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●三上智恵監督『戦雲 (いくさふむ)』…《多少の犠牲は仕方ない…その多少って誰のこと?》《「軽んじられている命」があるのでは》

2024年03月30日 00時00分57秒 | Weblog

[↑ 三上智恵監督「軽んじられている命があるのでは」 【こちら特報部/多少の犠牲は仕方ない…その多少って誰のこと? 映画「戦雲」が問いかける「軽んじられる命」】(東京新聞 2024年03月14日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/315046?rct=tokuhou)]


(20240316[])
デモクラシータイムスのインタビュー記事【三上智恵 戦雲(いくさふむ) 【著者に訊く!】20240301】(https://www.youtube.com/watch?v=QBtCBClXr7g)。東京新聞の記事【こちら特報部/多少の犠牲は仕方ないその多少って誰のこと? 映画「戦雲」が問いかける「軽んじられる命」】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/315046?rct=tokuhou)。


【三上智恵 戦雲(いくさふむ) 【著者に訊く!】20240301】(https://www.youtube.com/watch?v=QBtCBClXr7g
《モクラシータイムス》
《映画と新書を同時に紹介。いずれもタイトルは『戦雲いくさふむ』。
タイトルは同一だが、内容はそれぞれ完全に独立、お互いが補完する。
沖縄が米軍基地によって苦悩してきたのは周知だが、さらに「台湾有事」に名を借りた自衛隊基地の、凄まじいほどの展開が住民たちを苦しめている
穏やかで静かな島にミサイルが配備され、島の道路を戦車が走り回る
屈せずに闘う人たちの姿と、その陰の日常の光景が鮮やかな対比で描かれる。
2024年3月1日収録

*著書『戦雲 要塞化する沖縄、島々の記録
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721299-0

*映画『戦雲
3月16日(土)より[東京]ポレポレ東中野、[横浜]シネマ・ジャック&ベティ、[大阪]第七藝術劇場、[神戸]元町映画館、[愛媛]シネマルナティックにて公開、ほか全国順次公開*
各地で三上智恵監督の舞台挨拶開催予定。くわしくは映画公式サイト
https://ikusafumu.jp/



【『戦雲(いくさふむ)』(三上智恵監督)本予告篇】
 (https://youtu.be/nBPhfgi2CUM



【映画『戦雲』(いくさふむ)特報予告|三上智恵監督最新作】
 (https://youtu.be/tURGC0NVVQg


 三上智恵監督「軽んじられている命があるのでは」…《自衛隊基地が次々と整備され、軍事拠点化が進む沖縄県の先島諸島を追ったドキュメンタリー映画「戦雲いくさふむ」が16日からポレポレ東中野などで公開される。沖縄を追い続ける三上智恵監督が向き合ったのは、基地や自衛隊の是非ではなく「軽んじられている命があるのではというシンプルな問いだ。(石原真樹)》

   『●《沖縄と戦争をテーマ…三上智恵さん…軍事拠点化が進む南西諸島…「観
     客に終わらず、戦争を止めるため一緒に走ってほしい」と呼びかける》

 2023年6月の記事の再度の引用。石原真樹記者による、東京新聞のインタビュー記事【南西諸島を戦地にしたくない 映画監督・三上智恵さんが公開前の映画素材をDVDで無料貸し出し【インタビュー詳報あり】】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/245619)によると、《沖縄と戦争をテーマに取材を続けている映画監督の三上智恵さん(58)が、軍事拠点化が進む南西諸島の様子を収めたDVDを無料で貸し出している。来年の劇場公開を目指すドキュメンタリー映画用の素材だが、より早く全国の市民と危機感を共有したいとの思いで始めた。三上さんは「観客に終わらず、戦争を止めるため一緒に走ってほしい」と呼びかける。(石原真樹)》。
 三上智恵さん《「軍隊は住民を守らなかった」ということが沖縄戦の最大の教訓であるにもかかわらず、まったく学びがなく、「中国が怖いから軍隊がいたほうがいいよね」という今の空気をなんとかしたい、と。》

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/315046?rct=tokuhou

こちら特報部
多少の犠牲は仕方ない…その多少って誰のこと? 映画「戦雲」が問いかける「軽んじられる命」
2024年3月14日 12時00分

 自衛隊基地が次々と整備され、軍事拠点化が進む沖縄県の先島諸島を追ったドキュメンタリー映画「戦雲いくさふむ」が16日からポレポレ東中野などで公開される。沖縄を追い続ける三上智恵監督が向き合ったのは、基地や自衛隊の是非ではなく「軽んじられている命があるのではというシンプルな問いだ。(石原真樹


◆「最前線」の島々で起きている現実

 沖縄の民意がNOを示しても米軍の基地建設が止められない無力感などから、「的の島 かじかたか」(2017年)以降、現場で取材しても映画にまとめられずにいた三上監督。昨年3月、撮りためた映像の一部をつないだ「スピンオフ」の無料貸し出しを試みたところ、10月末までに全国1300カ所で上映会が開かれた。全国に生まれた「平和のサテライト」に励まされ、無事に映画化にこぎ着けた。

 映画の中心は与那国石垣宮古島。米国と中国がにらみ合う中で台湾有事に備える”最前線”とされた島々で、自衛隊基地にミサイルが持ち込まれ、日米共同軍事演習が実施される。三上監督のカメラは、基地建設を巡って分断され疲弊しながらも、自分で自分を奮い立たせて座り込みや牛歩で反対の声を上げる住民を捉える。

     (映画「戦雲」の一場面=(c)2024『戦雲』製作委員会)

