何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

ワンコの夜症候群

2016-03-09 09:51:25 | ひとりごと
又また見慣れぬ本がある。
昨年の秋見つけた「魔女犬ボンボン」 (廣嶋玲子・作 KeG・絵)は、明らかに子供向けの本だったが、これは一応新潮文庫。

新潮文庫と云うと比較的古典や名著が多く、あの独特の手触りのページと茶色のしおり紐の本を初めて読んだ時には、少しばかり大人になった気がしたものだが、今、目の前にある新潮文庫の表紙はライトノベルのような漫画チックな絵で飾られている。
とはいえ、表紙をめくると、葡萄が一房描かれていて、やはり新潮文庫だと思わせる。
いや、茶色のしおり紐も消えているので、もしかすると新潮文庫ではないかもしれない、そう思わせるほど斬新なデザインなので、通常ならここで本を置いてしまうのだが、作者の経歴をふと見ると、東京慈恵医科大学出身の現役医師だ。
海外ものではマイケル・クライトンロビン・クックから国内では海堂尊久坂部羊まで、作者が医師であればともかく読んでみることを信条としているので(そして、医療モノは大抵ハズレがない)、この本も、読んでみた。

「天久鷹央の推理カルテ」(知念実希人)

主人公は、天才診断医・天久鷹央(27)、表紙を飾るかわいらしいお嬢さんだ。
場の空気を読み相応しい会話や対応をすることは苦手だが、天才的な知能の持ち主で、誰もが確定診断できないような厄介な症状の病名をいとも簡単に言い当て、持て余した知性と時間を、誰もが興味を持たないような事象(人魂や河童)の解明に費やすといった変わり者だ。
変わり者だが、この女医さんは天才的診断力を有することに加えて、天医会総合病院の前院長の娘ということもあり、現在は副院長にして統括診断部の部長でもあるという役どころだ。
天久鷹中央が、シャーロック・ホームズもしくはエルキュール・ポワロだとすれば、ワトソンやヘイスティングズにあたるのが、小鳥遊優(29)という元外科医だ。
「小鳥が遊べる環境」→「天敵(鷹)がいない」ことを以て「たかなし」と呼ばせる名前の元外科医の上司は、「鷹・まんなか」という名であることからも想像がつくように、この小説は万事この調子でコメディータッチで進んでいくが、そこはやはり現役の医師が書くものなので、医療知識が散りばめられ、それを駆使して?河童・処女懐胎もどき・人魂という摩訶不思議な病気(ナゾ)を診断(解決)していくといった具合だ。

4つの章(もとい、4つのkarte)からなる小説だが、そのうちの一つにあった病名に心当たりがあった。
土曜の夜症候群
『〇〇〇の後の腕枕なんかで神経が長時間圧迫されて、麻痺を起す疾患だ。週末の夜に多く発生するから「土曜の夜症候群」』
この病名を検索してみると、しびれは基本自然治癒するが長引けば数か月はかかるというし、内臓にも負担を与えるというあたり、思い当たる節がある。

私の場合、そのような色っぽい話ではない。
ワンコの夜鳴きとチッチに付き合うため、昨年9月半ばから4か月、毎晩ワンコを腕枕して眠っていた。
もちろん一晩のうちにも何度もチッチと夜鳴きがあり、その度に庭に出たり抱っこしたりするので、腕枕で寝るからといえ何時間も寝返り一つ打てないという状態ではなかったが、腕枕生活も二か月を過ぎた頃から左腕はしびれ、三か月を迎える頃には実はかなり体調が悪化していた。
言葉を解するワンコに負担を感じさせてはならないと思い、自分の不調は口にせず、しかしこれ以上異変が続けば精密検査が必要か、と思いはじめていた頃に、ワンコが旅立ってしまった。
ワンコ先生は獣医さんだが、無意識に左腕を庇う様子や貧血気味の私の様子を診ておられたのだろう、後に「体力がもつか、心配だった」と仰った。

その症状が、腕の若干のしびれを残して、消えている。

さすがに精密検査を考えた諸々の症状が改善したのには安心したが、じんわりと残るしびれが消えると、ワンコに添い寝した時間が消えてしまうようで、そこは少し寂しくも感じていた。

そんな思いを吹き飛ばす記事を読んだ。
ワンコが「しっかりしろ」と叱ってくれてるな。

つづく

追記
「天久鷹央」(知念実希人)は、新潮出版の新潮文庫ではあるが、新潮nexという次世代ラインナップらしい。
次世代ラインナップの表紙を見て、違和感を感じる年になったかとショックを受けつつ、「いや内容は十分楽しめた」と気持ちだけは若いつもりでいる。


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