※前回の琉球の記事はこちら(23節・水戸戦)
※前回の横浜FCの記事はこちら(26節・福岡戦)
今節を前に一気に3選手が移籍となった琉球。
前節・長崎戦でようやく連敗を止める逆転勝利を挙げただけに、冷水をぶっかけられたような心境ではなかったでしょうか。
その内訳も、長崎戦で決勝ゴールを挙げた和田(鹿児島)と、センターバックのレギュラーだった増谷(岡山)と貴重な面子が並んでいます。
そしてチーム得点王でリーグ全体でも2位の鈴木がセレッソへ移籍というのが最大の悲報となり、沖縄県のサッカーファンにとってはこの度の小野獲得とどちらが重大なのか、という事を考えさせられます。
小野の他は岐阜から風間宏矢をレンタルで獲得し、現所属の宏樹とともに風間兄弟が揃い踏みとなったり、ブラジル人の若手ハモンもレンタルで獲得したりという補強。
横浜FCはというと、トップ下には売り出し中の斉藤光毅ではなく、齊藤功佑を選択。
水曜の天皇杯でフル出場したのは齊藤功の方でありましたが、この日も齊藤功がスタメンで、ベンチに置いたのは斉藤光でした。
沖縄という特殊な気候のため斉藤光に無理をさせないという采配だったのか、あるいは天皇杯でゴールを挙げた齊藤功を起用してみたくなったのか。
その齊藤功はリーグ戦では実に9試合ぶりのスタメンで、ベンチにも入れない試合ばかりだったので、天皇杯を考えなければ本当に突然の起用という印象。
ボール支配を好むチーム同士の対戦で、横浜FCは今季途中からそのサッカーに挑み始めたのですが、その練度は琉球に劣らず。
当初はポゼッションスタイルにありがちな3トップでしたが、現在は4-2-3-1の形に落ち着いた模様。
期せずしてミラーゲームという形になったのが、経験豊富な選手が揃う横浜FCにとって追い風となり、序盤からゲームを支配していきます。
伊野波がCBに定着し田代がボランチに回った事で、田代がCB2人の間に降りてきてサイドバックが前に出る、所謂「逆丁の字型」のビルドアップをスムーズに形成。
GKの南・一列前の松井とともに、琉球のプレスをかわしていきます。
横浜FCの先制点は前半10分でした。
右サイドからのコーナーキック、キッカー松井はショートコーナーで北爪→齊藤功と繋ぎ、中央から放たれた齊藤功のミドルシュートはGKカルバハルも反応できない程の美しい軌道で右ゴールポストをかすめてネットに突き刺さりました。
これと前後して、8分にロングスローをエリア内でイバが胸で落とし、そのボールに齊藤功が走り込むもクリアされた場面。
11分に中盤で齊藤功がボール奪取に成功し、その後イバ→松尾と渡り、松尾がカットインしてシュートを放つも左に外れた場面。
久々の出場とは思えないぐらい積極的なプレーを見せる齊藤功、先日の天皇杯での得点で吹っ切れたのか、あるいは何かを掴んだのか。
その後19分、琉球のフリーキックからの2次攻撃。
自陣からの風間宏樹のロングフィードに、セットプレイで上がっていたCBの西河がトラップしエリア内に入った後松尾、カルフィン・ヨン・アピンと競り合い。
このボールがゴール方向にこぼれると、鈴木の後を受けての1トップで出場の上門が走り込み、GK南に触れられる前にコースを変えるシュートをゴールに入れます。
これで同点となりましたが、その直後の22分。
琉球陣内でイバがプレスバックしてボールを奪い、これを拾った齊藤功がエリア内左へスルーパス。
走り込んだ松尾に対しGKカルバハルも飛び出しますが、松尾は落ち着いて浮かせたシュートで彼を抜きゴールゲット、再びリードを取った横浜FC。
その後もゲームをコントロールする横浜FC、琉球のプレスを落ち着いたビルドアップでかわし、両SBが上がってのサイド攻撃を軸にしながら無理にクロスを上げずにボールキープ。