 「『多少の犠牲は仕方ない』の『多少』に私たちは入っている」「一番命を粗末に扱われている国民なんだと町民に感じてもらいたい」。彼らはリアルな身の危険」を口にする。

 三上監督は「命が軽んじられるのは自衛隊員も同じ」と強調する。「軍隊は住民を守らない」とは県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦の教訓だが、歴史を学ぶほどに軍人を「かわいそう」と感じるようになった。「食料も弾薬も補給されず、住民から奪うしかなかった。それで憎まれて死んでいったのは、彼らの本意じゃなかったはず」


◆「徴兵忌避が一番かっこいい、という価値観」

 今、島々に配置されている自衛隊員が同じ運命を背負わされているのではないか―。そんな思いで、軍神に祭り上げられた島の若者の逸話を取り入れた。戦死した特攻隊員をたたえる石垣島の石碑の前で、沖縄戦経験者の山里節子さんが「(遺詠の)『散るぞたのしき』は本音ではなかったと思う」と語る場面。わざと栄養失調になり徴兵を逃れて生き延びた父を持つ本島の男性の語りと合わせて、半ば強引に挿入した。「徴兵忌避が一番かっこいい、という価値観を伝えたい」との願いを込めた。

     (「祈りのような映画になった」と語る
      三上智恵監督=東京都新宿区で)

 中国の脅威が盛んに喧伝(けんでん)され、「多少の犠牲は仕方ないという空気がはびこり始めていると三上監督は指摘する。多少とは誰なのか本当に仕方がないのか、改めて考えてほしいと訴える。「『仕方がない』を黙殺している側にいることを知って、モヤモヤして、そんなの嫌だなと思う。そこから始めるしかない」


【関連記事】南西諸島を戦地にしたくない 映画監督・三上智恵さんが公開前の映画素材をDVDで無料貸し出し【インタビュー詳報あり】
【関連記事】本家・野木亜紀子さん「そんなことある?」沖縄のリアル、米軍基地と性暴力 「連続ドラマW フェンス」
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●石垣島陸上自衛隊ミサイル部隊配備: 《菩提樹》を切り倒すのか? ささやかな願いさえも打ち砕くのか?

2018年12月20日 00時00分19秒 | Weblog

[※ 『沖縄スパイ戦史』(三上智恵大矢英代共同監督) (LOFT)↑]



マガジン9のコラム【三上智恵の沖縄〈辺野古高江〉撮影日誌 第85回:地図の上から島人の宝は見えない~市民投票に立ち上がる石垣の若者たち~】(https://maga9.jp/181121-1/)。

 《もう一つはまだ条例制定の署名が始まったばかりだが、石垣島への陸上自衛隊ミサイル部隊の配備の賛否を問う石垣市民だけの住民投票…。…つましい生活を守りたいだけの、人々のささやかな暮らし削るショベルカーは、ずっとこの地域で唸り声をあげている。なんて無力なんだ…魅力や可能性を感じる新しい力が結集してきたことに希望を感じた。それは、今回石垣市民投票の立ち上がりを目の当たりにして、なおさらはっきりと感じた》。

   『●三上智恵さん「結局は止められなかった」という現実…
           でも、《人々は分断されている》ことを止めなければ
    「マガジン9の記事【三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌 第71回:
     高江から宮古島へ~雪音さんと育子さんからのエール~】(…)」
    《『標的の村』の主人公、高江の安次嶺雪音さんと伊佐育子さんだ。
     …そう思って特集を連打し、放送用ドキュメンタリーの限界を超えよう
     と映画にまでして突っ走ってきた私は、「結局は止められなかった
     という現実に、正直に言ってまだ向き合えていない。…でも、
     ひしゃげている私にもわかることがある。これから自衛隊の
     ミサイル基地建設着手、という局面を迎える宮古島石垣島で、
     何とかそれを止めようともがく人々にとって、
     高江の人たちは大事な存在になるということだ》

 アベ様らの何が何でも破壊する愚行を、何とか止めたい。
 《辺野古の基地建設の是非を問うもの…その前段に沖縄全体でこれから取り組む県民投票について触れないわけにはいかない。しかし、この話題になると私は筆が進まない》…「本土」からではありますが、ブログ主も《県民投票》に対してどうしても前向きになれなかったのですが…このコラムを読んでみて、少し気が変わってきました。何とか良い方向に向かってほしいと思います。

   『●普天間米軍のCH53E大型輸送ヘリの窓落下…
      「子どもを園庭で遊ばせたい」「当然の日常がほしいだけ」
    「米軍普天間飛行場所属のCH53E大型輸送ヘリの窓が落下…
     しかも、子供たちの居た小学校の校庭に。沖縄の人々、特に、
     子を持つ親としての願いは、《子どもを園庭で遊ばせたい
     《当然の日常がほしいだけ》。そんなささやかな願いさへ、
     いつまでたっても叶わない、沖縄」

 平気で、幼き娘さんの愛する《菩提樹》を切り倒すのか? とても、とてもささやかな願いさへも打ち砕き、人々を分断してゆく…。子どもさへSLAPPSLAPPする国・ニッポン。こんな国でいいのですか? 宮古島石垣島に《標的の島》を押し付けて恥じぬ「本土」…。答えは一つだけではない。

   『●子供にもSLAPPする国: 三上智恵監督
     ・映画『標的の村 ~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』


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https://maga9.jp/181121-1/

第85回:地図の上から島人の宝は見えない~市民投票に立ち上がる石垣の若者たち~三上智恵
By 三上智恵  2018年11月21日



《石垣島住民投票へ》(https://youtu.be/XvwN9PRLP1s

 今、沖縄では二つの住民投票の手続きが進んでいる。いずれも軍事基地の建設に絡むものだが、一つは、辺野古の基地建設の是非を問うもので、すでに10月30日に公布された県民投票条例に基づいて来年2月に実施予定。そして、もう一つはまだ条例制定の署名が始まったばかりだが、石垣島への陸上自衛隊ミサイル部隊の配備の賛否を問う石垣市民だけの住民投票だ。

