「芥川竜之介書簡集」石割透 編 2009/10 読了 ☆☆☆☆
35年あまりの生涯で寄せた書簡は1800通を超えるといわれているらしい。ここでは185が紹介され芥川愛読者には興味深いかもしれないが、高度すぎて内容についていけない部分が多々あり。友人との書簡では、頻繁に英語がつかわれ、和歌もたくさん詠われているのには驚かされた。また西洋文学にくわしく当時の文学者たち(夏目漱石、久米正雄、室生犀星、与謝野鉄幹・晶子、堀辰雄、佐藤春夫、谷崎潤一郎、泉鏡花、斎藤茂吉、広津和郎、他)との交流がひろかったことがうかがい知れる。特に夏目漱石に認められたことや亡くなった時の書簡が印象的だった。
口語文主体だが、妻になる前の文にあてた書簡はわかりやすく芥川の倫理観がかいまみえる。
「~(勉強の)成績は人のきめるものです。人には自分のほんとうの価値は中々わかりません。ですから成績なんぞをあてにするのはつまらない人間のする事です。世間には金と世間の評判のよい事とばかり大事にする人が沢山あります。又実際金持や家族がえばっています。しかし金持ちのえばれるのは金がえばるのです。その人間に価値があるからではありません。えばっている華族や金持ちが卑しいように華族や金持ちをありがたる人間も卑しい人間です。そんな人間の真似をしてはいけません。~」
「~三人で停車場へ行く途中で、女の人がすれちがう時に。相手を偸むようにして見る話をしたでしょう。あの時文ちゃんがそうしないと云ったのが又うれしかったのです。これは皆世間の人から見たら、つまらない事をうれしがっていると思うような事かも知れません。しかしそう思うだけ、世間の方が堕落しているのです。人間の価うちはつまらない事で一番よくわかります。大きな事になると、誰でも考えてやりますから、そう露骨に下等さが見えすきません。しかしつまらない事になると、別に考えを使わずにやります。云いかえると、自然にやります。そこでいくら隠そうとしても、その人の価うちが知らず知らず外へ出てしまうのです。だからその人の価うちがわかると云う点から云えばつまらない事は、反ってつまらない事ではありません。僕は今までにそう云うつまらない事から曝露される男の人や女の人の下等さを、いやになる程見て来ました。そうしてそう云う人間が、鼻につく程しみじみいやになってしまいました。世間には実際そんな人間がうじゃうじゃ集まっているのです。お互いに利巧ぶらず、えらがらず、静に幸福にくらしていきましょう。そうする事が出来たら、人間としてどの位高等だかわりません。~」
「恋の蛍 山崎富栄と太宰治」松本侑子 2009/10 読む
「死ぬ気で恋愛してみないか」「先生を、愛してしまいました」昭和23年、太宰と入水した山崎富栄の知られざる生涯。幸福な少女期、戦争の悲劇、太宰との恋、情死の謎とスキャンダルを徹底した取材から描く「愛」の評伝小説。(「BOOK」データベースより)
読み始めて100ページで山崎富栄にたいして、いかに誤ったイメージをもっていたかを思い知らさせられる。事件後の臼井吉見ら知識人たちの「~知能も低く、これという魅力もない女だった」、「~酒場女との無理心中だった」、「~山崎が太宰の首を絞めて殺したあとで一緒に入水したものと推定された」に類するような記事が報じられたからか。
富栄が美容洋裁学校校長の令嬢として父親から美容師として人間として鍛えられ、心の温かさ、優雅さ、知性や教養をみにつけた辛い過去もあるが明るくて清楚な美人であったことがすぐにわかる。
35年あまりの生涯で寄せた書簡は1800通を超えるといわれているらしい。ここでは185が紹介され芥川愛読者には興味深いかもしれないが、高度すぎて内容についていけない部分が多々あり。友人との書簡では、頻繁に英語がつかわれ、和歌もたくさん詠われているのには驚かされた。また西洋文学にくわしく当時の文学者たち(夏目漱石、久米正雄、室生犀星、与謝野鉄幹・晶子、堀辰雄、佐藤春夫、谷崎潤一郎、泉鏡花、斎藤茂吉、広津和郎、他)との交流がひろかったことがうかがい知れる。特に夏目漱石に認められたことや亡くなった時の書簡が印象的だった。
口語文主体だが、妻になる前の文にあてた書簡はわかりやすく芥川の倫理観がかいまみえる。
「~(勉強の)成績は人のきめるものです。人には自分のほんとうの価値は中々わかりません。ですから成績なんぞをあてにするのはつまらない人間のする事です。世間には金と世間の評判のよい事とばかり大事にする人が沢山あります。又実際金持や家族がえばっています。しかし金持ちのえばれるのは金がえばるのです。その人間に価値があるからではありません。えばっている華族や金持ちが卑しいように華族や金持ちをありがたる人間も卑しい人間です。そんな人間の真似をしてはいけません。~」
「~三人で停車場へ行く途中で、女の人がすれちがう時に。相手を偸むようにして見る話をしたでしょう。あの時文ちゃんがそうしないと云ったのが又うれしかったのです。これは皆世間の人から見たら、つまらない事をうれしがっていると思うような事かも知れません。しかしそう思うだけ、世間の方が堕落しているのです。人間の価うちはつまらない事で一番よくわかります。大きな事になると、誰でも考えてやりますから、そう露骨に下等さが見えすきません。しかしつまらない事になると、別に考えを使わずにやります。云いかえると、自然にやります。そこでいくら隠そうとしても、その人の価うちが知らず知らず外へ出てしまうのです。だからその人の価うちがわかると云う点から云えばつまらない事は、反ってつまらない事ではありません。僕は今までにそう云うつまらない事から曝露される男の人や女の人の下等さを、いやになる程見て来ました。そうしてそう云う人間が、鼻につく程しみじみいやになってしまいました。世間には実際そんな人間がうじゃうじゃ集まっているのです。お互いに利巧ぶらず、えらがらず、静に幸福にくらしていきましょう。そうする事が出来たら、人間としてどの位高等だかわりません。~」
「恋の蛍 山崎富栄と太宰治」松本侑子 2009/10 読む
「死ぬ気で恋愛してみないか」「先生を、愛してしまいました」昭和23年、太宰と入水した山崎富栄の知られざる生涯。幸福な少女期、戦争の悲劇、太宰との恋、情死の謎とスキャンダルを徹底した取材から描く「愛」の評伝小説。(「BOOK」データベースより)
読み始めて100ページで山崎富栄にたいして、いかに誤ったイメージをもっていたかを思い知らさせられる。事件後の臼井吉見ら知識人たちの「~知能も低く、これという魅力もない女だった」、「~酒場女との無理心中だった」、「~山崎が太宰の首を絞めて殺したあとで一緒に入水したものと推定された」に類するような記事が報じられたからか。
富栄が美容洋裁学校校長の令嬢として父親から美容師として人間として鍛えられ、心の温かさ、優雅さ、知性や教養をみにつけた辛い過去もあるが明るくて清楚な美人であったことがすぐにわかる。