詩  もののかけら

2015-11-16 20:42:45 | 
   〈もの〉のかけらについての覚書
                 
 *モノローグ

水平線の入道雲には
スイカのたねがくっついていた
夏のかけらが かためをつぶって
砂浜のむすめたちにサヨナラをすると
よふけて オトコもオンナも
ペンションの部屋でもののかけらとなった

磁気の消えた道で
にびいろの斧をふりおろすたびに
とびちったきつねの血をあびて
わたしの名はみるみるもののかけらにかたちをかえ
わたしからはなれていったのだ

 *〈もの〉のかけら

花火 夏の思い出は形にしてしまうと壊れやすいのか壊れる
ことでかけらははなやかであろうとするのか元にはもどらな
い形で かけらは悲しみを夏から秋へ引きずっていこうとし
ている

水母(くらげ) かけらは陸のくらげ ふにゃふにゃのくに
ゃくにゃのもののけのもぬけのかけら 昼夜を問わず世間様
の厄介者のように浮世に投げ捨てられて 浮きつ沈みつかけ
らのくらげ

土器(かわらけ) 過去の古里からのお届けものは 丁重な
空調のなかで在りし日の形を彷彿とさせてはいるが はき落
とされた土を惜しみ かけらとしての永い眠りから醒めるの
を拒んでいる

お化け かけらは夕方のお化け おばあちゃんの言っていた
人さらい 気持ちが悪いが気になるかけらはおばあちゃんが
耕していた畑で日が暮れるのを待っている もうすぐかけら
の上にも霜柱が立つ

骨 かけらは骨とは無縁である 骨はかけらではない 骨は
在りし日の名と呪縛をとどめ生物の臭いを消すことはできな
いのだ 一方でかけらは無味乾燥の〈もの〉のかけらであっ
て あらゆる命名を拒んでいる

 *〈もの〉のかけらの真実(結)

だからもうわたしの名をよばないでいただきたい
ですからもう わたしの名をアルバムに挿まないでください
デパートのなかで アナタとも よばないでください
ですから しんしつで
ココロと といわないでいただきたい
タマシヒ ともさけばないでいただきたい
もののかけらなんですから わたくし

夜空にささったトゲは
うっとうしいいたみをながびかせているが
ぼうちょうするやみのあつりょくにおされ
やがて 永遠のそとへはじきだされて
どこかで
もののかけらとなるだろう

ヒトは神々から呪をかけられた〈もの〉のかけらであった
ヒトのその最期は骨ではなくかけらである 〈もの〉のかけ
らの真実とは虚実含有のぬれせんべぇであって 噛めそうで
噛めず 嘗めるほど呪の洗礼を浴びてしまうのである


 「三嶋詩と随筆の研究会」の機関誌「雑木林」第1号(2011年8月)で発表した作品を書き改めました。三嶋詩研を今は離れていますが、会員の皆様は第2号の準備中のようです。楽しみです。

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