 今回は、たぶん全国にはほとんど伝わっていないけれど、とても面白いことになっている石垣の住民投票のことを書くつもりなのだが、その前段に沖縄全体でこれから取り組む県民投票について触れないわけにはいかない。しかし、この話題になると私は筆が進まない。だからマガジン9の読者の皆さんにも、今年5月から署名が始まっているのにその動きを全くお伝えできていない。それはなぜなのか。少し書いてみる。

 この4年の流れを思い出してほしい。何があっても辺野古は造らせないと公約した翁長雄志知事が当選し、国政選挙では辺野古容認の議員がゼロになるほどはっきり民意を示しても政府は全く態度を変えなかった。次の手段は埋め立て承認の取り消しだったが、その効力を国に取り消され、県と国の対立構造は深まり、法廷闘争になっていく。並行して取り組まれたあらゆる行政、市民運動各レベルの抵抗。国内外の学者文化人からの応援も、全国から辺野古基金へのカンパも集まった。しかし、国はさらに圧力を強めて高江ヘリパッド工事の強行リーダーらの不当逮捕に長期拘留と抵抗する人々を弾圧した。

 そして、じりじりと護岸工事が加速し辺野古の海が灰色になっていく中で、「県民投票をしてはどうか」という提案がオール沖縄をけん引する側から出てきたときに、現場に歓迎する声はほぼなかった。私も、とてもじゃないが飛びつける話じゃないと思った。両刃の剣になりかねない。リスクも小さくはない。知事がいつ、「撤回」のカードを切ってくれるのか、と疲労困憊の体に鞭打って工事現場で抵抗する人々からすれば、知事や県が動かないで、県民投票という下からの運動をさらに盛り上げていけと言われても、もう余力などない、と泣きたい気持ちだったと思う。そして辺野古に反対する者同士なのに「県民投票」をめぐる意見の対立で有力者が離れていくなど、「県民投票」は心労の種ですらあった。

 私は個人的に「住民投票」へのアレルギーがある。1996年の県民投票と97年の名護市民投票をがっつり取材して報道して、「住民投票」という新たな民主主義の手法に大いに期待し、法的拘束力がないという欠点を超えていく可能性を信じてエネルギーを注いだものの、「基地はたくさんだ」という民意を示したところで、それが何の役にも立たなかったと認めざるを得ないその後の展開を一つひとつ、何年もかけてまた自分で報じていくことになった。その苦さを忘れることができない。「あの住民投票は、いったい何だったのですか!」と泣きながら叫んだ名護市民たちの修羅場をいくつも取材しながら、私も一緒に悔し涙を流してきたのだ。あの時は今より若くて、すぐに希望を持ったり信じ込んだりした。だから落胆も並じゃなかった。もちろん、私以上に傷ついた人たちが大勢いた

 住民投票の中心人物だった男性で、東海岸の自然を生かした開発の絵図を描いていた方を私は取材していた。名護市民が住民投票で堂々と辺野古基地建設にNOを突きつけたとき、一緒に歓喜した。これで苦しみは終わる。ジュゴンの見える丘を中心にハングライダーやエコツアーでみんなが笑顔になる地域づくりも夢ではないと思った。しかし当時の名護市長が住民投票の結果を完全に無視してその直後に基地受け入れを表明し、事態は急展開した。その男性が自殺を図ったと聞いた時には凍り付いた。幸い命はとりとめたものの、すっかり無口になり、もとの元気な姿をみることはなく、早逝された。

 私は仏壇に手を合わせながら、その時は歯ぎしりしながら耐えて、奥さんに挨拶して車に戻ってから号泣した。彼の人生を削り取った犯人は誰だ。それを突き止めて、謝らせて土下座させて、二度と同じことをするなと言いたい。でも犯人を挙げることは私になかなかできなくて、つましい生活を守りたいだけの、人々のささやかな暮らし削るショベルカーは、ずっとこの地域で唸り声をあげているなんて無力なんだ。彼の家の前を通るたびに、今も私は息を止め、一通りここに書いたような荒れ狂う記憶をやり過ごす。わたしにとって「住民投票」はその体験の中にある。

 そんな後ろ向きな私の話はこの辺にして、今の勢いのある話をしよう。県民投票を求める市民団体の中心に元シールズの元山仁士郎君をはじめ若い人たちが入って、疲れた大人たちをしり目に今年の春から独自に動き出したのだ。県内大手スーパーが賛同して各店舗の前で署名活動ができ、これまで既存の辺野古反対運動の輪には入っていなかった市民たちが一票を投じ始めた。新聞の投書にも、私たち一人ひとりの意見を表明する機会を歓迎したいという声が増えてきた。過去の傷とか、疲弊した大人たちとか、どうせ……なんて言ってみたくなる私のような弱虫が足踏みしてる間にも、彼らは実に頑張って10万もの署名を提出するに至った(有効署名数は9万余り)。

 この間に現職知事の病死、玉城デニーさんの当選など予測不能の激動があって、県民投票の位置づけも当初とはずいぶん変わった。でも何より、私にとってはシミがついて擦り切れて見える住民投票という手法に対し、魅力や可能性を感じる新しい力が結集してきたことに希望を感じた。それは、今回石垣市民投票の立ち上がりを目の当たりにして、なおさらはっきりと感じた。負の歴史を見すぎた濁った水晶体では見えてこない世界を見せてもらった。

