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奥様的部屋

主婦の独り言&映画や本の話もちょこちょこ(ネタバレあり)

仮面山荘殺人事件/東野圭吾

2006-12-07 02:27:18 | 本など_東野圭吾


空前絶後のどんでん返し!(←オビより)
仮面山荘殺人事件

本格的クローズドサークルもの
途中からなんとなぁく、犯人の目星がついてしまった気もするけれど、でもやっぱりウマイなぁ、東野圭吾は

途中で、"この人が怪しい"と思いかけても、まったくその人に後ろめたさや怯えのようなものが感じられないので、自分の推理に自信がなくなるのだが、最後に犯人が明かされ、その本人の犯行後の心理状態が明らかにされるにつれ、悔しいはずなのに
なるほど~そういう理由だったのか~」となんだか感心してしまった
単純な"犯人当てモノ"としてではなく、犯人、被害者、その周りの人々の行動や感情の描写がこの作品の大きな魅力だと思う

最後の種明かしの時には
そういうコトかい、これはちょっとギリギリだなぁ」と思わず苦笑してしまったけれど・・・・

★おまけ
  先日名探偵の掟を読んだばかりなので、ストーリー以上に人物設定やセリフ回しに気を取られてしまった気がする・・・・sign

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名探偵の掟/東野圭吾

2006-12-02 04:05:57 | 本など_東野圭吾


こんな手法があったとは・・!
名探偵の掟

ミステリィの「お約束」を自虐的かつ批判的なまでにパロった短編集
東野圭吾自身も書いている「密室殺人」や「アリバイ崩し」等々を題材に、今まで誰もが感じつつも
「それを言ったら小説が成り立たなくなっちゃうから」
と、敢えて口を閉ざしてきたことが、作者自身の手で揶揄されている

こんなコト書いちゃうと、この先東野圭吾自身、ミステリー作品を発表する大きな枷になってしまうだろうに・・・・などと、いらぬ心配までしたくなるほど様々なミステリー作品のパターンが取り上げられている
(正に"まったくいらぬ心配"なことは言うまでもない)

また、読者に対しても
「アリバイがしっかりしているからこの人が犯人だ」とか
「途中で犯人わかったもーん」なんていう当てずっぽうの推理をすることを批判するし
2時間ドラマについては
「その配役を見れば犯人がわかる」なんて言ってのける

で、ふざけているようでありながらそれぞれがミステリー作品としてもちゃんと完成されていて、とても楽しく読むことができた

それにしても、毎回毎回東野圭吾の引出しの多さには驚かされるなぁ

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片想い/東野圭吾

2006-11-17 05:53:50 | 本など_東野圭吾


こうなりたい自分と現実の自分と・・・
片想い

性同一障害を扱った物語

ここ数年、競艇選手が性転換したり、特例法が制定されたり、ドラマで題材にされたり・・・と、随分この問題に関する話題を目にする機会が増えて来た
つい数日前にも、子持ちの男性(←・・・この本を読むと"男性"という呼び方にすら抵抗を覚えるけれど・・)が性別変更の申し立てをした、という報道を目にしたばかり

ところが、この作品が発表されたのは1999年から2000年にかけてだという
先日読んだ、クローン問題に関する"分身"の時同様に、世間よりかなり先を行く東野圭吾の着眼点には驚かされる

物語の軸となっているのは性同一障害だが、それと綾をなすように、夫婦間の愛情、学生時代から続く友情が描かれ、更に、殺人事件までもが絡んでくる

テーマがテーマだけに、登場人物になかなか感情移入できなくて、それでも、読むことを止められなくて、がむしゃらに一気に読んでしまった感じだ

ん~、感情移入できなかった,というか、
自分自身で
こういう人たちに対して、ヘンな固定観念を抱いてはいけない」と、どこかで感情を抑制しつつ読んでいたような気がする
同情したり偏見を持ったりしないで、心をフラットにして、美月の言葉を受け入れよう、美月や嵯峨の生き方を素直に理解してみよう・・・と・・・・・・
よくよく考えれば、こんな風に「受け入れなくちゃ、理解しなくちゃ」と必死になっていること自体、偏見を持っていることに他ならないのだけれど・・・・

