nonomさんが書いてくださったルイの物語です。
勝手に加筆したけど、許してね。書いてるうちにルイが好きになって、どんどん長くなってしまいました。
ルイは孤独な少年でした。
裕福な家に生まれ何不自由なく育ちましたが、ただ一つ、愛された記憶だけが無かったのです。
彼の産みの母親は、彼が5歳のときに他界し、金髪で静かな微笑みをたたえた美しい人だったとしか、覚えていないのです。
ルイが8歳の年に父は再婚しますが、次に来た母は、とても社交的な人でした。
ルイの母の美しさと優しさにひかれて結婚した父は、病弱であまり人と合うことを好まない母を愛してはいましたが、
新しい妻による社交術で、家に著名人が集まり有名なサロンとなり、仕事上のつきあいも広がったのをとても喜びました。
継母が来て、屋敷はすっかり変わりました。
壁紙は変えられ、新しい母の華やかな肖像画がかけられ、大輪の花の匂いと、サロンに響くピアノ。
常に着飾った人々であふれ、召使たちは忙しく立ち働きました。
あの暗かった家が、なんと生きいきと明るくなったのだろうと、人々は褒めそやしました。
けれど華やかになればなるほど、ルイには寂しい家になりました。
静かに母が本を読んでくれたあの部屋は、今はちょっとした休憩室になり、そこで貴婦人と若い男が戯れてたりしています。
北側の小さな日のあたらない部屋に、母の肖像画と遺品はまとめられました。
そこに入り、そっと母の残した刺繍入りのハンカチや、本を眺めるしか、母を思い出す術はありません。
やがて妹が生まれましたが、世話は乳母に任されました。そのうち修道院に入れられ、結婚相手が決まったら出てきて嫁ぐのでしょう。
彼はあまり笑わない無口な少年になりました。居場所をみつけられず、パリの街を徘徊するようになりました。
目抜き通りは、とても美しいのに、一歩路地に入ると、そこには見たこともない世界が広がっています。
年端もいかない少女が彼の袖をひきます。売春婦です。
うつろな目をした男が、ルイをじっとみつめています。何か盗むつもりでしょうか。
最初は嫌悪感でいっぱいだった彼も、何度もそこを通るうちに、彼らも人間であり、生活をしているのだと理解するようになりました。
月日は流れ、ルイは17歳になりました。パリ大学に入り、社交的な母の配慮のお陰で、見た目はとても美しい貴公子でした。
やや小柄で華奢でしたが、女にしてもおかしくないほどの美しい顔立ちと金色の髪を持つ彼に、令嬢たちは夢中になりました。
有利な結婚相手をみつけて、立身出世を遂げ、一族の名誉を盛り立てる、それがルイの幸せだと信じる両親は、ルイが
令嬢たちに巻き起こした熱狂を喜びました。
しかし当のルイは、熱狂されればされるほど、何かしらの違和感を感じていました。
男たちの話す令嬢たちには聞かせられない話、それらも、ルイには何の感興も呼び起こしません。
自分も彼らのように欲望に突き動かされたい・・・ルイは悩みました。
令嬢たちとは踊ることしか許されていない彼らも、裏ではグリゼットと恋をしたり、娼婦を抱いたりしています。
わざと下卑た調子で共犯者意識を楽しむ・・・彼らにとっては無上の喜びらしいそれも、ルイにはどうでもいいことでした。
女たちの滑らかな白い肩にも、さざめくような嬌声にも、何も感じないということを、ルイは誰にも話せません。
彼はますます孤独を好むようになりました。
そんなある日のこと、いつものようにルイは街を歩いていました。
最近、街はざわついています。1930年、パリはまたもや王政復古で一部の金持ちや貴族の世の中になり、シャルル10世は
再び革命前のように、貴族の優遇と庶民の言論統制をはじめたのです。
演台で誰かが演説していました。若々しいよく通る声で、少し威圧的なしゃべり方です。
振り返ったルイは、雷に撃たれたように動けなくなりました。
それは、衝撃的な出逢いでした。
背の高い若い男が、金色の髪を少し乱して、熱っぽい口調で語りかけていました。
こんな綺麗な人間を、ルイは今まで見たことがありません。彼から一時たりとも目が離せないでいました。
少々偉そうで、少し扇動的な様子は、他の人間なら反発を起こさせたでしょう。
しかし、彼の天使のような美貌は、それすら魅力的に見せ、みなは聞き入っていました。
ルイは体が熱くなるのを感じました。今まで感じたことのないものです。
父親のような兄のような、または恋人のような、母親のような、尊敬、憧れ、愛情、どう表現していいのかわからない