 「住民投票なんて、危険よ。相手にこっちの手の内を教えるようなもの」

 石垣島の自衛隊ミサイル基地建設に早くから反対の声を上げてきた山里節子さんは、以前から住民投票否定派だった。白保の海を守る運動の中心にいた節子さんは、安易に署名活動に手を出すと命とりだと警戒していた。実際、自衛隊配備問題をめぐってはすでに一度、石垣市議会に必要数をはるかに上回る1万以上の署名が提出され、6月に条例制定の審議が行われたが、誘致派の与党会派が優勢のため13対7で否決されている。今の議会構成の中ではいくら署名を集めても否決されるのに、反対する人たちの名前と住所など個人情報を相手に教えてあげたようなものだと節子さんは冷ややかだった。

 しかし先月末、「石垣島の自衛隊基地 年度内着工」の記事が一面を飾った。来年度から環境アセスの条件が変わり、基地建設もアセスが義務付けられることから、駆け込みで着工するだろうと予測はしていたものの、中山市長の受け入れ表明に続きいよいよ動きが慌ただしくなってきた。しかし同じ頃、石垣の自衛隊配備予定地に近い於茂登、嵩田の農家の息子たちを含む20代の若者が中心になって「石垣市住民投票を求める会」が立ち上がったというニュースも入ってきた。代表を務める金城龍太郎さんのことはよく知っていた。署名開始の大集会をやるというので、私は早速石垣に飛んだ。

 空港まで迎えてくれた山里節子さんは、その前日に起きた出来事に憤懣やるかたない様子だった。配備予定地に隣接する4つの字は反対しているにもかかわらず、人目を盗むように測量が進められていた。その印があちらこちらに出現して包囲網が狭まっていく中で、予定地のど真ん中なのに用地提供を拒否している「ダハズ農園」の草木が勝手に伐採され、測量に入られていたことがわかった。農園主の木方さんは激怒して防衛局に説明を求めたところ、担当の業者が分からないなどと1ケ月放置されて、その日ようやく防衛局の担当者が農園にやってきたという。木方さんを一人にしてはいけないと、節子さんや周りの農家の人たちなどが急遽立ち会う中、説明を聞いたが「測量はしていないという認識だ」など、のらりくらりとかわすだけで、文書による謝罪を要求したものの誠意のない対応だったという。

   「オン・アラートで、いざ! という時にぱっと集まれる人を増やさないと
    だめね。おばあたちは何人かは行けるけれど……。こんなやり方じゃ、
    辺野古で闘っている方々には呆れられちゃうわ。お行儀が良すぎる、
    石垣の人は」

 業者が来たら、ガンガンガン! と銅鑼を鳴らして村人を結集させ、白保空港建設の阻止行動を闘い抜いた経験があるだけに、80歳を数えても節子さんには熱量がある。自らも戦争マラリアで苦しみ、家族を失った節子さんは「南西諸島防衛」の名のもとに自分たちに降りかかった辛酸の正体をずっと睨みつけて生きてきたのだ。生まれ島がまた毒牙にかけられてたまるか! という覚悟がある。

   「ダハズ農園の木方さんはおとなしい方。でも三上さん。
    彼の大事な、娘さんの誕生を祝って植えた木があるの。それを見てきて。
    彼は絶対その木を切らせたくないのよ

 節子さんと農園を訪ねると、木方さんは快く案内してくださった。そして昨日、ここで行われた防衛局とのやり取りを悔しそうに再現してくれた。自分の農園が自衛隊基地のど真ん中に来ることが分かった3年前から、心労は絶えない。土地は絶対に提供しない、と伝えてからずいぶん音沙汰なかったので、計画が変わって予定地から外れたのだろうと思いかけていた。ところが9月に、無断で伐採やマーキングが行われていたことが発覚した。6歳になる娘は、農園に来たら真っ先にその菩提樹に向かって走り、これ私の木よね? と抱き寄せるそうだ。ここで撮る家族写真の蓄積は、木方さんたち家族が生きている証でもある。いったい誰に、大事な家族の営みをぶった切る権利があるというのだろうか?

   「まるで僕たちは透明人間のように、いないもののように扱われている
    防衛局の人たちは痛みはないのか。娘に、なんでこの木を切るの?
    と聞かれて答えられるのか。ここに、繊細な感情を持った人間が普通に
    生きているんだということをわかってほしい」

 そう言って涙を落とす父親の姿を私のカメラがとらえる。ごく普通に家族で娘の成長を祝う幸せを誰かが奪うそれは表面上は無断で敷地に入った業者であり、知っててそれを指示した防衛局員である。この動画を見る人は木方さんに同情し、防衛局のやり方を憎むだろう。しかし、石垣島がどこかも知らない日本の多くの国民が、政府の考える国防を肯定し、南西諸島に実力部隊を置くことは自分たちの安心だと思っている。アメリカ軍でもいい、自衛隊でもいい。中国も怖いし北朝鮮もまだまだ怖いってテレビで言ってたし、備えあれば、ね……。と漠然と思っている。

 菩提樹を見て泣く父親の映像は、できれば見たくないだろう。誰が悪いのか、周りまわって自分だなんて話は全く聞きたくもない。というわけで、私が石垣島のことを書くと、その記事のアクセス数はいつも割と低い。でも、娘を思う父の想いを踏みにじってまでも安全保障という果実を貪り食いたいとは思わない! と言ってくれる読者もいるだろう、そう信じて動画を編集する。だからこの動画はぜひ見てほしい。

