溶血性貧血とはすでに説明したものの中にもありますが、赤血球を作る能力は正常ですが、破壊が亢進することで貧血が生じる疾患です。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は溶血性貧血の半分を占めますが、これは赤血球に対する自己抗体ができ、赤血球を壊してしまうという病気です。AIHAには温式AIHAと冷式AIHAがあります。温式AIHAは脾臓で赤血球が壊されます。冷式AIHAでは指先や耳など冷たいところで赤血球が壊されます。
温式AIHAの治療はステロイド剤による免疫抑制療法が基本です(80~90%はステロイドで管理可能)。一方、冷式AIHAではステロイドはあまり効果がないこともわかっていますので、保温が中心になります。
温式AIHAで重要なことは特発性か、続発性(二次性)かです。続発性の場合は、基礎疾患によりますが予後が悪い患者さんがいます。多くは特発性ですが、悪性リンパ腫や慢性リンパ性白血病、膠原病のSLE(全身性エリテマトーデス)が多いです。
それでは、書いていってみます。
Iさんは高度の貧血があって、当科を紹介となりました。紹介元で行いました血液検査では白血球は5000/µl、ヘモグロビン(Hb)は7g/dl、血小板は30万/µlと貧血のみを認めました。また、ビリルビンという黄疸の数値が3.5mg/dlと上昇しており、乳酸脱水素酵素(LDH)も430 IU/Lと上昇していました。
当院で行なったデータでは加えて、網状赤血球という数値が171.0‰(17.1%)と上昇していました。
網状赤血球は赤血球を作る能力を反映する指標であり、非常に多くの赤血球を産生していることを示しています。
Iさん:赤血球を作っているのに、貧血なんですか?
はい。白血病や再生不良性貧血などの病気では、血液が作れなくなって貧血になります。今回は赤血球を作っているにも関わらず貧血になっていますので、消費が亢進していることになります。
すなわち、体の中で壊されているか、出血しているかです。出血については明らかなものはないということですが、血液検査からは体の中で赤血球を壊す反応が起きていると思われます。
Iさん:それはどこからわかるのですか?
体の中で赤血球が壊れることを溶血と言いますが、これが起きると間接ビリルビンと呼ばれる数値が上昇し、LDHも上昇します。今はこの反応が起きています。溶血が起きていることの確認はハプトグロビンという数値が25mg/dl未満になれば良いとされていますが、この検査結果はすぐには出ませんので、次回確認できればと思います。
今回、溶血性貧血ということは推測できていましたので、追加の検査を行なっています。それがクームス試験というものです。これは赤血球を壊す物質(抗体)ができているかを確認する検査です。
Iさんの検査結果は直接・間接クームス試験、両方とも陽性となりました(ちなみに通常は37℃で反応させます。その後室温にして反応を見ます。37℃で反応して、室温で反応しなければ温式AIHAですし、室温で反応すれば冷式AIHAです)。
以上の結果から、Iさんは自己免疫性溶血性貧血(AIHA)という病気と診断できました。
Iさん:それはそのような病気ですか?
AIHAは先ほどお伝えした赤血球を壊す自己抗体によって、赤血球が壊されていく病気です。赤血球が壊されますので、貧血になります。また、赤血球が壊されたことにより、黄疸が出るわけですが、それが原因で胆石を作ることがあります(ビリルビン結石)。
Iさん:治療法はどのようなものがありますか?
この病気の治療は主にステロイド剤というものを使用します。ステロイドは自己抗体を作るB細胞に作用し、自己抗体を抑えます。それにより段々壊されなくなっていきます。
当初は、体重あたりプレドニゾロン1mg/kgという量で治療を開始し、4週間後に数値が安定していれば、この量を減らしていきます。ガイドラインでは次の1ヶ月で半分まで減量し、その後は2週間に5mgずつのペースで減らすという記載になっています。
しかし、病状が不安定な場合はゆっくり減らすこともあり得ます。
通常は維持療法が必要で、5~10mg/日程度の量で治療を継続します。
Iさん:治療をしないとどうなりますか?
程度の問題になりますが、無治療での死亡率は30~50%と言われております。軽症であれば無治療経過観察もありますが、Iさんはかなり頑張って血液を作っています。その状況を考えると、骨髄が少しへばったり、壊す量が少し増えたりすると貧血が進行し、心臓などにも負担を与える可能性があります。
Iさん:わかりました。治療を受けます。
(ステロイド剤の副作用などを説明)
治療開始の前にいくつか検査をしたいと考えています。1つはCT検査です。今の時点では強く疑いませんが、時折悪性リンパ腫などを合併することがあります。治療開始前にそれがないかどうかを検査したいです。
もう一つは骨髄の検査になりますが、これは他の疾患がないかどうかの否定という意味で必要です(欧米では温式AIHAではやらなくても良いとなっている。冷式AIHAでは必須)。
Iさん:わかりました、よろしくお願いします。
こんな感じでしょうか。AIHAの続発性と特発性の鑑別は一応治療前にやるようにしています。理由は最初からあるかないか・・も重要ですが、途中からリンパ腫やSLEなどが出てくることがあるからです。治療開始前になかったことを確認しておかないと、僕も嫌ですし、患者さんに不利益になってしまうので。
少しでも参考になれば嬉しく思います。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
血液内科 ただいま診断中! | |
クリエーター情報なし | |
中外医学社 |
こんばんは、コメントありががとうございます。
沖縄中心のハーフマラソンを楽しまれているのですね。寒冷凝集素症の特効薬の話は僕は聞いたことがないのですが、今度調べて見たいと思います。
確かに保温などを中心に対応するのですが、どうしても微妙に進んでいく疾患だと思います。そのため何処かで治療薬は出てくるとは思うのですが。
また、コメントいただければと存じます
いろんな検査の数値は微妙に悪くなってますが、sutimlimabも含めて特効薬の出現を期待します。難病指定されてから、新薬の開発とかも進んでるんでしょうか?
