浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

アラファト議長の後継者決まる

2004年11月11日 | Weblog
 アラファト氏の死去に伴う後継者選びは、難航すると思われていましたが、今日開かれたPLO(パレスチナ解放機構)執行委員会とアル・ファタハ中央委員会ですんなりと収まりました。その結果は、私が予想していた線に落ち着いています。
 アラファト氏は、PLO、アル・ファタハ、そして自治政府大統領の三大ポストを独占していましたが、それを三分し、穏やかな「トロイカ(集団指導)体制」にしました。最高権威のPLO議長には、アッバース前首相が選ばれ、ファタハの議長にファルーク・カドウミ氏、自治政府大統領に自治評議会の現議長のファトゥーフが選出されました。ただし、ファトゥーフ氏は、60日間だけの任期になると思われます。その後は選挙を経てアッバース氏が大統領に就任するものと思われます。
 日本の皆さんには、それら3つの組織の関係が理解できないので簡単に説明しますと、パレスチナ国家創設には、各政治組織が集まって作ったPLOが最高決定機関とされています。そのPLOの中にあって最大組織なのが、ファタハなのです。日本で言えば、自民党みたいなものです。他には、PFLPやDFLPが国際的知名度を得ていますが、その規模はファタハの比ではありません。自爆攻撃で恐れられるハマースはPLOには属していません。また、PLOとは別のところに自治政府が存在します。分かりやすく言えば、1993年の「オスロ合意」を実践するためにPLOが作ったものです。
 そうして考えると、誰がアラファト氏の後継者になるかはお分かりになるでしょう。アッバース前自治政府首相です。マスコミで本命視されていたクレイ自治政府首相が後継者になる可能性はゼロだと前にも書きましたが、PLOの中において、執行委員会のメンバーでもないクレイ氏には、現段階と限定付ですが、後継者になる目はありませんでした。
 「カドウミって誰?」とマスコミは騒いでいますが、カドウミ氏はPLOの政治局長を長年務めてきた有力者です。別名アブ・ロトフとも呼ばれるカドウミ氏は、オスロ合意に反対、アラファト氏率いるPLO勢力の大部分がチュニジアからパレスチナ入りする中、アラファト氏と袂を分かつ覚悟でチュニジアに留まりました。それが結果的に、「腐敗政治にまみれていない」との評価になり、今回アッバース氏に次ぐポジションに躍り出たのです。もし、アッバース氏の身に不測の事態が起きたり、「アッバース政治」が破綻をきたせば、カドウミ氏がパレスチナ社会のトップになるでしょう。
 イスラエルとの太いパイプを持つアッバース氏が後継者になったことで、3年間途絶えていたイスラエルとパレスチナの話し合いは、急速に進展する可能性があります。しかし、これでパレスチナ自治政府内部の民主化が達成される見込みがあるかと言えば、アッバース氏も「古い政治家」です。残念ながらその可能性はあまり高くないと言わざるを得ません。

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