 そして今回のハイライトは、市長も市議会も自衛隊容認という逆境の中で、大事なことはみんなで考えよう、島の未来は自分たちで決めよう、と立ち上がった20代の若者たちの姿である。それは、動画の後半をじっくり見てもらいたい。代表の金城龍太郎さんは、実は3年前から取材している嵩田のマンゴー農家、金城哲浩の息子さんで、彼が留学先のアメリカから戻って農業を手伝い始めた25歳の時に長々とインタビューをさせてもらった。穏やかで口数は少ないけれども、笑顔が印象的な青年だった。世界の国々から戦争の恐怖をなくしたいと国連の職員になりたいと思ったこともあったという。でも生まれた島と農業に正面から向き合っていきたいと、石垣に戻ってきたと話してくれた。ハウスの中で柔らかい光を浴びながら両親と3人でマンゴーの世話をする姿が何か美しい絵のようだった。それでも、自衛隊の話になると彼の顔は曇った。

   「同級生にも入隊した人が何人かいて。その話は同年代でもなかなか……」

 もう一人、『標的の島 風かたか』の中に登場する青年がいる。当時、於茂登の公民館長だった嶺井善さんがウコンの畑で若者に指導する場面だ。嶺井さんは、地域の若者が農業を覚えてここで暮らし、結婚し、子どもを育てる。そうならないと僕たちの地域がなくなってしまうからと、後輩の育成に余念がなかった。そこでトラクターを持っていたのが、伊良皆高虎さん、当時25歳だった。その時に高虎さんは、たまたま同級生の龍太郎さんの話をしてくれた。とても優しくて人格者で、英語もできて、将来は島を背負う男になるというような話だった。私は、ずいぶん仲よしで、お互いに農家の跡取りとして助け合ってるいい関係の二人なんだなあとしか思っていなかった。でも今回、住民投票を求める会の代表になった龍太郎さんを見て、どこにこんな力があったのかと目を見張った。

 ♬
 話そうよ 話そうよ    今日の出来事 未来の夢
 咲かそうよ 咲かそうよ  色とりどりの花 みんなの心に
 話そうよ 話そうよ    大切なこと 島のこと


 「市民大署名運動会」と題したイベントは歌から始まった。ハルサー(畑人)ズ、というバンドを、金城龍太郎さん、伊良皆高虎さん、そして白保の宮良央さんという農家の3青年で組んでいて、この歌は龍太郎さん作だとか。運動会に見立てた署名開始セレモニー、生演奏に、オリジナルビデオでは笑いも取りながら署名集めのルールを会場に伝えるなど、若手の手作り感あふれる集会は終始笑い声に包まれた。この種のイベントには足が向かない人たちも覗いてみたくなる、まつりのような明るさで、住民投票にネガティブな私の心も晴れてきた。法的拘束力はないけど? 市議会で否決されたら? とか意地悪な質問をしてはみたけど、それが場違いだと思えるほど肯定的な空間だった。そのパワーは、眉間にしわを寄せていた節子さんの表情の変化を見ても明らかだろう。頑張ってきた島のお年寄りたちもどんなに救われたことか。

 元気をもらって沖縄本島に帰ろうとした翌日、地域の雑誌に投稿した龍太郎さんの文章を読んで私は頭を殴られたような気がした。「闘う農民のバラッド」というタイトルで彼が島の未来を思って書いた長文。その中にこんな一文があった。

   「もし僕が死んだら、この世の権力によって殺されたんだと思ってください。
    一応冗談です」

 父親の哲浩さんは、「表に立つな」と彼を止めたという。狭い社会の中で顔と名前を出して国家権力と対峙する。お父さんも自衛隊問題が勃発した時の公民館長としてずっと表に出てきただけに、国からだけでなく島内からも飛んでくる矢の痛みをよく知っている。それは傍で見ていた龍太郎さんこそ誰よりわかっているだろう。この明るい運動会の背景にはどれほどの覚悟があるのか。彼らはこの3年でそこまで追い込まれたのだ。結局、私たちの世代は、基地の島の苦しみを次の世代に引き渡したに過ぎないのか。この3年、先島の軍事基地化を全国に知ってほしいと頑張ってきたことも、次世代の防波堤にはならなかったのか

 実は、今回は女の子たちの声も取材しているが出さなかった。すべて覚悟して名前も顔も出す、と決めた3人までにしてほしいという声があったからだ。賛成でもいい、反対でもいい、中立でもいい。でも、島の未来を考えようぜ? と問いかけることが、なぜ「すべてを覚悟」するほど悲壮なことになってしまうのか。しかし前半に書いたように、悲壮なのだ国策に盾をつくこと折れていく周りを見ること無関心という暴力に打ちのめされ、人を信じられなくなること。「基地を造らないで」という闘いは、尋常な神経で長期間向き合い続けられるものじゃない。だからこそ、例えば辺野古の闘いの20年が、石垣や宮古の軍事化に抵抗する人たちの土台になり、身体を投げ出して頑張ってきた大先輩たちの築き上げた台地の上から、次世代の若者たちにはずっとましな闘い方をしてほしいと願う。せめて汗と涙の蓄積は彼らをいくぶん楽にしたと思いたい。しかしそんなことも老兵の部類に入った私レベルの、安っぽい自己肯定願望なのかもしれない。

 でも、今回分かったことは、彼らは本気で何もかも受け止めるつもりで、なおかつ明るく楽しくやろうと決めたということだ。「ビギン」や「きいやま商店」を生んだ石垣島はほかの島とは違う。ハルサーズが音楽でこれをやれるのは、それこそ島人の宝を受け取った島の若者だからこそ。芸と情けの島の本領を、まだ私などは知っちゃあいないのだ。