特別な感情が、彼の胸を射抜いたのです。
演説を終え、台を降りた彼に近づきたいと思ったのですが、人ごみに押されて近づけません。
次の日にそこに行くと、違う人物が演説していました。
もう一度逢いたいと思ったのですが、それきり彼には逢えませんでした。
ルイの家では、毎日のようにサロンが開かれ、音楽家や詩人、思想家や政治家、そして美しい貴婦人たちが寄り合っています。
ルイを一流のダンディに仕立てたい継母は、いつもルイを誘います。
断りきれなくて、たまにルイも顔を出します。
そしてルイは、そこにあの金髪の青年をみつけたのです。
彼は、その場にふさわしくない少しくたびれた紫の上着を着て、所在なさそうに立っていました。
しかし、そんな格好をしていても、やはり彼は絵から抜け出たように美しく衆目を集めていました。
彼をみつめているルイを見て、継母がやってきました。
彼は継母の遠縁でした。
マルセイユで船舶会社を営んでいるブルジョワの一人息子で、パリ大学の学生だそうです。
「優秀な成績で入ったのに、いつまでも卒業しようとしないで、なにをしているのかわからないんですって。
様子を見て欲しいと言われたんで呼んだけれど、まさかあんな格好で来るなんて」
そう言いながらも、継母は少し誇らしそうでした。少しみすぼらしい服が、かえって彼の典雅な魅力を引き出して
いるからです。彼は、貴婦人たちに取り囲まれていました。
いつものルイなら、決してしないことですが、彼にどうしても近づきたいという気持ちが湧いてきて、
思い切って声をかけました。
「少しまえに街であなたをお見かけしました。」
すると、彼は、ほっとしたようにルイに近づいてきました。
意外なことですが、彼も女性が苦手なようでした。
彼の名はアンジョルラス。
ルイが演説に感銘を受けたと聞くと、カフェミュザンという彼らのたまり場を教えてくれました。
そして、用事は済んだとばかりに、すぐに帰ってしまいました。
ルイは、いつしかカフェミュザンに通い詰めるようになりました。
アンジョルラスの側にいたかったのです。
なぜそんなにアンジョルラスに惹かれるのかは、ルイにも分かりません。
ただ、使命にもえる彼の強さに尊敬を感じ、仲間を思う優しさに心打たれ、ひたすら心酔していきました。
実は、ルイが次に彼に会った時、アンジョルラスはルイを覚えていませんでした。
アンジョルラスには不思議なところがあって、決して冷たくはないのに、誰ともあまり親しくはしていません。
いっしょに長くやっているコンブフェールやクールフェラックも、彼と笑いあったりは、あまりしないようです。
それでも、いや、それだからこそ、彼は公明正大で、誰にも公平なリーダーでした。
アンジョルラスと仲間たちは、思っていないことは口にしません。
学生もいれば、労働者もいる、貴族の息子もいましたが、ここではみな同じ扱いでした。
激しく言い合いをしても、次の日には、また親しげに話しています。
ねえ、聞いて聞いて~我輩はマルセイユ生まれで船会社の御曹司である。 名前はまだ無い。
ルイは、もう子供ではなかったので、継母の社交術が、必要なものだというのは理解していました。
けれど、そこにある駆け引き、必要な人間と、もう不要になった人間にわける、ある種の政治力が
大嫌いでした。もてはやされる「時の人」も、次の瞬間にはお払い箱になる・・・そして、自分の意見より
世間の意向をすばやくかぎ分ける、あのサロンでは、それが普通のことでした。
ここには駆け引きがありません。信頼があるだけです。
ルイが欲しかった空間がそこにはあったのです。
そう、そこは、不思議な愛に溢れていたのです。
幼いころ母の部屋で感じた安らぎを、ルイはここで感じることができました。
アンジョルラスは言ったことを必ずやる男でした。
彼は、その年の7月革命に、銃を持って、数人の仲間と共に参加しました。
3日間の篭城の末、王を国外に追い払ったのです。
国王は、貴族寄りのシャルルから、民衆の王、ルイ・フィリップに変わりました。
恵まれた身分でありながら、命を賭けることができる彼らにルイは感銘を受けました。
そして、傍観していた自分を恥じました。
もし、今度、命を賭ける戦いがあれば、必ず一緒に戦おうと決心を固めたのです。
いつのまにか、彼の世界はアンジョルラスが全てになっていました。
彼がいてくれれば、孤独な自分から解放されるのです。
アンジョルラスの周りは暖かかったのです。
けれど、それだけでしょうか?
