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師走の模型屋 完結編

趣味人(シュミット)のブログへ、ようこそいらっしゃいました。

全国ニュースも天気予報に差し掛かり、弁当を食べ終わった慎ちゃんは店に戻るよう、おばちゃんから促された。

居間に残った私は、こたつの側にあった「世界で一番美しいのはだあれ?」とおばちゃんが毎日問いかけているものを借りて、半開きのドアに差し込み 、老夫婦の間から出入り口の方が見えるよう角度を調整した。


と、引き戸がカラカラとゆっくり開く音が聞こえた。客の開け方にしては、静か過ぎる。

とうとう来たか!?

店内を恐る恐る見回しながら、防寒着に膨れた中年の女性と、その後から刺す様な目付きを持った少年が入ってきた。

何故こんなところに来なくちゃあかんの?と言わんばかりのブンむくれ面が左右反対に見てとれた。

慎ちゃんは店の通路の端に丸椅子を一杯まで寄せ、二人が進み入れるよう脇にどいた。顔を上げず小刻みに震えている。

膨れ面のキツネザルの後ろには、真っ赤な顔をして慎ちゃんを睨みつけ、今にも噛みつかんばかりの"猛"が、ズボンのポケットに両手を突っ込み凄んでみせていた。

開口一番「うちん子は万引きしとらんて言いよるです!」

「奥さん、こんばんはぐらい言いなっせ!」

店番合格者は店次長に昇格した。

「なんば盗ったとですか? ここん品もんですか?言い掛かりもよかとこです!」

店主は鼻息荒いキツネザルの言い分を黙って聞いていた。

「猛、あんたも言いなっせ!盗っとらんて!」

タバコ臭い息で慎ちゃんを睨みつけながら、吐いて捨てるように言った。

「おら、万引きしとらんばい。こやつじゃなかや。」
と、うつむき震える慎ちゃんをアゴでしゃくった。

抑留体験者はそれを待ち構えていた。
吠えるキツネザルは、どうでもよかった。

「猛くんとかいうたね。なんでこん子が万引きしたて、知っとると?」

「………。」何も答えず。

「あんたが慎ちゃんに万引きせろて、命令したつだろ?」

「言うとらん。そぎゃんこつ、知らんばい。慎、おら 言うとらんねぇ!」
ドスを利かせて慎ちゃんに詰め寄る。

「奥さん、猛君がタバコ喫いよると、知っとるね。」店主が糾す。

「……家ん中では喫うてよかて黙認しとります。外じゃあからんて」

「なんば喫いよるかわかりますか?」

「ラッキースターです。私が買うてやりよります。」

「慎ちゃん、銀行ん駐輪場で拾うてきた吸い殻ば出して。」

慎ちゃんは震える手で、茶封筒から五本のタバコの吸い殻を、裏返しの包装紙の上に落とした。暗い中、懐中電灯の灯りを頼りに這いつくばって集めてきたものだった。

はたして、ラッキースターの箔押し英字ロゴが入ったフィルターが二本混じっていた。

「こら今さっき拾うてきたとです。猛君は、そこにいっときおらした証拠です。」

「あんたは、ゲームセンターに居ったて言うたろ?」
息子をキッと睨み、キツネザルはなおも食ってかかる。

「ご主人、タバコは誰でん喫いよる。うちん子が喫うたて、何して分かっと?」

「ほんなら、警察に一緒に行きましょか。フィルターには唇の皮膚の付着しとる。唾液も吸うとる。DNA鑑定してもらいまっしょか。」

「あんた、ほんなこつあすこに居ったつね!」

目が泳ぎ出した猛に口撃目標を変え、猛然と食ってかかるキツネザル。

「奥さん、万引きしたつは慎ちゃんたい。それば強要したつがあんたが産んだバカ息子たい!」店次長からもう一つ格上げされた。

「お父さんは何して来てもらえんだったつ?」

店長の座が危ないおじちゃんは、相変わらず落ち着いた口調で問いかける。

「お父さんは仕事です。もうとっくに終わっとるとばってん、つぎん仕事はパチンコ打ちです。」

もう何もかも諦めた様子で、ガックリ肩を落とし、ボソボソと話した。

「猛君!プラモデル作ったこつあるね?」
真っ赤から「 警察 」と聞いて青ざめた顔色に変わりはしたが、慎ちゃんを睨みつける猛に店主は声をかけた。

「作ったこつ無か!」

まだ救える。答えたということは。

「ここにあっとで、欲しかとばどれでんよかけん、持って行きなっせ!」

猛はパッと顔を上げた。良心の呵責に耐えきれず、ポケットに両手を突っ込んだまま嗚咽しはじめた。『慎ちゃん、ごめん』まだ口には出せず、胸の中だけで叫んだ。

「これが欲しかっただろ?」

箱はひしゃげた跡はあるが、最終点検済みのプラモデルを、店長候補者が猛の手をポケットから引っ張り出して持たせた。

「今日はなんも無かったばい。万引きてろも、無かったばい。包んでやっとはお金ばもろてから。裸んまんまはプレゼントしたつたい。クリスマスだけん、慎ちゃんに持たせてやろうて思たと。猛君がきたけん、そん手間は省けたたい。作り方の分からんなら、慎ちゃんに手伝うてもらいなっせ!」

店番不合格から一気に名誉会長に登りつめた。

ロボットは猛の潤滑剤でところどころ輝きを放ち、強さを戻そうとしていた。

「お母さん、タバコはやめさせなっせ。
学校にもどこにも言わんですけん。お互い約束しまっしゅうで。」

息子の涙に輪をかけて鼻水混じりの涙を流す母親が、「ありがとうございます。」の言葉を口にした。

「慎ちゃん、猛を許してね。友達になってちょうだいね。」母親らしい優しい口調は、ニセモノでもなんでも無かった。

店主はいきなり振り返り、居間に突入して来た。間抜けに手鏡をもつ私を見てニヤっとし、弁当の入っていたビニール袋を取り、サンダルを2、3回踏み直して店に降り、猛に渡した。

「これに入れて行きなっせ。」

深々と頭を下げ、親子はアーケードのほうに帰って行き、慎ちゃんも電話を借りて「 模型屋にいるから心配しないで。すぐ帰るから。」と、普通の高校生に戻っていた。

出番が無かった私はというと、帰ってから晩酌をするか、メシを先に食ったので今日は止めとこうか悩みながら、ロングボウを三つ張り合って予約し、店を後にした。

外は寒い!アーケードで絡まれそうになったサンタの三角帽を被った酔っ払いサラリーマンをサイドステップで交わし、マイカーの待つ駐車場へ脚をはやめた。

遠く…♪

背中に……♪

ジングルベルを浴びながら………☆



( 完 )


( 画像と本文は関係ありません )



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