性同一障害、という言い方をしてしまうと、とても特殊で、難しい問題を孕んでいる深刻なテーマ,と、構えてしまう
けれど、最後まで読んで感じたことは、全編の根底には、主人公をはじめとする障害(←この言い方にも抵抗を覚える)を持たない人々も含めて、自分自身の「なりたい姿」「あるべき姿」の間で苦悩する人々の姿が描かれていて、タイトルの「片想い」も そんな「こうありたい"自分"」に対するものだ、ということだ

「男の世界」に拘った哲朗、そんな哲朗と判り合うことを諦め、仕事の道を選ぶ理沙子、恵まれた結婚生活を送りながらも、その"家名"を守ることに追われる生活を嫌悪していた中尾、大学時代の仲間よりも新聞記者としての自分を貫こうとする早田、半陰陽という身体を持ち、好記録を出しても報われないまま陸上を続ける睦美・・・・・
誰も彼もが、自分らしくありたい、と思いつつも、そうなれないことに苦しんだり、他人の目を気にしたり、そもそも"自分らしく"ということ自体が良くわからなくなってしまっていたり・・・・・

「自分らしく」・・・・・?

男とか女とかいう問題ではなく、その人らしさ、で相手を見つめる心を持ちたいなぁ、と思った
現実はなかなか難しいけれど

★おまけ
  小学時代の同級生に、自分のことを「オレ」と言い、
  いつも男の子のような格好をしている女の子がいました
  女の子らしくすれば?と言われることを凄く嫌がり、ガニ股で歩き、男言葉を使い、
  何よりも、制服のスカートをはくのが嫌だから中学生になりたくない、とまで言っていました
  もっとも、当時は私もスカートが嫌いだったし、自分のことを「ボク」なんて言っていたこともあるので、
  お兄さん二人を持つ彼女も私と同じような、
   単なる「男の子っぽくしていたほうがなんだかラクチン」という程度のものだろう、
   と思っていたのですが・・・
    何年か後、彼女はトランスジェンダーだったのかも・・・・
  と思ったこともあります
  でも、噂に依ると、20代前半に結婚して玉の輿に乗ったとか・・・・・
  その後、彼女がどうしているのかわかりませんが、
   (美月も一度は結婚して子供を産んでいたし) 
   今になって考えると、美月がそうであったように、
   彼女も両方の性の境目で苦しんでいたのかも知れないなぁ・・・・なんてこの本を読んで思いました
 
★おまけ2
  私も子供の頃「男の子になりたい」と思っていました
  それはただ,兄貴達と同等になりたかったから、と今になって思います
  立小便がしたい、とか、キャッチボールがしたい、とか・・
  私自身は精神的な性、というのは後天的に植え付けられるものだ、とずっと思っていました
  狼に育てられた子が、自分も狼だと思うように、
  女の子、として育てられれば、それに疑問を抱くことなんてないだろう、と
  でも、トランスジェンダーという言葉がポピュラーになって、
  色々見聞するうちに、「精神的な性と身体的な性が食い違った状態」の人がいて、
  しかもそれは病気(障害)として扱われている、と知り、すごくショックを受けました
  だって、普段「私は女だ」なんて意識したことありません
  確かに子供の頃「女の子らしくしなさい」と言われることに反発を覚えたことはあるけれど、
  その一方でフリフリの洋服や可愛いリボンに喜んだりしていたのも確かです
 
  で、今回、この作品を読んでちょっとだけ、トランスジェンダーについてネットで検索してみました
 
  wikipediaによると、
  性同一性障害とは
  正確には「性自認と身体の性が食い違った状態
  とあります
  で、性自認とは?
  「自分の性が何であるかを認識している。
  男性なら男性、女性なら女性として多くの場合は確信している。その確信のことを性自認と呼ぶ