こんばんは、コメントありがとうございます。
お久しぶりです、マラソンを続けられているようでよかったです。先日、母校の後輩からハーフマラソン参加の案内の手紙が来ていました。走り込んでいない身としてはちょっと辛いなと思いつつ、引かれるところもあります。
sutimlimabについてあまり認識しておらず調べておりました。将来的に保険適応になるかもしれませんが、今の時点で僕は認識しておりませんでしたので、後日情報があれば出していければと思います。
また、コメントいただければと存じます
寒冷凝集素症歴7年のかつです。
その後、年間3本程度のマラソンと4〜6本のハーフマラソンを走っています。いつも制限ギリギリですが完走してます。
病気の方は、アンフェタミン先生の言われたとおり貧血は進んでいるみたいです。
ちなみに、直近の数値は、
igm1308 少しずつ増えてます。
ヘモグロビン11.0 少しずつ減ってますが、貧血の症状はありません。
ヘマトクリット33.0 少しずつ減ってます。
でも、網状赤血球は、2パーセントと酷くはないようです。
sutimlimabのことをネットで見ましたが、ほんとに特効薬なんでしようか?すごく期待してしまいますが、高価なんでしょうね。保険適用 はされるんでしょうか。
おはようございます。コメントありがとうございます。
血液内科・・・マイナー診療科ですので、普通は知られていないと思います。このサイトにたどり着く検索ワードの1位は「血液内科とは」です(笑
血液内科でも場所によってだいぶ違うと思いますが、うちの大学は臨床としては専門性よりはジェネラルな医師が多いです。そのため、なんでも診れます(多分)。
他の病院だと「リンパ腫専門」「白血病専門」など分かれていたりしますが、僕も昔びっくりした記憶があります。
女王様さんは血液の病気と腎臓の病気と戦われていますので、色々と大変なことが多いかと存じます。両方の治療がうまくいくように、主治医の先生と相談して頂ければと思います。
CKDヒートマップの赤色というものについてはよく僕もわかりません。見たことがないものですから。あとで見てみようと思いますが、ご説明できるようなレベルにはないので、すいません。
今年もあと3週間。無事に今年も終わると良いなぁと思っています。お互い体に気をつけて頑張りましょう。
また、コメントいただければと存じます
再生不良貧血は昔はよく 白血病をごまかすために利用されてたような。
まだまだ告知なんてとんでもない時代、特に小児の白血病には定番だったと思います。
不治の病、悲劇の象徴のような。
そう考えたら クリニックの医師じゃないけれど、今はそこそこに生きていけるからこそ 病名も状況も隠さず明かすんですね。
白血病はやはり不運には違いないけれど、薬でどうにか押さえられるCMLであったことも、本当にギリギリの幸運かもしれません。
入院せずに済むんだし、女性には存外つらい脱毛もない。←重なるいろんな症状のストレスか円形脱毛は出来ましたが
ただでさえ今の医療は細分化かつ専門領域化しているのに 血液内科も更に細かいんですね。
通っている大学病院でも以前 CMLやってるのは○先生と△先生と、4人しかいないと言われまして。
毎日 5つの診察室はフル稼働なのに何故だろう?と疑問だったのが ここ数回のアンフェタ先生の記事でなんとなくわかってきました。
難しい医療、ですよね。
腎臓の担当医も ISって詳しくなくて‥ごめんね と申しておりましたし。
私のはギリギリの幸運ならば 向き合わないといけない。
テレビで精神科?の名越先生が「つらい時はもがいてもいい、闘って諦めたら現実を受け入れよう」と若い子に話していたのを見ました。
うむ、私もそろそろ現実を受け入れなければ。
今週は 血液の外来があります。
休んでたタシグナを少量からでも再開する決意をしなくちゃいけません。
休んでても腎臓は落ちていく一方で 肝臓と違って復活するものでもないようですから 仕方ないですね残念ながら。
とりあえず一次ネフローゼの難病申請書類を作ってもらいましたし。
CKDヒートマップの赤色 と記入されていましたが、これって重症という意味てしょうか。 良くなる見込みがないというか。
見なきゃいいのに腕のシャントの画像を わざわざググって見て軽くショックに。
手術で埋め込む、手術という単語にもビビっております。 生まれてこのかた未だに手術だけは未経験で 部分麻酔だとは思うのですが、考えるだけで怖くなります。
意気地なしでお恥ずかしい限りです。
そんなこんなで 今年もあと3週間となりました。
いいことのなかったこの一年でしたが、生きているだけでありがたいと思うようにします。
腎臓には休養が大切とは言うものの、暮れは仕事も詰まっているし 大掃除も年賀状もやらなきゃならないし。
大切な方にはクリスマスカードを送るのが私流なのです。
鼻風邪が治る暇すらありません。
首都もついに初霜、初氷。 富士山も真っ白です。
余談ながら 冠雪はwhite cap や snow cap と言うんですよー。
なるほど 白い帽子だな と思いながら眺めています。
北海道は吹雪になりそうですから 温かくして養生なさってください。
鼻水、凍ってしまいますよ。