詩   山寺

2014-12-03 22:54:03 | 自作の詩
    山寺
                    高田数豊

      蹴っても蹴っ飛ばしても銀杏の落ち葉  扇酔

トウモロコシの噴きあがった大釜 和尚のこしらえた竈は使い手も
 なく錆びたまま
在りし日の形のみ炎天にさらして蝉しぐれの消えた木立は今日もも
 くもくと繁り
お役御免の飛行機雲が青空に吸い込まれ
大銀杏は人気の途絶えた境内にどっかとその影を伸ばしでいる

(空手にして郷に還る)道元の言葉が口癖だった和尚はすでに
 居らず
北風が足もとを掃き清めた山寺の山門は不意の訪問者を招き入れ
分校の吹流しは垂れ下がり裏の杉山を夕闇が覆いはじめている

岩清水のひそひそ話しの中に和尚の言葉を呑み込もうとしてみるが
和尚よ 
トンネルに消えるハーモニカ窓の夜汽車の音に酔いながら
私は聞きたい
あの日満面の笑みで迎えてくれた和尚よ
百八の嘘を搗いてもまだ足らんまだ足らんわと
鐘を鳴らして酌み交わしたあなたの密造酒も
廃寺の土の下でもはや眠りから覚めることはないだろう
目は横に鼻は縦じゃと
ヨッコラヨッコラ石を運びながら言ってくれたあなたの声を
あなたが造った古池に腰掛けて
もう一度聞きかった

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