  だそうです
 
  さらに性自認の決定要因は
  「後天説」と「先天説」に分かれ、折衷的な説も数多く存在する
  とのことです
 
  一方で
  脳についての理解が深まるにつれ、
  男性と女性は生まれつき脳の構造が一部異なっていることが判明した
  とあり、これに依ると
  性同一性障害とは
  胎児期の性ホルモン異常などにより性自認を基礎づける神経核が正しく形成されなかった症例と解釈できる
  だそうです
  なんとなく頭の中のもやもやしていた部分がちょっとだけすっきりした気がします
 
  今までトランスジェンダーという言葉だけは知っていても、本当に言葉以外何も知りませんでした
  今回、この本をきっかけにこういうことを考えることが出来たのはとても良かったと思っています

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変身/東野圭吾

2006-11-11 01:11:54 | 本など_東野圭吾


脳移植の話
変身

主人公は強盗事件に巻き込まれ、頭を銃で撃たれ、脳移植を受ける
世界初のその移植手術は成功し、順調に快復した彼は職場復帰を果たし日常の生活を取り戻す

でも・・・・・
彼自身の中で徐々に何かが変わって行く
気に入っていたはずの恋人のそばかすを"無ければいいのに"と思う
次第に彼女自身も疎ましくなる
絵を描く事が何よりも好きだったはずなのに、絵筆を握る気にもなれない
実際描いてみたところで、ろくな絵が描けない
何の目標も向学心も無く生活を送っている同僚に苛立ちを覚える
[僕]が[俺]になる・・・・
等々

脳のどの部分が人格や好みをつかさどっていて、どの部分が絵画や音楽の才能のようなものをつかさどっているのかはよくわからないし、この物語の主人公が移植された"脳の一部"がどこなのかという説明も無い

それだけに、主人公純一がどんな風に変化していくのか、純一本人も私も予想が出来ず、不気味さが増すばかりだった

そもそも、""という器官(?)自体が良くわからない
確かに、他の臓器のように他の人のものを移植して間に合わせましょう、ってわけにはいかないだろうとは思う
私の中のイメージでは"脳"≒"心"であり、それは他人のもので間に合わせられるわけがないのは当然だから・・・・

でも、ほんの一部だけの移植だったら?
堂元教授のように、脳をただの身体の器官の1つとして考えるのなら、少しくらい他人の脳を移植してもちゃんと機能さえすればいいのかなぁ、とも思う

でも、この物語では違った
移植されたのは、ほんの一部のはずなのに、その"ほんの1部"が徐々に純一の思考を支配するようになり、どんどん変わっていく自分をどうすることもできなくて、僅かに残っている"本来の純一"の人格は苦しみ悩む

そんな時の純一の心の内は私の想像できる範囲を超えてしまっていた
私だったらどうするだろう、と想像することすらできず、はらはらしながら文字を追うだけだった

堂元博士に向かってこんな台詞を言うシーンがある

・生きているというのは、単に呼吸しているとか心臓が動いているとかっていうことじゃない。脳波が出ているってことでもない。それは足跡を残すってことなんだ。後ろにある足跡を見て確かに自分がつけたものだとわかるのが、生きていると言うことなんだ。
・・・・・
・生まれ変わることと、少しずつ自分を失っていくことは違う

"生まれ変わりたい、過去を消してしまいたい、人生をやり直したい"
私自身そんな風に思うこともある
それは"良い思い出は心の中に残したままで"という条件付きで、だけど・・・

でも、この純一の言葉を読んで、"良い"思い出だけが残っていても、それは"私自身"ではないのでは・・・と思い直した

今の私があるのは、これまでの色々な過去を積み重ねてきたからに他ならないわけだし、純一みたいなことになったら彼と同じような方法を取りたくなると思う

この作品もある意味先端科学への警鐘と言えるのだろうか

全編を通して恵の愛情の深さだけがこの作品の救いだった

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手紙/東野圭吾

2006-11-01 00:58:04 | 本など_東野圭吾


加害者の家族の気持ちとは・・・・
手紙

すごく色々なことを考えるきっかけになった

まず犯罪者とその家族に対する"差別"