一方の琉球も、マイボールになると相手の隙を伺うべくパスワークを軸に攻めますが、リードされている以上「ボールを持たされている」状況にしか映らず。
特に前半37~40分の間、ずっとボールを保持しているものの中々アタッキングサードまで進めないもどかしい時間が続いていました。
そんな時間も40分、琉球・上里のミドルシュートで終わりを告げました(GK南がキャッチ)が、前半終了間際にまたスコアが動きます。
年齢が近い齊藤功・松尾のゴールに発奮したのか、中山がエリア手前中央からミドルシュート。
外側からカーブしてゴール右隅を捉える、これまた1点目同様に美しいシュートでネットに突き刺さり、前半で3得点を挙げた横浜FC。
後半もこの流れは変わらず、ボール支配で2点リードを存分に生かす試合運びを見せる横浜FC。
対する琉球は攻撃チャンスを得ても、縦パスの部分で選手に合わないミスが目立ち、リズムを掴めず時間を浪費していきます。
むしろ齊藤功がワントラップでDFの裏をとってエリア内からシュートを放つ(後半6分)、イバの直接フリーキックがバーを直撃する(19分)など、横浜FC側に追加点が生まれそうな空気ばかりであった後半の20分間。
琉球はそんな状況を変えるべく、ここで小野が投入されます(越智と交代)。
この日の琉球のホーム・タピック県総ひやごんスタジアムには、今季最多記録大幅更新となる1万2千人を超える観衆を集めていましたが、それを齎した最大要因がこの小野と言ってもいいぐらいの大歓声が鳴り響きました。
「小野投入で流れが変わった」というのがこの試合の戦評の一つですが、厳密に言えば後半29分、風間宏樹→ハモンの交代からでしょうか。
投入直後はポジションが曖昧だった小野が、風間宏樹の後を受けてボランチの一角に収まった事で、得意のパスが猛威を振るうようになりました。(ハモンは右サイドハーフに入る)
一方横浜FCは、小野投入の直後からビルドアップがCB・ドイスボランチによる四角形への変更が目立ち始めます。
GK南もこれ以降はロングフィードを送るシーンが増えるなど、緻密なビルドアップが無くなりつつありました。
小野に対するリスペクトの表れかもしれませんが、この消極的ともとれる姿勢がこの後の琉球のゲーム支配に一役買ったのだと思われます。
小野はショートパスを繋ぎつつも、一発のサイドチェンジのフィードで相手守備を崩さんとする司令塔らしさを存分に発揮します。
それにつられたのか、上里もそのような一発のパスを多用してチャンスメイク。
これにより横浜FCを押し込み一方的にペースを握る事に成功します。
最も惜しかったのが44分、小野の拾ったボールを上里が相手DF裏へロングパス。
これを上原(富所と交代で出場)がエリア内左で収める事に成功し、落とされたボールを風間宏矢がシュート。
しかしこれはGK南がセーブし、詰めにいった小野がオフサイドを取られ得点ならず。
主導権を握りながらも無得点に終わったのは、やはり鈴木を失ったのが大きいと思いました。
サイドチェンジを多用し横浜FCの目線を振っても、そこからサイドハーフのハモン・風間宏矢がカットインしてのシュートという、守備を固められている状況では苦しい形でシュートを撃つしかなかった。
上原が交代出場してから、ようやくFWにターゲットが出来てポストプレイという攻め手が増えましたが……
スコア上は1-3ながら、勝った横浜FC側も後半の試合運びに課題を残す事となった内容でした。
「レジェンドへのリスペクト」は、三浦・中村を擁しているクラブらしく微笑ましい光景でもありましたが、それだけでは勝ち抜く事が出来ないのは両者を起用して敗れた天皇杯3回戦で経験した事でもあります。
激しい昇格争いの一翼を担う事が予想される今後、非情な気持ちで勝ちを重ねていきたい所でしょう。