「今まで食べた一番おいしいもの、なに?」などという話を食いしんぼ仲間ですると、
“夏、一番いい時期に食べた南陽(←さくらんぼの一品種)”だとか、
“おじいちゃんが特別に連れていってくれたステーキハウスのとろけるような柔らかさの分厚い一枚”だとか、
“あのお寿司屋さんで初めて食べた鮎の塩焼き”だとか、うっとりするようなおいしい話がぞろぞろ出てきます。
おいしいものは、記憶の中で“誰と”“どこで”食べたかと結びつき、もしかしたら本当の味わいの
何倍もの輝きを放って、今も舌先に幸福な記憶として蘇るのかもしれません。
ここ何年も、時々いただくパンがあります。
クラフト紙に包まれたその塊は、きゅっと結ばれた麻紐をほどく前からなんとも言えない香ばしい匂い、
くるりと巻かれた茶色の包みをほどくとああ!そこにはずしりと持ち重りのする、
ぎゅっと手のおいしさが凝縮されたかのようなパン(という軽やかな響きでは足りないくらいの存在感です)。
家族4人で切り分けてもけんかにならないくらいの充分な質量をまずは楽しんでから、
おっとまだ切りませんよ、鼻の頭をくっつけないように気をつけて深々と息を吸い込んで香りを堪能しましょう。
しかるのちにまな板(このまな板は、ぜひともさぶちゃんまな板が適任です)に載せた姿を愛でて、
ナイフを入れれば、おお!この色合いはまさに小麦の色合い、もちろん真っ白ではなくて、ライ麦の
つぶつぶが実にいい具合に焼き込まれています。わーい!
薄く切って、軽くオーブンでトーストして、バターやクリームチーズを薄くのばしていただくその美味しさ
といったら、今日も元気にごはんが美味しく食べられて、しかも貴重な一食にまったくもって上等のパンが
あたって、本当によかったなあ、ということをしみじみと感じさせてもらえることうけあいです。
おおげさ?いいえいいえ、とんでもありません。
けんかしなくてもいい充分な量のパンはあっという間になくなって、最後の数切れはいつも奪い合いです。
“おいしい”は、自然の力と人の手がつながってできていると思います。
畜産物を含め(魚介類も)、土からとれた野菜や果物や小麦やお米のおおもとのエネルギーを感じる素材を、
誰かの手がパンや料理やお菓子に拵えて、ひとが食べられるものになります。
大きな工場で機械で作れば均質なものが出来上がりますが、誰かの手がぎゅっと拵えたもののような力のある味わいは、
均質なものの中には備わりません。
件のパンを拵えるひとの作るビスケットも、おいしい。
写真がここに載せられない(なぜなら、撮る前に食べてしまったから!)のが残念ですが、
コロッケのような不思議で可愛い姿をしたそのビスケットは、パンと同じ作者の手によるものだなあ、
と感じ入る味わいです。同じレシピでも作り手によって味はずいぶん変わります。
誰かが一生懸命誠実に拵えたものは、その人の味がして、美味しいのです。
fikaもいつもそのようにありたい、きちんと誠実に拵えたものをお出ししたいと思っています。
性格上(を言い訳にしてよいかどうか…)、美しく均質なものを作るのは不得手ですが、
食べてくださる方に申し訳のたつ材料を使って、誠実に作る。
ずっと忘れないでいく所存です。
さて、私がいままで食べた“いちばん美味しいもの”は、道東の農家さんからいただいた、
野生の椎茸。バターでソテーして醤油を落としてシンプルにいただいたその椎茸は、
野生の力強い香りと食べたあともずっと後をひく濃厚なきのこの風味、あの味わいは忘れられません。
太陽と雨と土と木、それに虫や菌類(きのこですからね)の力、まっこと素晴らしき哉!です。
ああ、野生の椎茸ソテーと、このパンで食事にできたら、どんなに幸せなことか!
願っていれば、いつか叶うでしょうか。
さて、明日は金曜日、fikaはシュークリーム・DAYです。クリームはカスタードクリームに
なります。その他に、キッシュやカヌレ、金柑のタルトは焼きタルトと生タルトの2種、
苺カスタードタルトもお出しする予定です。写真のビスケットは久しぶりに焼いた黒糖と生姜のサブレです。
最近復活のマフィンはいちご、プルーン、甘夏みかんでご用意いたします。
週末のお茶の時間に、いかがでしょうか。
◇fika.タルト
(苺とバナナのカスタードタルト) 680 yen
(苺とバナナのカスタードタルト) 680 yen
(バナナチョコレートのカスタードタルト) 650 yen
(くるみヌガーのタルト) 10cm 550 yen (ミニ 230 yen)
(甘夏のタルト) 650 yen/300 yen(MINI)
(ブルーベリー・クランブルタルト) 550 yen
◇ガトーショコラ 190 yen/1CUT
◇きなこのポルボローネ 170 yen
◇くるみのポルボローネ 180 yen
◇アーモンド・ぱりぱり 140 yen
◇アーモンドの焼きメレンゲ 80 yen
◇ぴよサブレ(生姜黒糖) 170 yen
◇シュークリーム(カスタード) 150 yen
◇fikaマフィン(いちご・甘夏みかん・プルーン) 各 230 yen
…… などなど。