 「ちょうどよい。盾になるからこの島々にミサイルを置きなさい」と言ったのは、遠い安全な大陸から太平洋を牛耳りたいと思う権力者たちなんだろう。「となりの国が怖いし、この島なら回りも海だから我慢してくれ」と同意したのは、73年前の出来事を反省する力もないこの国のトップなのだろう。「とにかく警備員が多い方が、安心じゃない?」と思考停止した多くの国民がそれを可能にしている。しかし、みんな地図の上に浮かぶ小島のことを、何にも知らないこの島の宝を知るはずがない。それを知っている島人で島の未来を決めよう。彼らの主張はどこまでも正しく、真理であり、最大限に尊重されるべきだし、何の心配もなく最後までやり遂げる環境を作る手伝いを、せめてやらせてくれまいか、と思っている。

 ………。
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●三上智恵さん「結局は止められなかった」という現実…でも、《人々は分断されている》ことを止めなければ

2017年08月27日 00時00分20秒 | Weblog

三上智恵監督『標的の島 風かたか』公式ページ(http://hyotekinoshima.com)より↑]



マガジン9の記事【三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌 第71回:高江から宮古島へ~雪音さんと育子さんからのエール~】(http://maga9.jp/mikami170802/)。

 《『標的の村』の主人公、高江の安次嶺雪音さんと伊佐育子さんだ。…そう思って特集を連打し、放送用ドキュメンタリーの限界を超えようと映画にまでして突っ走ってきた私は、「結局は止められなかった」という現実に、正直に言ってまだ向き合えていない。…でも、ひしゃげている私にもわかることがある。これから自衛隊のミサイル基地建設着手、という局面を迎える宮古島石垣島で、何とかそれを止めようともがく人々にとって、高江の人たちは大事な存在になるということだ》。


 沖縄の先島諸島や鹿児島の奄美など、自衛隊基地配備やミサイル基地建設などで、《いずれの島でも人々は分断されている》(半田滋さん)ようです。番犬様や自衛隊基地により人々は分断され、「統合エアシーバトル構想」により「防波堤」にされる島々。

   『●『DAYS JAPAN』(2015,APR,Vol.12,No.04)の
                         最新号についてのつぶやき
    「丸井春さん【自衛隊基地配備の与那国島 宙に浮く住民の不安】、
     「日本最西端の「国境の島」は、島の活性化を自衛隊誘致にかける形に
     なった」」

   『●中学生を「青田買い」する自衛隊: 
     「体験入隊や防衛・防災講話」という「総合的な学習の時間」も
   『●自衛隊配備で「住民分断」: 
     「自衛隊の配備計画…いずれの島でも人々は分断されている」
    「東京新聞の半田滋さんによるコラム【【私説・論説室から】
     島を分断する自衛隊配備】…。《「賛成派が新たな職を得て
     優遇される一方、反対した人は干され、島を出ている」という。
     …自衛隊の配備計画は与那国に続き、奄美大島、宮古島、
     石垣島でも急速に進む。いずれの島でも人々は分断されている》」

   『●「しかし、沖縄にはいまだ“戦後”は 
     一度たりとも訪れていない」…安倍昭恵氏には理解できたのだろうか?
   『●現在進行形の「身代わり」: 「反省と不戦の誓いを…
             沖縄を二度と、身代わりにしてはならない」
   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」
                …米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その1)
    《しかし、三上監督は最新作『標的の島 風かたか』で、さらに切迫した
     問題を沖縄から日本全国へ提起する。それは現在、安倍政権が
     進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への
     大規模な自衛隊とミサイル基地の配備についてだ。政府は南西諸島の
     防衛強化を謳うが、その実態はアメリカが中国の軍事的脅威に
     対抗すべく打ち出した「統合エアシーバトル構想」にある》

   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」
                …米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その2)
    《現在、安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、
     与那国島への大規模な自衛隊とミサイル基地の配備。政府は
     南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、米中の“新たな戦争”の
     「防波堤」にするのが目的だ──。この衝撃的な事実と、石垣島や
     宮古島、そして辺野古、高江で子どもの未来を守ろうと必死に
     抵抗する市民たちの姿を描いた三上智恵監督の最新作
     『標的の島 風かたか』》

   『●米中戦争の「防波堤」:
     与那国駐屯地による「活性化」? 「島民との融和」か分断か?

    「《安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への
     大規模な自衛隊とミサイル基地の配備》は「統合エアシーバトル構想
     へとつながる。《政府は南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、
     米中の“新たな戦争”の「防波堤」にするのが目的》。米中戦争の
     「防波堤」であり、そのための「捨て石」…。
     「島おこし」「活性化」とはほど遠い」

   『●島袋文子さん「基地を置くから戦争が起こる。
      戦争をしたいなら、血の泥水を飲んでからにしてほしい」


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http://maga9.jp/mikami170802/

三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌
第71回:高江から宮古島へ~雪音さんと育子さんからのエール~
By 三上智恵 2017年8月2日

 変な言い方かもしれないが、私は自分の映画のファンだと思う。自分で散々編集した映像なのに、ただの観客のように心を躍らせて見入る場面がある。正確には作品のファンと言うより、登場人物のファンなのだ。相手に惚れ込んで惚れ込んで撮影し、大事に大事に編集したのだから、観客より監督がまず一番のファンであるのは、ある意味当たり前でもある。だから一つの作品が完成し、過去のものになっても、登場人物たちのその後がもっと見たいという気持ちは、実は観客以上にあるのかもしれない。

 しかし政治家や芸能人ならいざ知らず、被写体になり日常をカメラで追い回されるのはほとんどの人にとって心地よいはずがない。たとえば高江や辺野古の闘争現場でも、世の中に伝えてほしいと思うからこそ多くの人は私たちがカメラを向けても我慢して下さる。でも主人公格だと私に魅入られくっつかれた人は、たぶんいい迷惑でしかない。また来た、と戸惑う表情を向けられる。

