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ステンレス鋼の熱処理

2006年12月20日 | 刃材や金属そして錆

 刃物鋼の熱処理には色々な配慮が必要ですが、特にステンレス鋼は今までの鋼に
おける熱処理の一般常識が逆に大きな誤解を生んでしまう点があり、ステンレス鋼の
持つ特性に対しての充分な知識と厳重な管理が必要です。

13%クロムにしろ20%クロムにしろ、単一のクロム元素をこれほど多量に
添加する事は刃物鋼についてはメリットよりデメリットの方が多いのです。 

例えば、0、6%炭素・13%クロム含有のステンレス鋼を例にとれば、メーカー
素材の板状の焼鈍材では、主材である鉄(Fe)の母地は
①鉄+(0、03%炭素と6%クロムの個溶成分と)+ ②クロム複炭化物(0、57%と
炭素と7%クロム+鉄)の 2種類の合金で構成されています。
この炭化物は一般には M23C6・M7C3 という記号で表され例えばM23C6は
メタル原子23に対し炭素原子6個を表しています。
このように他の合金元素が鉄母地結晶の中に、溶け込んでいる状態を
「固溶」と呼んでいます。

鋼材全体のクロム量がいかに多量であっても、耐食性に影響するのは母地に固溶され
たクロム量だけで、複炭化物であるクロムはほとんど役に立ちません。
ですから焼鈍材では6%しかクロムが固溶されていないので、簡単にサビが
発生してしまいます。

また、炭素も0、03%固溶されているだけなので、非常に軟らかく生鉄に近い
硬さです。

それでも素材の硬さ試験を行うと、生鉄より硬く測定されるのは、「M3C」と呼ばれる
鉄原子3個と炭素原子1個の炭化鉄や「M23C6」及び「M7C3」の複炭化物が
母地中に存在しているので、硬さ試験機のダイヤモンド圧子の圧子変形量が
抵抗を受け硬さとして表されることによります。

また炭素は、ステンレス鋼にとっては不純物であり、炭素が増加するほど耐食性は
低下します。 ステンレスはフェライト系とオーステナイト系の様に、加熱によって
鉄の結晶構造の一角にクロムを置換個溶させ、全結晶構造に各1個のクロムを
配布した状態にすると耐食性が最も大きくなります。

これは理論的な考えですが、この全戸配布にはクロム11、2%が必要だとされてい
ます。 ステンレス鋼のもう一つの元素である炭素は結晶構造の中心や結晶面の
中央に侵入して、結晶構造の枠組みを強化させる役目をします。

これを鋼の結晶の構造的な表現「対心立方構造」と「面心立方構造」と呼びます。

基本的構造として、鉄に炭素を加えることで「鉄」から「鋼」と呼び方が変わるのです。

炭素やクロム原子がこの鉄の母地の中を移動するには熱の力を借りて結晶の枠を緩めたり
枠内を鉄原子が動きやすくしてやり、炭素やクロム原子をその隙間に移動させます。

この温度がオーステナイト化温度と表現され、熱処理技術に最も大切なポイントです。

このオーステナイト化温度を「Ac1」変態点と呼び、原子の移動がほぼ完了する温度を
「Ac3」変態点と呼んでいます。 このAc3の状態から冷却を開始します。
焼入開始温度で一番低いのは共折鋼の730℃で、一番高いのがSKH(高速度鋼)の
1250℃です。 (その時の炭素含有量は0、765%) この520℃もの
温度差があるのは合金された元素の質と量によるもので、ステンレス鋼では
1000℃~1100℃の間が合金元素量によって計算されています。

7年前に作成した資料からの抜粋。


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