表面だけを見れば、残留争い組の松本が、強豪・浦和相手に金星を挙げた。
そんな試合結果になりましたが、果たして現在の浦和はそれに値するのかどうか。
攻撃の中心であった前田は海外移籍で21節以降登録抹消。
切り札として期待された助っ人レアンドロ・ペレイラは、戦術面で折り合いがつかず16節以降スタメン出場無し→広島に移籍。
ただでさえ低い攻撃力に、手詰まり感を増幅させるかのような夏の移籍期間を過ごした松本。
代役としてJ2・山形から阪野を獲得、陣容は整えたものの阪野自身は未だ結果を出せておらずと、苦しい台所事情が続きます。
そんな状況下での浦和のホーム・埼玉スタジアムでの試合とあってはかなり厳しいものでしたでしょうが、この日の観衆は金曜という事もあり2万7千人台と平凡。
全方位アウェイのような雰囲気とはいかなかった事が幸いしたでしょうか。
それでも試合は序盤から浦和ペース。
強豪にしてはビルドアップ・ボールポゼッションの面で難が見られる今季の浦和ですが、リトリート・ラインコントロールが守備のベースである松本に対しては、プレスに嵌る事無くしっかりとボールを回していきます。
この日3センターバックの中央に入ったのが森脇とは少々意外でしたが、サポートに入る大ベテラン・阿部の存在もあり問題無くボールを散らし、左右のCB槙野・橋岡がワイドに開くビルドアップの形を作っていく浦和。
ファーストシュートは松本でしたが(5分・セルジーニョ)、その後はペースを握っていた浦和が攻勢に。
1トップの興梠がシュート・ポストプレイでチャンスに絡むなど、前節(神戸戦)での停滞感は見られず。
それでも松本が17分、パウリーニョのミドルシュートで浦和ゴールを脅かす場面を作ります(GK西川セーブ)が、その直後に浦和の先制ゴールが生まれます。
19分、後方でのパス回しから森脇の縦パスを宇賀神がスルー(フリック?)で流し、橋岡が裏に抜ける事に成功。
彼のグラウンダーのクロスに合わせたのはファブリシオ、綺麗にゴールに流し込みました。
前年夏場の救世主として名を上げたファブリシオ、故障もありこれがリーグ戦今季初ゴール。
与えたくない先制点を与えてしまった松本。
その直後フリーキック・コーナーキックのチャンスを掴み、阪野・永井がそれぞれヘディングを放つもののゴールは割れず。
逆に25分、再び右サイドからの浦和の攻撃で柏木→宇賀神→興梠とパスが回り、エリア内のファブリシオにラストパスが渡る絶好機に。
ファブリシオはダイレクトでシュートするもGK守田がセーブ、何とか2点目は防いだものの、「攻撃力の無い下位チームが、無理に前掛かりになって追加点を与えてしまう」という敗戦のパターンを歩んでしまうのは時間の問題に思えました。
しかし浦和もここ最近は不調であり、その後は追加点を匂わせるシーンは無く。
前半アディショナルタイムの攻撃、ファブリシオが再びエリア内でボールを受けるものの左へパス、左ウイングバックの山中がクロス。
このこぼれ球に槙野がオーバーヘッドでシュートを放つ(枠外)、CBなのにともいかにも槙野らしいとも言える攻めっ気が発揮されました。
一見微笑ましい場面でしたが、結果的にこの攻めっ気が死を招いたのではないかと……
強度が失われている最近の浦和に対し、松本も攻める事が出来るもののコーナーキックを得るのが精一杯という攻撃。
最初のターニングポイントとなる浦和・柏木の負傷交代(後半19分)まで、得たコーナーキックは7本に昇ったものの、得点に結びつく事は無く。
このまま無得点・敗戦で試合を終える雰囲気が漂い始めます。
その流れに暗雲が立ち込めたのが前述の柏木の負傷で、16分に敵陣でボールを奪い、そのままエリア手前でシュート体勢に入るも松本・阪野に止められた際に痛めたもの。
これまで黒子の如くパス回しに徹していた柏木、自らシュートを狙いにいったのが仇となってしまった格好で、無念の途中交代となります。(武藤が交代出場)
