「本日も読書」

読書と映画の感想。ジャンル無関係、コミック多いけどたまに活字も。

アイザイア・バーリン

2006年07月22日 | book
自由主義学者アイザイア・バーリンの伝記。
本書の作家でインタビュアーが私の大好きなマイケル・イグナティエフだったので6000円もしたけど購入!

ユダヤ人としてロシアに生まれ、しかし宗教を信じず、共産主義を批判した自由主義の学者。リベラルであると言いながら、保守が居心地よさそうに見える人。
それだけで彼のバックボーンが複雑だとわかる。
東か西か、左か右か、そんな単純に割り切れない。
彼自身が自分はどうあるべきか、途中まで迷っていたんだから当然かもしれない。

本書に描かれているアイザイア・バーリンの姿はなんというか「偉大な学者って感じがしないなあ」というものだった。
それはまさしく等身大のアイザイア・バーリンを描くことに成功しているということなのかもしれない。
彼の活躍は第二次世界大戦頃から目立ったものになっていく。
ナチスドイツ、ユダヤ人虐殺、イスラエルの建国、スターリン下のソ連…
彼の行動は本書でイグナティエフが指摘するとおり、ときに運に恵まれ、ときに積極的な関与とは思えず、これでは誤解も受けるだろう、というものだ。
彼は何者なのか。
彼はイスラエルの建国のためにテロがあったことを忘れなかった。
ユダヤ人にイギリス人が殺されたことを忘れなかった(私もこれを読むまで知らなかったけど、ユダヤ人のテロリストによってホテルが爆破されて90人ものイギリス人が犠牲になっている)。

アイザイア・バーリンはそのために、イスラエルの首相(大統領だったかな?)との握手を拒否した。彼はユダヤ人であったが、そうした。
彼の親族はナチスによって失われたがアイヒマン裁判のあとにハンナ・アーレントを批判する。
アインシュタインと話しても彼はアインシュタインを崇拝しない。
ケネディ大統領と出会い、歴史の瞬間(ケネディはアイザイアにロシア情勢について意見を聞く。実はそのときアイザイアも周囲の人も知らなかったが、キューバ危機の始まりだった)に立ち会う。しかしケネディの死で取り乱すことはなかった。
彼のすごいところはそういうところかもしれない。

相手が「偉大」とされている相手でもそれに呑まれない。

そう思うと人妻をモノにしてしまう、彼の行動は大胆ではあっても「胆力」みたいなのはたしかにあるのかもしれない。
もちろん心の中はビビッて仕方ないというときでも、少なくとも表面にそれを出さない。

例えば彼はラジオ放送で自分の話が良いものであったか、しきりに心配している。
彼は決して攻撃的でも積極的でもないように見える。むしろ用心深く、慎重な性格に見える。ときにいろんな人から攻撃されて困惑している。
なのに「お!?」と思えることができるのだから、こういう人は「いざ」というときに強いのかもしれない。
オックスフォードのウルフソン・カレッジの設立はある意味そんな「いざ」というときだったのかもしれない。
もっと早く生まれていれば、第二次世界大戦でもっと重い役割を、それは決定的に歴史に影響を与えたのではないだろうか。
例えば今の中東問題が根底から変わっていたかもしれない。
東西冷戦もまたそうかもしれない。

アイザイア・バーリン

みすず書房

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