何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

神々の頂の人々

2016-03-13 01:25:55 | ひとりごと
みんな山が大好きだ
昨日の「神坐す山の人々」で、「ある遭難」で私の山岳小説は始まった、などと大層に書いたが、次に出会ったのは随分後になってからで、しかも山岳小説とは関係ない「スローカーブを、もう一...

一年前の二月、「神々の山嶺」(夢枕獏)が映画化されると知って興奮し、山岳小説に出会った経緯などを数日にわたって書いていたが、その映画が今日ついに、公開された。

気にはかかりながら、この一年「神々の山嶺」を読み返す機会がないどころか、昨年の夏涸沢小屋で「停滞」している間に(いっぱしの山屋気取りで書いてみたが、要するに雨のなかを歩く気力と技術がなかっただけ)漫画の「神々の山嶺」(画・谷口ジロー)を熟読してしまったので、原作の記憶が乏しいままに漫画のイメージが入り込んだ状態で公開の日を迎えてしまい、今頃ごそごそ読み返している。

まだ上巻の三分の二ほど読んだだけなので、映画で圧倒的な迫力で描かれているであろうエベレストの登攀シーンや、そのあたりに散りばめられていた印象的な言葉の数々には再会できておらず、それはまた日を改めて書くとして、今日は主人公深町と羽生の配役を考えてみた。

本書の主人公は間違いなく大自然の「山エヴェレスト」だと思うが、「人生の山」を登りあぐねる三人が主な主人公として登場する。
それが、登山家でカメラマンでもある深町誠と、かつては世界的登山家として知られ現在行方不明となっている羽生丈二と、羽生の恋人である岸涼子だ。

深町を演じる 岡田准一
我家の情報通によると、「あの少年岡田が立派になったものだ」という事らしいが、「あの」も何も「少年岡田」を知らない私としては、「軍師官兵衛」(平成26年NHK大河ドラマ 主演・黒田官兵衛(如水)役)の身のこなしと、「天地明察(冲方丁)」(主演・安井算哲・渋川春海 役)の誠実さしか印象にないので、大丈夫だと思っている。
ヒマラヤ5200メートルの撮影では、演技をする余裕がなくなる過酷さだと思うが、たとえ苦悶の表情が(自然と)浮かんだとしても、あの端正な顔立ちならスクリーンの大きさにも耐えられるだろうと、映画館で観るのを楽しみにしている。
ここまで書いて、我家の情報通に(放送中の)「嵐にしやがれ」(日本テレビ)を見るよう勧められた。
嵐の櫻井キャスターと冬の入笠山を歩くという企画だったが、なんと、少年岡田は自分で山岳部を作るほどの芸能界きっての山男らしい、「一歩一歩」「人生は山だ」という言葉も板に付いていた。
ますます映画を観るのが楽しみになってきた。

岸涼子を演じる 尾野真千子
我家の情報通によると、「カーネーション」(平成23年度下半期のNHK連続テレビ小説)で主人公を大層好演した女優さんで、気風のいい話しぶりが印象に残っているそうだ。涼子の兄は羽生と二人で入った厳冬の屏風岩で亡くなっているので、羽生の恋人とはいえ複雑な役どころだが、演技力には定評がある女優さんのようなので安心だし、とにかく本書の涼子のイメージにあっている。

問題は、一番の問題は、あの羽生だ。
深町と涼子が架空の(もしくは知られていない)人物であるのに対して、羽生にはモデルがある。
しかも、さまざまな山岳もので語りつくされ、読者に一定のイメージが出来上がっている、モデルだ
それが、「みんな山が大好きだ」でも書いている、森田勝その人だ。
冬の岩壁で宙吊りなったとき、自分が助かるために、下にザイルパートナーがぶら下がっているザイルを切れるかという激論での森田の考え方、挑んだ者の半分の命を奪ってきた冬の三スラ(鬼スラ)の初登攀エピソード、エベレスト南西稜への拘りにみるアルパイン・スタイルにおける限界、そして長谷川恒男氏との因縁、どれもこれも語りつくされており、人間性のイメージが出来上がっている。
この難しい役を演じるのは、阿部寛
我家の情報通によると、長身と甘いマスクを活かしたモデル出身の俳優さんだそうだが、あいにく森田勝には長身のイメージも甘いマスクのイメージもない。本書で、深町が初めて出会った羽生の印象を『さほど、背は高くない。あっても170cmギリギリだろう』『ずんぐりした、小岩のような男だった』『顔中に、黒い髭が生えている。濃厚な気配をもった男だった』『森の中を歩いている時、獣道に迷い込んで、ふいに濃い獣臭を嗅ぐことがある。その男を見た時、深町は、その獣の臭いを嗅いだような気になった』と書いている。
このような羽生を、甘いマスクの長身の阿部寛がいかに演じるのか。


http://everest-movie.jp/

映画の副題は「生きて、必ず帰る」だが、小説でエヴェレストに向かう羽生が涼子に残す言葉は、こうだ。
『必ず死ぬとわかっていることだけはしない―』

当分、エヴェレスト「神々の山嶺」フィーバーは つづく 


「天地明察」については
「合うこともあり、合わざることもあり」 「時と空間を違え傷つく権威」 「南十字星を見て参れ」

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