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映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

『カシオペアの丘で 上/下』重松清

2007-10-02 22:29:41 | book
 

あちこちで評判になってた本だから、今さら私がどうこう書くのもまるで意味が無いけれど、それでもやっぱり何か書き残したいなぁと思い、私自身のためだけに書いておきます。

物語のテーマは「親が子に、夫が妻にどんなことを伝えられるか」ということだと作家の重松清さんは言っています→
40歳を迎える前に末期がんを宣告され、残された命をどう生きていくのか。そのことは、過去をどう清算し、未来に何を残すのかということでしょう。
主人公の俊介の過去はなかなか複雑で(実家「倉田」一族との確執、「倉田」により引き起こされた事故と友との別れ、学生時代の封印された恋愛)、それらにどうケリをつけるのかということだけでもかなり太く重いストーリーが展開されます。
さらに、妻の愛人により娘を殺害されるという悲劇に見舞われる男や、交通事故の加害者という呪縛から逃れられない女なんかも出てきて、ストーリーは幾重にも絡まっています。
実は、ちょっとやり過ぎだろうと思わないでもなかったけれど、それでも全ては「生きていくこと」への飽くなき希望へと導かれていて、ぽたぽたと涙を流しながら読み進めました。

主人公俊介には3人の幼なじみがいます。
俊介のライバルで、下半身不随になり車椅子で生活する敏彦。
敏彦の妻で、実は俊介の学生時代の恋人・美智子。
職業を転々とし、今はテレビの制作会社に勤める雄司。
シュンとトシとミッチョとユウちゃん。
シュンとトシとミッチョの関係は重く複雑だけど、そこをひょうひょうとまとめる(?)のがユウちゃん。
とことん熱いくせに、肝心な場面になると不意に姿を消し、そうかと思うとびっくりするような風を吹き込む、でも主人公にはならないユウちゃん。
ユウちゃんのやり方は、私に似ているのかもしれないなぁと少しドキドキしました。他人の生き方には口うるさく語るくせに、自分のこととなると引っ込んでしまう。そのくせ、どこか目立ちたがり屋…。
だから、ユウちゃんがこっそりと決意したのが嬉しかったんです。

あれあれ、話がずれました。
末期癌のシュンには、小学生の息子と奥さんがいます。そして、「倉田」の創始者であるお祖父さんがいます。
シュンは、自分の見ることのできない未来を息子に語るために生き、許されなかった過去を償おうと生きます。そして、お祖父さんもまた強く許しを請いながら幻覚の中で生きています。
許されたいと願うひとと、許すことができなくて苦しむひと。
許しちゃった方がうんと楽でしょ。でも、許せないの。許しちゃったら、何も言えずに死んでいったひとに申し訳なくて。忘れてしまいそうで。
そして、許せなくて苦しんだひとがいなくなったら、許されたいと思っていたひとはどうすることもできないのね。
だれも、許してくれないんだから、自分で自分を許してあげるしかないんだわ。

毎日をのほほんと平坦に過ごしている私には、「許す」ことの意味なんて10分の1も分かってなんかいないのかもしれません。
それでも、この社会の仕組みの100分の1くらいは分かったかもしれません。少なくとも、「許さない」なんて簡単に口にしちゃいけないことなんです。

私には、幸か不幸か子供がいません。夫もいません。
もし、今末期がんを宣告されたら、私の何かを伝えるべき誰かがいません。
そのことは、お気楽であるけれど、とても悲しいことです。
そもそも何を伝えるべきかなんて分からないし、伝えることがあったとしてもうまく伝えられるか分かりません。
その大きなテーマに、この小説は正面から向き合っています。
テーマが大きすぎて、結局私には読み下すことなんてできなかったみたいです。
それでも、この小説に出会えてとても幸せでした。重松さん、ありがとう。

というわけで、冒頭に書いたとおりまるで意味の無い感想でした。


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