私は凶悪犯罪の報道に触れると
本人はともかく、その家族がかわいそうだよね、悪くないのに
と、つい考えてしまう

これは、同情をしているようで、明らかに"差別"だ
読みながらそのことに気づき、直貴の悔しさや苦しさを思い知らされ、そんな自分の思考を情けなくさえ思った

でも、途中で語られる直貴の勤め先の社長の言葉

・差別はね、当然なんだよ。
・犯罪者やそれに近い人間を排除するするというのは、しごくまっとうな行為なんだ。
・我々は君のことを差別しなきゃならんのだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる―すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね

等等・・・

これらの言葉に衝撃を受け、何度も何度も読み返してしまった
確かに私を初めとして世の中の人は無意識に彼ら(犯罪者の家族)に対して差別意識をもっている

それは間違いじゃないってこと?
堂々と差別しちゃっていいの?
いや、そういうわけではないだろう
この社長はこういう言葉を以って、直貴に世の中建前論ばかりではない、という、誰も言えなかった事を伝えているだけなんだろう
これこそが社長の優しさなのだ

そんな考えが頭の中で入り乱れ、自分の本音がよくわからなくなってしまった
この物語で作者が一番言いたかったことはこの社長の言葉なのではないだろうか

主人公直貴は、読むのが辛くなるほどに"犯罪者の弟"ということで不当な扱いを受けつづける

バンドメンバーとしてのデビュー
飲食店でのバイト
就職先での希望の職場
愛する人との結婚

上手く行きかけると、必ず最後には"刑務所の兄"の存在が彼の夢を阻む
それの繰り返し

確かに気の毒ではあるけれど、誰だって、建前では、悪いのはお兄さんで本人じゃないんだから・・・と思いつつも、できれば関わりたくないと彼のことを遠ざけしまのも当然のことだと思う

大声で、「加害者の家族も差別されて当然だ!」と言うつもりは無い
それでも、社長の言葉のように
犯罪者の家族も差別されて辛い目に遭うのは当然だ、だから家族をそんな目に遭わせたくなければ犯罪者にならないことだ
という考え方はある意味で犯罪の抑止力になるのかも・・・・と思った

そして、もう1つ感じたのが、タイトルにもなっている"手紙"の持つ力
私自身は自意識過剰で臆病なので、自分から手紙を出しても相手から返事が来なければ多分それきりにしてしまう
自分からの手紙を相手が疎んじているかもしれない、なんて思った瞬間にそれまでのやり取りを全て"無かったこと"にしてしまいたくなる

でも、この作品では「迷惑がられても手紙を送りつづけること」という兄の行為が最後の最後に実を結ぶ
(途中までは、確かに兄と弟の唯一のつながりは手紙であるけれど、タイトルにするほどの意味があるのだろうか、と思っていたけれど・・・・・)
彼の場合は、"迷惑がられている"という自覚がなかったし、現実はもっと厳しいのかもしれないけれど、直貴が被害者の家族に逢い、兄の手紙を読んだあたりから涙が出て仕方なかった

色々考えさせられることの多い作品だった
時間がたってから読み直したら、また違う感想を持つかもしれない


宿命/東野圭吾

2006-10-19 05:11:39 | 本など_東野圭吾

私が初めて読んだ東野圭吾の作品(多分)
宿命

  ★お詫び
    ラスト10ページで明らかにされる「宿命」に言及しています
    特に未読の方はご注意ください

先日「分身」を読んでこの作品のことを思い出し、久しぶりに手に取った
読後の余韻や、物語のアウトラインは覚えているものの、細かい部分の記憶は朧気になっていたので初めて読んだ時と同じように一気に読んでしまった