ルイは、あるひとつの感情を、まともに見るのを避けていました。
彼の心の奥の奥、決して考えようとしない、彼自身が目を背けてきた感情・・・
しかし、それは確かにあったのです。
勝手に加筆したけど、許してね。書いてるうちにルイが好きになって、どんどん長くなってしまいました。
ルイは孤独な少年でした。
裕福な家に生まれ何不自由なく育ちましたが、ただ一つ、愛された記憶だけが無かったのです。
彼の産みの母親は、彼が5歳のときに他界し、金髪で静かな微笑みをたたえた美しい人だったとしか、覚えていないのです。
ルイが8歳の年に父は再婚しますが、次に来た母は、とても社交的な人でした。
ルイの母の美しさと優しさにひかれて結婚した父は、病弱であまり人と合うことを好まない母を愛してはいましたが、
新しい妻による社交術で、家に著名人が集まり有名なサロンとなり、仕事上のつきあいも広がったのをとても喜びました。
継母が来て、屋敷はすっかり変わりました。
壁紙は変えられ、新しい母の華やかな肖像画がかけられ、大輪の花の匂いと、サロンに響くピアノ。
常に着飾った人々であふれ、召使たちは忙しく立ち働きました。
あの暗かった家が、なんと生きいきと明るくなったのだろうと、人々は褒めそやしました。
けれど華やかになればなるほど、ルイには寂しい家になりました。
静かに母が本を読んでくれたあの部屋は、今はちょっとした休憩室になり、そこで貴婦人と若い男が戯れてたりしています。
北側の小さな日のあたらない部屋に、母の肖像画と遺品はまとめられました。
そこに入り、そっと母の残した刺繍入りのハンカチや、本を眺めるしか、母を思い出す術はありません。
やがて妹が生まれましたが、世話は乳母に任されました。そのうち修道院に入れられ、結婚相手が決まったら出てきて嫁ぐのでしょう。
彼はあまり笑わない無口な少年になりました。居場所をみつけられず、パリの街を徘徊するようになりました。
目抜き通りは、とても美しいのに、一歩路地に入ると、そこには見たこともない世界が広がっています。
年端もいかない少女が彼の袖をひきます。売春婦です。
うつろな目をした男が、ルイをじっとみつめています。何か盗むつもりでしょうか。
最初は嫌悪感でいっぱいだった彼も、何度もそこを通るうちに、彼らも人間であり、生活をしているのだと理解するようになりました。
月日は流れ、ルイは17歳になりました。パリ大学に入り、社交的な母の配慮のお陰で、見た目はとても美しい貴公子でした。
やや小柄で華奢でしたが、女にしてもおかしくないほどの美しい顔立ちと金色の髪を持つ彼に、令嬢たちは夢中になりました。
有利な結婚相手をみつけて、立身出世を遂げ、一族の名誉を盛り立てる、それがルイの幸せだと信じる両親は、ルイが
令嬢たちに巻き起こした熱狂を喜びました。
しかし当のルイは、熱狂されればされるほど、何かしらの違和感を感じていました。
男たちの話す令嬢たちには聞かせられない話、それらも、ルイには何の感興も呼び起こしません。
自分も彼らのように欲望に突き動かされたい・・・ルイは悩みました。
令嬢たちとは踊ることしか許されていない彼らも、裏ではグリゼットと恋をしたり、娼婦を抱いたりしています。
わざと下卑た調子で共犯者意識を楽しむ・・・彼らにとっては無上の喜びらしいそれも、ルイにはどうでもいいことでした。
女たちの滑らかな白い肩にも、さざめくような嬌声にも、何も感じないということを、ルイは誰にも話せません。
彼はますます孤独を好むようになりました。
そんなある日のこと、いつものようにルイは街を歩いていました。
最近、街はざわついています。1930年、パリはまたもや王政復古で一部の金持ちや貴族の世の中になり、シャルル10世は
再び革命前のように、貴族の優遇と庶民の言論統制をはじめたのです。
演台で誰かが演説していました。若々しいよく通る声で、少し威圧的なしゃべり方です。
振り返ったルイは、雷に撃たれたように動けなくなりました。
それは、衝撃的な出逢いでした。
背の高い若い男が、金色の髪を少し乱して、熱っぽい口調で語りかけていました。
こんな綺麗な人間を、ルイは今まで見たことがありません。彼から一時たりとも目が離せないでいました。
少々偉そうで、少し扇動的な様子は、他の人間なら反発を起こさせたでしょう。
しかし、彼の天使のような美貌は、それすら魅力的に見せ、みなは聞き入っていました。
ルイは体が熱くなるのを感じました。今まで感じたことのないものです。
父親のような兄のような、または恋人のような、母親のような、尊敬、憧れ、愛情、どう表現していいのかわからない
特別な感情が、彼の胸を射抜いたのです。
