我が家の家宝と言っても良いぐらいのタンスを持っている。
長さは一間半という尺で、メートル法でいうと一間が180㎝だから、それに半つまり90㎝を足すと270㎝の長さになる。
種類は水屋ということなので食器棚である。
上下が二つに分かれる仕組みになっているので巨大に見えても窓からスイっと入った記憶がある。
それは引き戸や引き出しを全て外しておけば軽い物だ。
材質はケヤキで上に漆を塗って在り鋲が打ち込んである。
元は京都の老舗料亭に在ったものだと骨董屋さんから聞いている。
私の手元に来てからだけでも38年になる。
購入した時点でも100年経っていると聞いている。
最近引き戸の取手が剥がれ始めて邪魔で仕方がなかった。
そして多分当時は在ったはずの引き戸の取手が一つ無くなっている。
それらを直そうと思った。
剝がれかけた取手を見ると以前にもその兆候があったようで一部を釘で打ち付けてあった。
「じゃあ元のように素晴らしい細工にしなくてもいいや」と単純に即決した。
まずは紙で取手をサイズ通りに作ってみた。
簡単にできた。
それを金属で作るには、と考えるとできるだけ薄い金属にしようと思った。
今までの物と同じ銅を使うことにした。
銅は柔らかい金属で、しかも極薄い物を使用したのでカッターで何度も擦って切った。
内側になる物は少し長めに切って先端を折り曲げて外側と接着した。
半田ではなく接着剤だ。
そしてこともあろうに木の扉に接着した。
少しでも浮いていると引き違いの扉に接触してしまうから浮かせられない。
そして見た目がよくて細かな細工が要らないから。
本来はもっと厚い金属を使い半田で留めて一ヶ所の釘穴を作ってそこに釘を打ち込むらしい。
そうすれば他の扉の邪魔にはならないし見た目も美しい。
さて出来上がってみると銅板らしくピカピカなのだ。
長年使いこんだくすんだ色になるまで相当な時間が必要だ。
だがそれもまた良しとする。
丸一日接着のために扉を2枚外しておいたのだが、そうしておくとネコのマロ君が中に入ってしまうと亡くなっても、まだなお気が気ではなかった。