以前は結末のわかっているミステリーをもう一度読んでも面白くない、と思っていたけれど、特にこの作品のように人間描写やドラマ的な部分が優れた作品は何度読んでもいろいろな方向から楽しむことが出来るし、初めて読んだ時には気づかなかったちょっとした伏線を見つけたりすることもあるので、最近では気に入った作品は、時間がたってから再読することが多くなっている

10年前の転落事故、UR電算新社長の殺害、などの事件を絡めつつ、物語の本質はラスト10ページに明らかにされる"宿命"

私が購入した文庫の帯には「タイトルに込められた真の意味。それは最後の10ページまでわからないのです・・・。」なんて書いてあるが、まさに最後の最後にその「真相」が明らかにされ、かなりの衝撃を受ける
そしてさらに、本当の最後の1行の二人のやり取りで、ふっと緊張が解け、その余韻がず~~~~っと心に残る

全ての謎が解け、相手のことが気になって仕方なかった理由も明らかになった時、ここの会話での言葉は、"宿敵"としての相手ではなく、やっと解り合えた兄弟に対するものだ

今回再読して初めて読んだ時のこの感覚を鮮明に思い出した

もちろん「宿命」というタイトルには、この二人の関係以外にも様々な要素が含まれている

先端医学の領域に踏み込んでしまった瓜生一族の宿命
「糸」という表現に象徴されていた、美佐子親子と瓜生親子の宿命
愛し合っていながらも別れなければいけなかった上に、宿敵の妻として再会することになってしまった勇作と美佐子の宿命

考えようによっては「出来すぎ」感に溢れてしまいそうな設定を「宿命」として違和感なくぐいぐい読ませるのは東野圭吾作品ならでは、だろう

WOWOWでドラマ化され、DVDも出ているらしい
一度観てみたい
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分身/東野圭吾

2006-10-14 00:05:46 | 本など_東野圭吾


先端医療を扱った長編サスペンス
分身

★お断り
  決定的な言葉を書くのは極力避けましたが
  かなり話の本筋に触れてしまっています
  未読の方は、このReviewは危険です
  ご承知おきください

"鞠子の章"と"双葉の章"が交互に繰り返され、本人達の視点で少しずつ事実が明らかになり話が進んで行く

良くある手法だけれど、私はこのタイプが結構好き
鞠子は知っているけど、双葉は知らない事実
そしてその逆・・・
両方の事情と、両方の心情をわかっていて読み進めるのはじれったくもあるが、少しずつ二人が同じ1点に向かって行く様子にぐいぐい引き込まれた

ストーリー自体は、結構先が読めてしまう部分もあり、ドキドキハラハラ感は少ない
それでも、発刊されたのが1993年であることを考えると、このテーマは凄く斬新だったと思うし、きっと、その当時の私だったら二人に秘められた謎も、直截的な単語で明かされるまで予想も出来なかっただろう

とは言っても現在であっても、"その本人達"(本作品の鞠子と双葉、その二人の母と晶子)の気持ちなど到底はかりしれない
それがこの作品では、凄く切なく表現されていた

双葉を見て「気味が悪い」と言ってのける晶子
下条さんの決定的な言葉を聞いてしまい、""分身としての自分"など存在すべきではなかった"としか考えられなかった鞠子
娘の顔が自分に似てないことに拘ってしまう自身を責めていた母