 「三上さんが伝えてくれるのは嬉しいし、協力したい。でも、ここまで映すのは…」。敬遠の眼差しはひしひしと伝わってくる。だからこそ、一つの作品が終わったら解放してあげないといけないと自覚している。魅力的な人々だからとずっと追いかけていったら、それこそストーカーだ。もう負荷をかけてはいけない、と自分にブレーキをかけるのも必要だ。わかっている。でもそう言いつつ、今回また二人の女性のその後を映像でお届けする矛盾を許して欲しい。『標的の村』の主人公、高江の安次嶺雪音さんと伊佐育子さんだ。

 彼女たちに出会ったのは2006年、もう11年も前になる。まだ誰も本格的な取材に乗り出していない頃の高江で、ヘリパッドに反対する住民のゲンさんこと安次嶺現達さんと伊佐真次さんの二人を私は主人公に選んだ。その伴侶としてお会いしたのが雪音さんと育子さん。特に育子さんはカメラが嫌いで、いつもインタビューは嫌がっていた。もし育子さんが月並みな女性であれば、嫌がる中で二度三度とカメラを向けたりしなかっただろう。でも彼女は全く気取らない素朴で控えめな女性で、多弁ではないのだが、いつもハッとすることを言う。戻って映像を見ながら、なんて素敵な女性なんだろう、と毎回ため息をつく。育子さんを知る女性なら、私が言う意味をわかって下さると思う。内面から輝くような美人とは育子さんのことだと私は常々思っている。

 そして6人の子どもを育てている雪音さん。下の二人は髙江の自宅で、自力で出産したという肝っ玉母さんで、独自の歌唱ワールドを持つシンガーでもあり、何よりいつも輝くように笑っている。辛かったことも笑って話す才能がすごい。どんなしんどいことでも雪音さんと一緒なら乗り越えて行けそうだと、周りを明るく照らしてくれる太陽のような女性だ。私は母性本能が乏しいほうで、めったに人の子までかわいいと思うことはないのだが、雪音さんの6人の子どもたちは破格にかわいい。目が輝いていて、ちゃんと話ができて、幼いうちから人間力がハンパない。雪音さんとゲンさんに育てられればこうなるのかと納得の家族である。

 高江に住む人たちのこういう人間力がなければ、この10年、ここまで全国の人たちの連帯の輪を拡げることはできなかっただろう。高江の輝く自然と笑顔溢れる人々。それは最初からそこにあり、描くのにあまり苦労はなかった。国家の暴力と向き合う150人ほどの小さな村が「戦後民主主義を守る最後の砦」と言われるほど重視され、彼らと共にありたいと高江を訪ねる人が増え続けているのは、土地と人と、そこに宿る志がシンプルに人を惹きつけて止まなかったからだ。

 しかし、高江のヘリパッド建設に反対して10年も頑張ってきた結果が、去年後半の工事強行であり、6つのヘリパッドがすべて完成という現実である。国が住民を裁判にかけ地形や集落ごと訓練に取り込んでオスプレイを飛ばそうという人権無視の基地計画は、とてもじゃないが容認できない。絶対に止めなければならない。そう思って特集を連打し、放送用ドキュメンタリーの限界を超えようと映画にまでして突っ走ってきた私は、「結局は止められなかったという現実に、正直に言ってまだ向き合えていない

 「この事実を白日の下にさらすことで、絶対に軍隊の好き勝手にはさせない、だから撮影に協力してくれ」。そう啖呵を切っていろんな人に付きまとってきたのに、結局私たちの報道や映画ではこの基地建設を止められなかった。カメラで追い回して人に迷惑をかけただけだった。影響力も訴求力も足りなかったのだ。ベトナム村の話はしたくないと言う住民たちを一人ひとり探し出してマイクを向けたくせに、その負荷は高江のためにならなかった。「今は迷惑に思うかもしれないけど、必ず全国の人たちの力を揺り起こす作品を作るから、待っていて!」と自分を信じて走っていたのは、思いあがりだった。止められなかった。改めて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。これからどの面下げて高江にいけるのだ? どうやって高江を語るのだ? そこから私はまだ全然立ち直っちゃいない

 でも、ひしゃげている私にもわかることがある。これから自衛隊のミサイル基地建設着手、という局面を迎える宮古島石垣島で、何とかそれを止めようともがく人々にとって、高江の人たちは大事な存在になるということだ。座り込みもしたことがなく、運動などとは程遠い生活者であった高江の住民たちが、どうやって声を上げ、分断されつつも仲間を増やし、権力に立ち向かっていく体制を作り上げていったか。私もゼロからそれを見てきたからこそ、宮古や石垣に必要な知恵は10年前の高江であり、20年前の辺野古であるということがわかる。彼ら経験者と離島の人々を結ぶことくらいは私でもできる。

 そう思って去年の秋、山里節子さんら石垣のおばあたちと、宮古島の石嶺香織さんや楚南有香子さんを辺野古と高江に案内して住民たちと出会うチャンスを作った。高江の人たちは特に、これから防衛局を相手する先島の人たちにどんな場面が待っているのか手に取るようにわかるだけに、彼らの不安を丁寧に受け止めて「一緒に頑張りましょうと先島の女性たちの手を強く握ってくれた

