そらいろの日々

育児とミステリ

百万の手

2006-01-15 | 読書記録
『百万の手』畠中恵

※今更ですが思いっきりネタバレしてます
 読みたくない方はスルーお願いします

過干渉な母親と過呼吸の発作に悩む中学生・夏貴は親友の正哉を火事で失ってしまう。
途方に暮れる夏貴の耳に届いたのは、正哉の遺した携帯電話から聞こえてきた他ならぬ正哉の声。
なぜ正哉と彼の両親は死ななければならなかったのか?
夏貴は親友と共に、事件の真相を探ろうとするが…


この世にはいない親友と彼自身の死の真相を追いかける…と、最初はなかなかファンタスティックな展開ですが、どっこい途中で携帯が壊れて正哉は全然登場しなくなるし。
いつの間にやらいけ好かない義父(“おっさん”かっこいいよ!)が探偵の相棒になってるし。
話の筋も謎の究明も、どんどん予想していたような内容とはかけ離れていき、すごくはらはらどきどきな展開。
おもしろくて、一気に読んじゃいました。

まあ、不妊治療、受精卵流用、果てはクローン人間まで、若干大風呂敷広げすぎなんじゃない?という感じも受けましたが。
結局、柴原先生は掴みどころのないままいなくなっちゃったし。
赤木や院長くらいまでならまだ動機もわかるのですが、大島・小泉までが院長の計画に手を貸したのは納得いかないし。
(院長への陶酔や患者への責任感だけで、自分が危険を冒してまで他人を傷つけたりはしないと思うのですよ。彼らには彼らの生活、人生があるんだから、それを危険にさらしてまでいい年した大人が冒険するかな~。人間は自分の身が一番かわいいんじゃないかと)

親友の正哉にしか自分の居場所がなかった主人公の夏貴が、母の婚約者“おっさん”と最初は衝突しながらもだんだん心の距離を縮めていき、親友の不在を受け止め、自らの出生の秘密も乗り越え、最後には母親との関係を見つめなおす勇気も持てた。
ミステリーとしての謎そのものよりも、夏貴の心の揺れ動きや成長がおもしろかったです。
『とっても不幸な幸運』といい、畠中さんの現代を舞台にした作品は、一見ライトなようでいて実はヘビーですね。
物語のラストは、終わりではなくて始まり。
願わくは、夏貴の新しい生活が、ありふれたささやかな幸福で満ちたものでありますように。