紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

11 抱っこ

2023-02-19 07:22:02 | 著書・夢幻★すみれ五年生

「千代おばぁさん」
「おや、すみれちゃん、こんなところで会うとは。さっきの子たちは同級生かい」
「そう」
「なんか、すみれちゃんのこと言っていたようだが」
「うん、なんでもない」
「そうかい。なんでもなければいいけど。何かあったら、この千代おばぁさんに話しておくれ。なぁんでも聴くよ」
「……」
「さっきの子供たちは、元気が有り余っているような子たちだね」
「……」
「おや、泣いているのかい。どうした?」
「千代おばぁさん」
「どうした、すみれちゃん」
「あたし、……」
「うん?……言いたくなかったらいいよ。さ、おいで、千代おばぁさんに抱かれてみなさい」
「……」
「すみれちゃん、抱っこだ。よしよし、抱っこだ。大きいね。はて、この千代おばぁさんが、小さいのかな。そうだろうね、腰が曲がっているし、その分地面に近いから。良いこともあるんだよ。この間なんか、散歩の途中で十円硬貨を見つけたんだ」
「拾ったの?」
「うん、拾ったよ。手にとって見たらね、それがその、ビール瓶の蓋が車にでも轢かれたのか、ペチャンコになったものだったよ。残念でした」
「千代おばぁさんったら」
「笑ったね。すみれちゃんは、笑った顔が一番可愛いよ」
「ありがとう、千代おばぁさん」



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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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