[20日 ロイター] - 中国国家主席の任期が憲法上撤廃され、習近平主席が自らの終身化を選択したことで、政治統制の維持に向けたハイテク技術の導入ペースが鈍化するのではないかとの疑問は解消された。これは米国のテクノロジー業界が、難しい決断を迫られることを意味する。
中国は21世紀版の「監視国家」を構築しつつあり、意図的か否かはともかく、米テクノロジー業界のトップも、その片棒を担いでいる。
中国における商機を追求するというビジネス上の根拠はずっと前から明確だ。しかし、計画通りにビジネスを進めていくべきかという、彼らが現在直面している倫理的な問題が、焦点となっている。
もちろん、独裁色を強めつつある中国によって悩まされているのはテクノロジー業界トップだけではない。
ますます保護主義に傾く中国の通商政策、そして南シナ海の人工島における軍事基地化に支えられた広汎な領有権の主張によって、習主席が西側が定めた世界秩序の中で与えられた役割に落ち着くどころか、ルールに従って行動することさえ期待できないという見方が、米政府内で広がっている。
米シリコンバレーの業界トップらは、製造拠点として、また市場としての中国に対して巨額の投資を行ってきた。改革を通じて国家部門の役割が低下し、規制が緩和され、中国市場が米国との類似性を強めていく中で、政治リスクは低下するという期待に賭けていたわけだ。
こうした期待が実現しそうにないと認めるとすれば、新たな戦略と収益予測が必要となるが、それは、どんな最高経営責任者(CEO)にとっても、とうてい乗り気になれる話ではない。
さらに業界リーダーたちは、もっと根本的なジレンマも抱えている。それは、中国における自社の役割と、誕生しつつあるハイテク監視国家との折り合いをどうつけるか、という問題だ。
中国が公表している国内治安向け年間予算は1900億ドル(約19兆9000億円)を上回るが、実際の支出額は隠されている。国防予算のように、実際の数値には隠れた支出が含まれる。特に目立つのがIT分野であり、そこにはシリコンバレーから購入可能な、あるいは盗用可能なものが何でも含まれる。
その原型がすでに現れているのが新疆ウイグル自治区だ。
隣国パキスタンとアフガニスタンに接する国境地帯にある新疆には約1000万人のウイグル族が暮らす。ムスリム主体の少数民族で、自治を求めて幾度か武力闘争に訴えており、中国当局が抑圧的な統治を行うに至った。ここでは、治安当局が監視カメラ、ソフトウェア、データベースを連携させ、数千人の市民をリアルタイムで監視している。
顔認識技術と人工知能(AI)を利用した同ネットワークは、わざわざ自宅や職場以外の場所に向かおうとする住民を追跡。「テロ行為」を予測するという目標の下で、近い将来にはスマートフォンやオンライン銀行口座などの情報源から行動データを集める可能性がある。
テクノロジー業界に関わっているのは中国の国防関連企業だけではない。電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディング(BABA.N)は、国内の「スマートシティ」プロジェクトに向けてAIやセンサーなどのテクノロジーに投資している。
約800の都市が、交通管制、緊急サービス、モバイル決済などの処理にハイテクを活用したインフラを構築、もしくは計画しているため、新疆で開発された仕組みを支援するようなシステムアリババが準備していると推測することは妥当だろう。
アリババは治安当局が何を希望するかを予測さえしていた。可能性があるのが、アリババがモバイル決済システムの一環として開発する国内消費者のオンライン信用スコアを計算するアプリだ。これは単に消費者の個人的な財務データに留まらず、「客観的評価」のためにオンラインでの行動に関する情報も吸い上げるものだ。
自社の信用スコア計算アプリを支えるテクノロジーの潜在的な市場について、アリババには確かな目算がある。中国共産党は4年前、市民の政治的な信頼性を評価するために、ビッグデータを基盤とする「社会信用」格付けシステムを求めていた。
この取り組みは進行中だと推定される。
治安当局がAIとクラウド・コンピューティングを用いて、スマートフォン、クレジットカード、電子メール、テキストメッセージ、ソーシャルメディアでの言動、リアルタイムの映像を収集し、操作すれば、反体制派に対する監視能力は格段に上がる。
クラウド・コンピューティングを例に取ろう。
中国内にあるクラウドサービスの約8割は中国企業によって提供されているが、最新のソフトウェアの開発やその展開という点で世界をリードしているのは米国企業である。
