クワババの日記

いろいろな事に興味深々

さんまの詩

2008年10月17日 | Weblog
<秋風よ
  情(こころ)あらば伝えてよ
         ----男ありて
  今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり
  さんまを食らいて
  思いにふける と。

さんま、さんま
  そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて
  さんまを食うはその男がふる里のならひなり。
  そのならひをあやしみなつかしみて女は
  いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかいけむ。
  あはれ、人に捨てられんとする人妻と
  妻に背かれたる男と食卓にむかへば、
  愛うすき父を持ちし女の児は
  小さき箸をあやつりなやみつつ
  父ならぬ男にさんまの腸(はらわた)を
           くれむと言ふにあらずや。
あはれ ・秋風よ
 汝(なれ)こそは見つらめ
 世のつねならぬかの団欒(まどゐ)を。
いかに ・秋風よ
いとせめて
証(あかし)せよ かの一ときの団欒(まどゐ)
                   ゆめに非ずと。

あはれ ・秋風よ
 情あらば伝へてよ、
 夫を失はざりし妻と
 父を失はざりし幼児とに伝へてよ
          ――男ありて
 今日の夕餉に ひとり
 さんまを食ひて
 涙をながす と。

さんま、さんま、
 さんま苦いか塩(しよ)つぱいか。
 そが上に熱き涙をしたたらせて
 さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
 あはれ ・げにそは問はまほしくをかし。
                      佐藤春夫
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10代の頃教えてもらった佐藤春夫の「さんまの詩」急に懐かしく思い出しました。
武蔵野の面影が残る道を暗誦しながら歩いた日、いろいろなことを教えてくれた人は今何処に居るのかな~秋が深まっておセンチになったお婆さんです。
                    
ソースはSakura先生にお借りしました  ID=asc1017