ると、ストーリーに直接かかわらない、過去のしかも海外の出来事がカギになっているのは、ちょっと"ずるい~"って思っちゃいました
もちろん、"謎解き"というのは東野作品の魅力のごく一部でしかないわけなので、十分楽しめましたが・・・
さてさて、これから加賀刑事シリーズを攻めねば・・・