 そして7月15、16日、ついに雪音さんと育子さんが宮古島に行く機会がやってきた。私はとっても嬉しかった。何より、すでに航空自衛隊の基地と共存しながら、さらにミサイル基地ができたら挟み込まれてしまう運命の野原(のばる)集落の人々と直接ひざを交えて話す機会が作れたのが大きい。野原出身で、自衛隊配備に反対する上里樹宮古島市議の妻でもある上里清美さんが受け入れ態勢を作って下さったおかげで、雪音さんたちは不安の渦中にある野原の人々に、高江が通過してきた具体的な体験の数々を直に伝えることができた。

 夕方、野原公民館で始まった交流会。

   「宮古島で今、どれだけの人たちが反対の声を上げているのかは
    わからないけど、その人たちに、一人じゃないんだよ、
    私たちもいるから一緒に頑張ろう、と伝えたかった」

 雪音さんは来島の動機をそう話した。

 そして高江の座り込み当初の映像を少し紹介した後で、育子さんはこう切り出した。

   「これが10年前、私たちが始めて座り込みをしたとき、
    道路に座ったときの様子です。私たちははじめ、
    ガタガタ震えていました。普通にこれができたわけではありません」

   「私たち区民は、高江区として反対決議をしているので
    工事はできないだろうと思っていた。でも村長が容認している
    ということで2007年の7月に着工されてしまいました」

 宮古島では、座り込んで反対する住民運動というのはあまり経験がない。自衛隊基地は反対でもそこまではやれない、という消極的な声も上がっている。そして野原は地区として反対の声を上げている。それも、かつての高江とよく似ているのだ。しかも、集落の規模も同じ。野原は自衛隊基地と、高江は米軍北部訓練場と戦後を生きてきたという歴史も共通している。地域の声を黙殺して市町村長が容認してしまっているという点まで全く同じなのだ。

 去年の夏からオスプレイの訓練が本格化し、ヘリパッドに最も近い雪音さんの家では昼夜を問わずとどろく轟音と低周波で子どもたちが体調を壊し、避難を余儀なくされた。その現状を繰り返し訴えても、容認している東村としては何も手を差し伸べてはくれない現実防音工事も、引越しの費用も、何の補償もなく黙殺されたままの残酷な状況を説明しながら、雪音さんは「とにかく、作られてしまったら終わりです。その前に止めましょう」と呼びかけた。

   「胸が詰まる。高江は、宮古島の縮図なんですね。
    私たちは二の舞をしようとしている」

 話を聞いていた野原の女性は涙声になった。会場からは深いため息が漏れた。

 育子さんは言った。

   「高江のヘリパッドはできてしまいました。でもこの壊された自然を
    元に戻すのが私たちの使命です。沖縄の闘いというのは、
    こんな4つのヘリパッドどころではありませんでした。
    戦後ずっと人権を勝ち取っていく闘いが沖縄にあったということを、
    この10年間で先輩たちに教わりました。どうしておじいおばあたちが、
    あの炎天下座り込むのか。私たちは学びました。そしてそれを
    次に伝えていく役割がある。ヘリパッドが4つできてしまったから
    もうやめよう、というような問題ではないということを沖縄の皆さんから
    習ったわけです。まだ始まったばかりなんです

 なんて強くなったんだろう。育子さんは、私たちは学んだ、だから次の役割が見えているのだとさらりと言った。

 オスプレイが沖縄に飛来した2012年10月1日。普天間基地のゲートで肩を震わせていた育子さん。「日本はもう、平和ではないね。平和が崩れ落ちていく」そういって泣いていた育子さんが、同じ日、夕方になってもオスプレイ反対のプラカードを掲げて県道で手を振り続けていた姿を昨日のことのように思い出す。私は目の前に次々に着陸するオスプレイを見て、心が折れ、尻尾を巻いて帰りたい一心だったあの夕方、育子さんは「私はこれであきらめたりはしない」と自らを叱咤激励するように道に立っていた。ドライバーに向かって頭を下げ、一緒に反対しましょうと手を振ることで自分を保っているように見えた。あの時に、彼女の並外れた精神力を垣間見た気がしたのだが、あれからの5年で、育子さんはさらに揺らがない大きな存在に昇華していた。5年前と同じように現状にへこたれている私と、えらい差がついてしまった。

 雪音さんだってそうだ。自分のことのように宮古の人たちの不安を背負う覚悟で乗り込んできた。自然体で。笑顔で。だから、こういう魅力のある人たちだからこそ私は彼女たちのファンがやめられないし、その続きや変化を見たいし、それが私以外の多くの人たちの心を揺さぶる場面になるのだということがわかるから撮りたいのだ。もう撮影はいいでしょ? と苦笑されるのはつらいけど、私以外にも『標的の村』以降の住民たちがどうなっていったのか、自分のことのように気になっているファンがいっぱいいることを私は知っている。それが次の高江を止める力=辺野古や先島の自衛隊配備を止める力に直結すると思うからこそ、結局また同行取材を申し込んでしまうのだ。

 「宮古島では関心は高くはない。みんな犠牲が出てはじめてびっくりするのではないか。そうならないうちに声を上げたいと思います」。参加した女性は最後にそう言って、「反対ののぼりを立てましょう!」と元気よく呼びかけた。

 集落に迫りくる運命がどんなに過酷であるのか、高江の経験を聞くと確かに戦慄する。でも、ヘリパッドがほぼ出来上がった今も、以前より堂々と前を向いて闘い、離島まで応援に駆けつけてくれた彼女たちの笑顔を見て、野原の人たちが受け取ったものは単なる絶望ではなかったはずだ。

 まだ、止められる。敵を知ること。連帯することで、私たちはまだ強くなれるし、頑張れる。これから始まる奮闘は、決して孤独な戦いにはならないことを確認できた夜になった。

………。

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。 (プロフィール写真/吉崎貴幸)
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