私は、なんとなく
自分と同じ細胞を持つ人に対しては、自然に愛情が湧くのではないか、と思っていた
それだけに、双葉と同じように晶子の言葉にショックを受けた

でも、自分がもし、それぞれの立場になったら・・・
と、考えるてみると、むしろ東野圭吾の描いた人物達は誰も彼もが凄く現実的に思える

やっぱり下条さんの立場だったら「貴重な実験結果」だと思ってしまう
伊原の立場だったら、最先端の科学技術を使って大切な人を救いたいと思う

そして、自分の娘の顔が、夫が昔愛していた人と同じだと知ったら、それまで通りではいられない
自分が若くて美しかった頃と全く同じ姿の人物が現れたら嫌悪感を覚える

全ての人が満足できて、それを執り行う医師の科学的欲求も満たす・・・・・
そんなことは不可能だ

この作品が書かれた当時以上に、有り得ない話、では無くなっているだけに
医学上の倫理」のようなものを改めて考えさせられた

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レイクサイド/東野圭吾

2006-10-06 05:53:36 | 本など_東野圭吾


"お受験"に絡めたミステリー
文庫

今までにも何作も読んで来た東野作品とはちょっと雰囲気が違う,と、読み始めてすぐに感じた
あまりにも淡々と物語が進行するし、やたら会話が多く、登場人物の誰かの視点で語られているわけでもない

登場人物の心情描写が一切省かれていて、それぞれの会話と行動の説明だけで物語が進められている
"俊介は答えずつばを飲み込んだ"とか"彼を上目遣いに睨んだ"という動きの説明だけで、何を考えているか、という部分が一切述べられていないのだ

これまで、私が夢中になって読んできた東野作品はそれぞれの人物の心情表現が細やかで、感情移入がしやすく、また、それが東野作品の魅力だと思っていた
そういう意味では、心情描写が全くされていない本作品ではちょっと感情移入はしづらい
それでも個々の人物の個性や主人公の考えていることは、会話や行動で表現されていて、なんだか別荘という限られた空間で演じられる演劇を観客席の後ろの方で観ているような気になった

物語自体は"お受験"絡みの殺人事件
だけど、そこでは、父を思う子供の心、妻に対する不信感、夫に対する失望、同じ目的を持った親達の歪んだ信頼関係などが複雑に絡み合っていて、最後まで真相は明らかにされないままだ
私には子供がいないし、そこまで厳しい受験戦争を闘い抜いて来たわけではないので驚く部分もたくさんあったけど、でも、
こんなの有り得ない、理解できない」と、断じることはできなかった
子供が出来て、体面を気にするようになり、周りの勢いと雰囲気に流されてしまったら・・・・・愚かだとは知りつつこの親達と同じように行動してしまうだろうなぁ、と思わずにいられなかった

主人公の心情描写がないだけに、最後の謎解きに至るまでがちょっと呆気なく思われるが、それも、この作品全体に流れるのどこか冷淡な感じを演出しているように感じた(ちょっと贔屓目過ぎるかなぁ

★おまけ
実は、読みかけの本を映画館に忘れてきてしまったので、それが手元に戻って来るまでの繋ぎ、として手に取った作品(他の本より薄かったので)
読み始めたら、止まらなくなってしまってあっという間に読み終わってしまい、ちょっと繋ぎとしては足りなかったくらい
映画も観なくちゃ
でもなぁ、トヨエツだものなぁ(トヨエツちょっと苦手デス)

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しのぶセンセにサヨナラ―浪花少年探偵団・独立編/東野圭吾

2006-09-22 05:04:47 | 本など_東野圭吾


浪花少年探偵団 の続編
DVD

前作で小学校の教諭として卒業式を終え、大学に内地留学(←こんな言葉初めて聞いた)中の"しのぶセンセ"の周りで起こる事件と、"しのぶセンセ"の活躍を描いた連作

前作に続いて全編大阪弁だらけでテンポ良く物語が展開し、あっという間に読み終えた

前作は、しのぶセンセ自身が小学校の教諭だったので"子供に関わる事件"が多かったが、それに比べると、本作は、"大人の事件"が多くなっている
(いや、アダルトな事件、というわけではなく・・・・

とは言っても、中学生になった"元"教え子の、田中と原田は当たり前のように彼女の周りをうろちょろしているし、おなじみの新藤や本間も登場するし・・・で、全体の雰囲気はあまり変わらない