その直後の20分、町田も最初のカードを切り藤田→町田に交代、ボランチを切って攻撃的な選手を入れる事でフォーメーションも3-3-2-2にシフトします。
投入された町田ですが、前年までは千葉で背番号10を付けていた選手。
今季松本に加入したものの、故障で長期離脱もあり存在感は殆ど示せず。
しかしここに来て前線の選手の移籍もあり陽の目が当たってきました。
前田の移籍以降の4試合のうち、3試合で出場。(いずれも途中出場)
今まで殆ど起用されなかっただけに浦和側も意外と思ったのか、フォーメーションチェンジにも大した対処もされずに松本は攻勢に出る事に成功します。
24分、水本のロングパスをポストプレイで落とした町田、すぐにセルジーニョからボールを受け直すと左に展開。
高橋がアーリークロスを上げますがこれはGK西川がキャッチ。
26分には阪野とのパス交換で敵陣右サイドに進入した町田、クロスを上げるとファーサイドで高橋がトラップ。
そこからカットインしてシュートを放ちますが宇賀神のブロックに阻まれます。
地味ながらも着実に良い流れが生まれてきた松本、それが実ったのが後半30分でした。
ここも町田が中央やや左をドリブルで持ち上がり左へパス、高橋からクロスが上がると、エリア内で阪野がヘディングシュート。
これが槙野のブロックでコースが変わった事もあり、バーに当たりながらもゴールラインを割るゴールとなり、阪野の嬉しい移籍後初得点で同点に。
この直前に青木の交代を準備しており試合を閉めに掛かっていた浦和、まさかの同点劇だったらしく、その直後慌てて交代選手を関根に代えます。(宇賀神と交代)
夏の補強で得た(といっても出戻りですが)関根、加入直後は浦和の閉塞感を打ち破る存在と成り得ましたが、その効果も最近は途切れ気味。
この日は36分、橋岡のパスを右奥で受けた後手前にカットイン、その後パス回しから再び右サイドで受けて低いクロスを入れますがわずかに合わずと見せ場を作った関根。
しかしそれでも浦和は失った流れを取り戻すまでには至りませんでした。
38分の松本右サイドからのスローイン、町田→永井と渡ってクロスが上がると、ボールは中央に走り込む宮坂(セルジーニョと交代で出場)の頭を越えてフリーの場所へ。
この落下点に入った高橋、逆ベクトルが働いた体勢ながらボレーシュートを放つと、強烈な速さでゴールマウス右隅を捉えついに逆転に成功した松本。
その後は守りを固める松本に対し、浦和も反撃に出ますが既に天運は無く。
興梠のポストプレイ・山中のクロス・関根の突破力などを駆使して同点弾を獲りにいったものの、それが果たされる事は無く、試合終了の時を迎える事となりました。
今季は「リーグ戦・ACLの二冠を」と意気込んで臨んだ浦和でしたが、リーグ戦では停滞そして低迷を余儀なくされる破目になっています。
13節・広島戦での大敗(0-4)を受けてオズワルド・オリヴェイラ監督を解任し、その後は前年監督代行で結果を出した大槻毅氏が正式な監督に就任。
前述の関根獲得に見られるように、「かつての輝きをもう一度」と言わんばかりの方策でこの苦境を脱しようとしている浦和ですが、根本的な解決を見ないまま再び低迷期に陥らんとしているかのようなここに来ての連敗。
特に松本の町田投入以降、対処の遅れが露わになっての逆転負けは非常にダメージが残るものでしょう。
関根以外には大きな補強には動かなかった浦和、いや正確には動けなかったと言った方が正しいでしょうか。武富獲得直後故障で長期離脱とかありましたが
関根獲得はかなりの移籍金を支払っての事だったらしく、開幕前の杉本・山中といった補強策とも相成って、これ以上資金を投じるのは厳しいという事情があったのだと思います。
この日の埼玉スタジアムの空席の目立ちぶりからも、浦和の支えであった豊富な資金源はもはやあるかどうか疑わしいという状況が窺えてしまいます。今や資金力ではすっかり神戸にお株を奪われていますし
ここから残留争いに足を踏み入れる、なんて事は……無いと信じたいですね。