オベロン会ブログ

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9月の例会報告

2009-10-02 | 左り馬
日中は日差しが強く汗ばむくらいでしたが、
会が終わると時刻になるとすっかり涼しくなります。

さて、 今回の会で千葉さんは、

「伝記」をめぐる十八世紀的状況と「注釈」の効用
――『スコットランド旅行日記』と『ジョンソン伝』にみるボズウェル編集術

のタイトルでお話をして下さいました。

『スコットランド旅行日記』(The Journal of a Tour to the Hebrides, 1785)というタイトルからして、
どのような旅行記だろうと興味を抱きますが、実際に作品を紐解くと、
「旅行記」ととらえるよりも「伝記」としてとらえた方が適切だということをご指摘下さいました。

そこで、ボズウェルの「伝記」を書く際の方法論を、
『ジョンソン伝』(1791)の序文から確認したところ、
ボズウェルは「読者にジョンソンとより親密になってもらうために」、
「できるだけ正確にジョンソンの書き物」を用いることをことわっています。

たしかに、ハンドアウトで引用して下さった『ジョンソン伝』を見る限り、
ボズウェルの書きぶりは、ノートに書き留めたという会話の集積で成り立っており、
一つの物語を構築するという態度よりは、「散漫なエピソード集」と呼ぶに相応しいものです。

これは『スコットランド旅行日記』にも言えることで、
ボズウェルの場合、スコットランドの記述というより、
ジョンソンとその周囲の人々の会話から成り立っており、
あまり旅行記らしい記述ではないことが指摘されました。
ジョンソンが『スコットランド旅行記』(A Journey to the Western Islands of Scotland, 1775)で
同じ体験を綴った記述を見ると、
その土地の人物、歴史、風土などが読み取れる文章となっているのとは対照的です。
『スコットランド旅行日記』を『ジョンソン伝』の一部として読める理由がここにあります。

しかし、ボズウェルの旅行記、一番の注目点は初版(1785年10月)と
第二版(同年12月)の異同にあるといえるでしょう。
初版には見られず、第二版に付加された箇所をいくつか引用して下さいましたが、
ここからは、これまで脚注などに注目してテクストを読み解いて下さった千葉さんの独壇場です。
草稿や初版の段階で問題となった、スコットランドの有力者Alexander Macdonaldや
Edmund Burkeらをジョンソンが批判している箇所を、
第二版では書き換え、脚注で弁明を加えているのです。
興味深いことに、これらの書き換えや弁明は、
ボズウェルと同じくジョンソン・サークルに属していた
Edmond Maloneの筆によるところが大きいことを詳しく説明して下さいました。


こうなると、ジョンソン自身の語りそのものを重視したボズウェルのジョンソン像も、
様々な書き換えの中で<作られた>ものとなりますね。

いつもより若干少ない参加者でしたが、千葉さんのテクストの詳細な読みに、
一同さまざまな意見を出し合い、会は大いに盛り上がりました。
活字となった時が楽しみですね

会の後は、初めて足を向けたお店で
スコットランドとアイルランドのウイスキーで、
美味しいお酒をいただきました

千葉さん、今回もありがとうございました!

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