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Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

陶老師の話,山賊の話

2015-09-24 06:51:34 | エトセト等

大学院学生として在籍のまま2年ほどアメリカの研究所で過ごしたことがある.このとき直接面倒を見てくださったのが,中国人の陶老師 Dr. Tao であった.30 代前半,若くても先生は老師なのだ.
初めてあったときは無愛想だったが,結局,とてもよくしてくださった.
何人かでお茶を飲みながら話しているとき「子供のとき日本軍が来たので逃げ回った」と口にされたことがあった.でも日本人の存在を意識されて,話題はすぐに変えられた.


辻まことの「山賊の話」はこうした件を日本軍の立場から書いた文章である.軍といっても現地人から見れば,鉄砲以外は着の身着のまま,食料 (酒も) を行く先々のから略奪し,それ以上の悪行もしほうだいの山賊である.以下は引用.語り手は山賊 こと 辻まこと.場所は中国大陸のどこか.

..... 13,4 歳の女の子が弟と見える男の子の左腕を川の水に浸して洗っている.傷の手当でもしているようだった.その女の子がフト後ろを振り返った.いままで,そんな寒い目つきで見られたことはなかった.
昔むかし鬼たちが村をおそってどんな凶暴な振る舞いをしたか? 一言一句をおろそかにせずに語り伝えるであろう民話の創始者の顔つきがそこにあった.二百年,三百年私たちの所業はここの人々の子々孫々に語り継がれるに違いなかった......
矢内原伊作編「辻まことの世界」みすず書房 (1977).初出は月刊誌「アルプ」1969-1971 連載.


この女の子と,そのくらいの年齢だった陶老師が重なる.
戦後アメリカで研究者に成るまでの道のりが老師を大人にしたのだろう.葛藤はあったはずだが,日本人 = 山賊という思いは置いといて,初めて離日して心細い日本人学生に親切に接し,帰国後は小生のつたない草稿を流麗な英文に直し,こちらを筆頭著者にして学会誌に発表することまでしてくださった.

いろいろあって,当方はその後進路を変えてしまい,当時の研究をその後の経歴に役立てることはできなかった.
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