演説を終え、台を降りた彼に近づきたいと思ったのですが、人ごみに押されて近づけません。
次の日にそこに行くと、違う人物が演説していました。
もう一度逢いたいと思ったのですが、それきり彼には逢えませんでした。
ルイの家では、毎日のようにサロンが開かれ、音楽家や詩人、思想家や政治家、そして美しい貴婦人たちが寄り合っています。
ルイを一流のダンディに仕立てたい継母は、いつもルイを誘います。
断りきれなくて、たまにルイも顔を出します。
そしてルイは、そこにあの金髪の青年をみつけたのです。
彼は、その場にふさわしくない少しくたびれた紫の上着を着て、所在なさそうに立っていました。
しかし、そんな格好をしていても、やはり彼は絵から抜け出たように美しく衆目を集めていました。
彼をみつめているルイを見て、継母がやってきました。
彼は継母の遠縁でした。
マルセイユで船舶会社を営んでいるブルジョワの一人息子で、パリ大学の学生だそうです。
「優秀な成績で入ったのに、いつまでも卒業しようとしないで、なにをしているのかわからないんですって。
様子を見て欲しいと言われたんで呼んだけれど、まさかあんな格好で来るなんて」
そう言いながらも、継母は少し誇らしそうでした。少しみすぼらしい服が、かえって彼の典雅な魅力を引き出して
いるからです。彼は、貴婦人たちに取り囲まれていました。
いつものルイなら、決してしないことですが、彼にどうしても近づきたいという気持ちが湧いてきて、
思い切って声をかけました。
「少しまえに街であなたをお見かけしました。」
すると、彼は、ほっとしたようにルイに近づいてきました。
意外なことですが、彼も女性が苦手なようでした。
彼の名はアンジョルラス。
ルイが演説に感銘を受けたと聞くと、カフェミュザンという彼らのたまり場を教えてくれました。
そして、用事は済んだとばかりに、すぐに帰ってしまいました。
ルイは、いつしかカフェミュザンに通い詰めるようになりました。
アンジョルラスの側にいたかったのです。
なぜそんなにアンジョルラスに惹かれるのかは、ルイにも分かりません。
ただ、使命にもえる彼の強さに尊敬を感じ、仲間を思う優しさに心打たれ、ひたすら心酔していきました。
実は、ルイが次に彼に会った時、アンジョルラスはルイを覚えていませんでした。
アンジョルラスには不思議なところがあって、決して冷たくはないのに、誰ともあまり親しくはしていません。
いっしょに長くやっているコンブフェールやクールフェラックも、彼と笑いあったりは、あまりしないようです。
それでも、いや、それだからこそ、彼は公明正大で、誰にも公平なリーダーでした。
アンジョルラスと仲間たちは、思っていないことは口にしません。
学生もいれば、労働者もいる、貴族の息子もいましたが、ここではみな同じ扱いでした。
激しく言い合いをしても、次の日には、また親しげに話しています。
ねえ、聞いて聞いて~我輩はマルセイユ生まれで船会社の御曹司である。 名前はまだ無い。
ルイは、もう子供ではなかったので、継母の社交術が、必要なものだというのは理解していました。
けれど、そこにある駆け引き、必要な人間と、もう不要になった人間にわける、ある種の政治力が
大嫌いでした。もてはやされる「時の人」も、次の瞬間にはお払い箱になる・・・そして、自分の意見より
世間の意向をすばやくかぎ分ける、あのサロンでは、それが普通のことでした。
ここには駆け引きがありません。信頼があるだけです。
ルイが欲しかった空間がそこにはあったのです。
そう、そこは、不思議な愛に溢れていたのです。
幼いころ母の部屋で感じた安らぎを、ルイはここで感じることができました。
アンジョルラスは言ったことを必ずやる男でした。
彼は、その年の7月革命に、銃を持って、数人の仲間と共に参加しました。
3日間の篭城の末、王を国外に追い払ったのです。
国王は、貴族寄りのシャルルから、民衆の王、ルイ・フィリップに変わりました。
恵まれた身分でありながら、命を賭けることができる彼らにルイは感銘を受けました。
そして、傍観していた自分を恥じました。
もし、今度、命を賭ける戦いがあれば、必ず一緒に戦おうと決心を固めたのです。
いつのまにか、彼の世界はアンジョルラスが全てになっていました。
彼がいてくれれば、孤独な自分から解放されるのです。
アンジョルラスの周りは暖かかったのです。
けれど、それだけでしょうか?
ルイは、あるひとつの感情を、まともに見るのを避けていました。
彼の心の奥の奥、決して考えようとしない、彼自身が目を背けてきた感情・・・
しかし、それは確かにあったのです。