普通の会話が漫才のような登場人物達のやり取りを読んでいるだけで、ついつい笑ってしまうのも相変わらずで楽しい
前作のReviewで
主人公が小学校の先生じゃなかったら・・・・
この作品の魅力は半分以下になっていたことだろう
なんて書いたけれど
、"元"小学校の先生となった本作では、その魅力は保たれたままだった

しかし、私も大好きだし結構人気があるこのシリーズも、著者のあとがきによると、本作でもうおしまいらしい
理由は
作者自身がこの世界にとどまっていられなくなったから
なるほど~
わかるようなわからないような・・・・・

しのぶセンセと新藤刑事の新婚生活・・・とか、読んでみたいなぁ
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浪花少年探偵団/東野圭吾

2006-09-10 00:44:31 | 本など_東野圭吾


ユーモアたっぷりの短編連作集
文庫

謎解きや人物描写もさることながら、とにかくそのコテコテの大阪弁の会話が楽しい

そして、今まで読んだ東野作品ではあまり見られなかった子供の描写もまた素敵で、深刻な事件でありながらも全編がほのぼのとしたあたたかさにあふれている感じ

舞台が大阪じゃなくて、会話が大阪弁じゃなかったら・・・・
主人公が小学校の先生じゃなかったら・・・・
この作品の魅力は半分以下になっていたことだろうと思う

ユーモアミステリーというくくりでは、"殺人現場は雲の上"や"ウィンクで乾杯"も面白かったけれど、本作はとにかく"大阪"に対する作者の愛情のようなものが全編から感じられ、他の東野作品とはちょと違った雰囲気になっている

それだけに、東野圭吾の引き出しの多さを改めて再認識させられた
続編も是非読まなくては・・・・
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犯人のいない殺人の夜/東野 圭吾

2006-09-08 00:11:24 | 本など_東野圭吾


なんだか随分久しぶりな感じがする東野圭吾の短編集
文庫

とにかく全編ラストに驚かされる

表題作で使われている"手法"は東野作品では多用されているが、そのトリックは全く読みきれなくて、読み終わった後は「うわぁ、やられちゃったよ」と思わず声を出してしまった

表題作以外の作品は、どれもこれも犯人を憎み切れないものばかり
突き詰めれば犯人の自分勝手な思い込みだったり、ワガママだったりするのだけれど、そんな状況にまで追い込まれた心の内に思いを馳せると、一歩間違えば私自身も同じ過ちを犯してしまうかも・・・・・と、なんとなく背筋がぞっとしてしまった

ほんの小さな故意(←これを"小さな恋"と掛けている辺りも好き)、歪んだ愛情、淡い恋心、地方に染み付いた苦い思い出、気配りの欠如・・・・・ありふれた日常生活の中でも思いがけない原因が殺人の引き金となる

私も知らない内に誰かの殺意を呼び起こしてしまっていたらどうしよう・・・・なんてことまで考えてしまった
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同級生/東野圭吾

2006-06-01 00:40:37 | 本など_東野圭吾


学園ミステリ
同級生

あとがきによると東野圭吾は「教師」が嫌い(だった)らしい
確かに彼の作品に出てくる教師は「嫌なヤツ」が多い
登場人物の学生(特に男子高校生など)の、教師に対する辛らつな感情の表現は、当時の作者の心情そのものなのか、と思うと、学生時代の東野圭吾がどんな少年だったのか想像できたりして、それもちょっと面白い

私自身も決して"教師"のことが好きではなかったので、「そうそう、こういうことよく思ったなぁ」などとその心情表現にすごく親近感を持つことが多く、またその深く掘り下げられた繊細な描写にいつもハマってしまう

この作品の主人公も高校生だ
舞台も高校で,登場人物のほとんどはその学校の生徒と教師
ただ、私が高校生だった頃に比べると、作品中の高校生達はかなり大人で、ずっと多くの苦悩を抱えているようだ

