『Cutlery』と呼ばれる名前の特許を持つ鋼は、基本として
9~16%クロム、0,7%以下の炭素を含み、発表されてから間もなく
アメリカ・カナダ・フランスでも1915年~1917年に、この合金に関する
特許権を取得して広く普及することになります。
さらにブレアリーはニッケル(Ni)・コバルト(Co)・銅(Cu)
タングステン(W)・モリブデン(Mo)・バナジュウム(V)などの
少量添加についても特許の中で記載して有り、それらを総称しての
『Stainless steel』はブレアリーの登録名称となっています。
アメリカではブレアリーの特許に抵触しない刃物用ステンレス鋼として
18%~19%クロム・0.6~1.0%炭素のマルテンサイト鋼(焼入硬化が可能)が
開発され、これが後にAISI440系ステンレスに発展しました。
またアメリカでは高クロムで焼入硬化しないフェライト系
ステンレス・0.07%~0.15%炭素・14%~16%クロムの鋼種が開発され
現在のAISI430型になり、さらに高クロム(25%クロム)鋼の開発から
クロムが著しく多いと焼入硬化しないため、フェライト系ステンレス鋼と
分類される現在のAISI446の原型になりました。
1926年アメリカでの事です。
そろそろ耳から煙が出ている頃かも知れませんが、最後まで読むと
きっと良い事が有りますので…
ドイツではクルップ社で耐高温材料として、1910年頃から13%~14%クロム
35%ニッケルの『 Nicro Therm 4』を生産しており、この後の研究で
複数の合金比を持つVIM,V2Aの商品名で発売され、現在のAISI414
(12クロム・2ニッケル)系と431(16クロム・2ニッケル)系の
原型で、さらに、現在一般的に使われる『18-8(エイティーン・エイト)』と
呼ばれるオーステナイト系ステンレス鋼の原型となります。
あなたの自宅にも有る台所の流し台がたぶんこれですよ!
B)ステンレス鋼の種類
その後、多くのステンレス鋼が開発され、炭素をほとんど含まず、焼き入れに
よっても硬化せず、その後の焼戻しで『折出硬化』と呼ばれる硬化現象を起こす
JISではSUS630とSUS631系統のステンレス鋼や
ヘインズ・ステライトと呼ばれる開発者の名前が頭につく
特殊合金が開発されました。
ダラダラと長くなってもいけませんので… 多くの逸話、技術上の物語などは
割愛させていただきますが、ここからは現在刃物用として市販される
ステンレス鋼素材についてだけ簡単に述べていきましょう。
焼入硬化性(マルテンサイト系) ステンレス鋼で刃物用 溶解した粗鋼より
ロール圧延されたものをプレスによって型抜きして使用する。
● 13%クロム合金 炭素0.3%~1.1%量の範囲の合金で0.8%炭素含有を
基準とするもの
● 17%クロム合金 炭素0.7%とするものからクロムの比率を変えず炭素が増え
0.85%炭素を基準とするものや1.1%炭素を基準とするものなどが有る。
日本が、世界の大部分のシェアを含めている、安全カミソリ刃用の鋼は
ほとんど13%クロム・0.6%炭素系で、精密な熱処理コントロールと
ロール圧延方法に独自の工夫が加えられ作られています。
熱間・冷間で多段、多軸圧延によって0.1mm厚の帯鋼に仕上げられ、世界でも
最高の品質水準を誇っています。
ステンレス系粉末合金鋼は、これも日本が世界のシェアのほとんどを占めています。
摩擦による熱で脆く変質しにくい性質から、元来工具用途なのですが
最近は技術革新から刃物用の素材として転用可能なものが
すでに刃物に使われています。(通称ハイス鋼と呼ばれています)
この素材で作られたカットシザーは、かなりの硬度があり、一度丁寧に
刃付けをしたら、結構永切れしますので床屋向きのハサミかも知れません。
まだ技術的な要因や製造コストなどの問題から、どこでも作れる
シザーでは有りませんが次世代のカットシザーの主役として
位置づけされる期待が有ります。
このハイス鋼で作られたシザーは、理美容業界の材料屋さんでは扱っていません。
理美容の材料屋さんではそこまでの必要性を理解出来ないからです。
現在、私の手元にプロトタイプの数丁しか有りませんが
もしもご興味のある方には貸し出しを致します。