クラウド関連のインフラで名高いアマゾン・ドット・コム(AMZN.O)とマイクロソフト(MSFT.O)も中国企業と提携している。アマゾンは12月、中国で2番目となるデータセンター開設を発表。オラクル(ORCL.N)とアップル(AAPL.O)も新たなデータセンターを開いている。
これらの企業は、新たに施行された厳格なサイバーセキュリティ法によって不愉快な選択を迫られていることを承知している。2017年に採択されたこの法律は、中国人ユーザーのデータをすべて国内に保管することを義務付けている。
この法律により中国当局は、自国の「国家安全保障、名誉、国益」に危険があると考えられる場合、クラウドの専用システムだけでなく、保管データそのものに対しても広範囲のアクセス権を得ることになる。
オラクルやアップル、アマゾンなどの企業は、自社の評判だけでなく知的財産権に対しても脅威が及ぶことを認識しており、データセンターの運営を中国の提携企業に委ねることで、この問題を巧みに回避しようと試みている。だが米国企業が直接関与していない仕組みに変えたところで、倫理上の問題はほとんど解決されない。
オラクルの場合、提携先である騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK)が自社施設を使って事業を運営する。巨大ネット企業であるテンセントは中国政府とも密接に協力している。
検閲センサーやこうした治安サービスは、10億人ものユーザーを擁する騰訊のインスタントメッセージングサービス「微信」を休みなく監視している。アップルの提携先として新たなデータセンターを運営するのは、貴州省政府によって経営される国有企業である。
またアップルは、顧客データ保護に用いられる暗号化キーを、「現地の法律遵守のため」中国内で保管することを発表。アップルは、暗号化キーは自社の管理下に置かれ、合法的な情報提供の要求に応えるだけで、データ全体に対する要求には応じないと強調している。とはいえ、治安当局が思い通りに振る舞えないことなどめったにない中国で、この約束を守るのは困難ではないだろうか。
中国政府による統制強化に対し積極的な支援姿勢をみせている企業もある。昨年11月には、米ユナイテッド・テクノロジーズ(UTX.N)、クアルコム(QCOM.O)、シーゲート・テクノロジーstx.oは、セキュリティ関連の専門見本市「中国パブリック・セキュリティ・エキスポ」に自社製品を出展した。
潜在的なビジネスの可能性が大きいのは言うまでもない。中国におけるビデオ監視関連の売上高は今年80億ドルに達する可能性があり、世界全体の約半分のシェアを占めることになる。
もちろん各社の広報担当者は、自社の価値観や、1989年の天安門事件後に導入された、犯罪対策や捜査関連製品の中国向け輸出を禁じた米国法の遵守を口にすることを忘れない。だが、事故の犠牲者を特定するために監視カメラ映像を警察のファイルにリンクさせる技術は、抗議行動に参加する人々についても同じように使えるのだ。
確かに、中国市場におけるリスクとチャンスを比較することは、中国の課題を巡る議論が活発化する中で、より複雑化している。
中国に投資するIT企業にとって、問題は高まる抑圧や技術盗用、検閲強化にどう対応するかという点にとどまらなくなっている。
彼らが10年前、さらなる改革を見込んで中国市場の成長に賭けた投資について、この国がますます独裁色を強め、米国の競争相手となりつつある中で、維持できるのか、という問題なのだ。
その答えを見出すためには、米国政府の支援が必要だ。
トランプ政権と米国議会は知的財産権の盗用などの問題を検討し、中国向け投資について国家安全保障上の検証拡大を求めているが、こうした取り組みは散発的で戦略性に乏しい。
習体制下の中国が外国企業に対する干渉を深める中で、技術損失や競争力低下だけでなく、諜報活動やサイバー戦争といった点でも、シリコンバレー企業による中国進出がもたらす脆弱性について国家レベルでの検証を行うのは、現在でもすでに遅きに失した印象は否めない。
以上、ロイターコラム
中国の監視社会については、びっくりしますね。
おそらく裏でアメリカのIT会社が支援していることでしょう。
こういう社会はプライバシィーもなくなり、羊飼いと羊の関係が作られ、人権は全くない状況が作られていくことでしょう。
日本の左翼は中国を礼賛しますが、この件について朝日新聞が批判するなら、評価しますが、何も発信しないなら仲間だということですね。
将来の世界はこんなになってしまうのでしょうか?