他の東野作品同様に、"事件"のトリックよりも、主人公が抱えている悩みや葛藤が一つ一つ明らかにされていく展開にぐいぐい引き込まれてしまって、謎解きがおまけみたいにすら感じられた

どうしても、主人公の気持ちに入り込んでしまうので、主人公の考えのままに私の頭の中もぐるぐる引っ掻き回され、作者の術中に嵌ってしまってしまった、というのが正直なところ・・・・・

やはり作者自身が男性であるからなのか、東野さんモノについては、主人公が男性の作品の方が読み応えがあるし、好きだなぁ
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ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー- /東野圭吾

2006-05-27 09:10:37 | 本など_東野圭吾


野望と愛憎が複雑に絡み合う長編ミステリー
文庫

色々推理しながらも、作者の思う壺にはまりまくり、怪しい人物が出てくるたびに
おお、こいつが真犯人に違いない!」と思い切り振り回されてしまった

登場人物は個性的で極端

上昇志向の強い、"技術屋"
全てが自分中心の"社長令嬢"
複数の男と関係を持ち、カード地獄にはまった上に妊娠をネタに男達を脅す女性・・・・
等等

それぞれの価値観の違いが少しずつ悪い方向へと事態を導く

"妊娠騒ぎ"がコトの発端だと思わせておいて、実はもっと深い企業内問題と男女の愛憎劇が隠されている

心情として、"純愛"や"人間的な考え"を応援しがちだが、いざ、実際に自分がその立場におかれたらどうだろう?
などと考え出すとなんとなく恐ろしい

優秀だともてはやされ、目の前に出世の道が用意されたらそのレールに乗りたいと思うだろうし、自分の技術が認められたら人間より機械を信用したくなるのかもしれない

好きな人の幸せを祈りたい、と思いつつも、自分だけが不幸だ、と思い込んでしまったり、自分の欲望のためには邪魔な人間を排除したい、と思うかもしれない

そんなことを考えていると、どんなことでも殺人の動機になってしまうものだなぁ、なんて思えて仕方なかった

たまたま今、私が働いている職場はロボット開発(産業用ではないが)に携わっている
読み進めながらも、職場で"優秀な技術者"と呼ばれている人たちの顔が頭に浮かび、なんだかやけにナマナマしかった

 


殺人現場は雲の上/東野圭吾

2006-05-26 02:53:39 | 本など_東野圭吾


二人の対照的なスチュワーデスが主人公の連作
文庫

先日読んだ"ウィンクで乾杯"に続いてのユーモアミステリー(←ってこの言い方あんまり好きじゃないけど)
私はどちらかというと"重い"とか"泣ける"という東野作品が好きなので、こういう作品を読んでも"うまいなぁ"とは思うものの、"オススメ!"とは言い辛い
読み易いのは確かなので、電車の中や(舞台にあわせて)飛行機の中などで読むにはちょうど良いかも

重い作品を読んだ後だったらまた違う感想を持ったかも知れないけど、前回の作品と続けて読んだのは失敗だったかな


ウィンクで乾杯

2006-05-20 07:34:48 | 本など_東野圭吾

軽~く読める作品
文庫

主人公は玉の輿に乗ることを目指すパーティーコンパニオン
そして登場人物は宝石商の社長1族や不動産会社の親族などで、描かれているのはすごくバブリーなことばかり(発刊が1988年)

なので、2人も人が殺されるのだが(それ以外に過去に殺人、自殺が1件ずつ)全体的に軽~いタッチで話が進み気軽に読むことができた

主人公の香子が友人の死の謎を追いつつも、玉の輿に乗るために涙ぐましいほどの努力を重ねる姿もついつい苦笑してしまった

肝心の謎解きはちょっといつもの東野圭吾"らしくない"
ビートルズのテープの謎とか肖像画の犯人解明とか・・・・なんとなく「そうなんだ」程度でいつもの"爽快感"がなかった
読みやすい、という点ではよかったが、友人に勧める時の順位はあまり高くならないだろうと思うブログランキング