Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

室町小説集

2020-06-20 08:48:38 | 読書
昨日の「画人伝」が入っている,花田清輝「室町小説集」講談社文藝文庫(1990/10).

講談社の内容紹介*****
三種の神器の1つの“玉”を巡り、吉野川源流の山奥での武家、公家、入道、神官入り乱れての争奪の顛末。南北朝の対立が生んだ吉野・川上村の伝説が、博渉、強靱な思考の虚々実々の息吹で鮮烈に蘇る。転換期の奔流するエネルギーの“魔”を凝視しつづける常に尖鋭なアヴァンギャルド・花田清輝が、“日本のルネッサンス草創期”の“虚実”を「『吉野葛』注」「画人伝」「開かずの箱」「力婦伝」「伊勢氏家訓」の5篇で構築する連作小説。*****

三種の神器の1つの“玉”が入っているのが「開かずの箱」で,この箱は代々開けられることがなく,箱を包んでいる青い絹の布が古くなれば,古い布はそのままに上から次々とし新しい布で包んでふくれあがっていくことになっている.この曲玉 (勾玉ではなく,花田はこの字を使っている) をめぐって政権争い・戦闘・殺人・流血が続いた.「力婦伝」のヒロインの二人の皇子も北朝に殺され,彼女のもとに“玉”が残る.

しかし彼女は開かずの箱を開けたらしい.“玉”はムササビの爪とニホンカモシカの脊椎骨とに穴を開け,藤鶴でつなぎ合わせた,いとも貧弱な首飾りであった.時代が降って,この“玉”が今上天皇が咋・令和元年5月1日に新宮殿正殿松の間で「剣璽等承継の儀」で継承した神器のひとつの正体ということになる.著者の哄笑が聞こえるようだ.

この“玉”が入った箱は滝の裏側の洞穴に隠されていている.またヒロインは怪力無双の大女で,50貫 (200kg弱) 以上の丸太を担いで吊り橋を往復したりする.そのグラマーぶりに“玉”を奪いにきた入道は骨抜きにされてしまう.彼女は“玉”には何の執着もなく,入道についてきた童にくれてやる.いかにも面白そうだが,わざとつまらなく書いてある.中野孝次の解説に花田の言が引用されている.「わたしが,評論のばあいには,できるだけイメージを尊重し,小節のばあいには,できるだけイメージを排除しようとつとめたことは事実である.そのあべこべの行き方をするのがふつうであろうに.」

その中野孝次は「力婦伝」のヒロインのマムシ退治の記述を嘲笑している.花田は小節中で,谷崎潤一郎や白洲正子が,ちゃんと行きもしない吉野紀行文をもっちもらしく書いたことを揶揄しているのだが,花田だってマムシに触ったこともないくせにマムシ退治を書いているじゃないか...ということらしい.しかしこの忍術まがいのマムシ退治もまた,読者をひっかける著者のお遊びのひとつかと思う.

花田の「小説平家」もこの室町集と似たようなものらしい.付き合うのにエネルギーが要りそう.


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