「私、バスで寝ちゃってから記憶無いんだけど?」誰に施設まで運んでもらったかわからない音。「井吹さんじゃない?」船川は当てずっぽうに答え、音はボンヤリと桃缶を見ながら「そっか、お礼言わないと」船川の言葉を鵜呑みにした様子だった。
練がバスで乗り合わせた客の今夜は冷えるという話を聞いていた後で、朝陽は雪が谷の電気屋にふらりと来ていた。安い電気ストーブはもう売れたという店員に、朝陽はさほど構わず、適当な電気ストーブと加湿器を購入した。「お邪魔しまーす」買ったストーブと加湿器を手に音の部屋に上がる朝陽。「ここわかりましたか?」「隣のお兄さんが、ここですって教えてくれて」「隣のお兄さん?」どの場面の隣か? やや困惑する音。朝陽はストーブと加湿器に電源を入れた。特に説明は無いが省エネ設計の音でも電気代が支払える物と推定される。また買ってもらうこと自体、音はもう特に拒否しなかった。 ストーブに暖まり微笑む音。「よし、人間の住める部屋になった。じゃ、帰ります」「ありがとうございました」手をついて礼を言う音。
「何かあったらいつでも電話して」去り際、ふと机の上の描きかけの入所者のイラストの描かれたノートを見付ける朝陽。「これって川村さん?」「それは見なくていいです!」慌てる音はノートを取り返そうとしたが、朝陽は渡さずさらにノートを見た。柔らかいタッチで精密に多数の入所者がイラストが描かれていた。「絵、描けるんだ」「描けないですっ。子供の頃から好きだっただけで」恐縮する音。「これだけ描けるし、画家とかイラストレーターとかそんな道に進みたいと思ったことはないの? ウチなんかでコキ使われるより違う可能性があったのかもしれないよ? 夢とかなかった?」何気に問う朝陽。「夢?」「皆、あるじゃない」「いやぁ、大変そう」
7に続く
練がバスで乗り合わせた客の今夜は冷えるという話を聞いていた後で、朝陽は雪が谷の電気屋にふらりと来ていた。安い電気ストーブはもう売れたという店員に、朝陽はさほど構わず、適当な電気ストーブと加湿器を購入した。「お邪魔しまーす」買ったストーブと加湿器を手に音の部屋に上がる朝陽。「ここわかりましたか?」「隣のお兄さんが、ここですって教えてくれて」「隣のお兄さん?」どの場面の隣か? やや困惑する音。朝陽はストーブと加湿器に電源を入れた。特に説明は無いが省エネ設計の音でも電気代が支払える物と推定される。また買ってもらうこと自体、音はもう特に拒否しなかった。 ストーブに暖まり微笑む音。「よし、人間の住める部屋になった。じゃ、帰ります」「ありがとうございました」手をついて礼を言う音。
「何かあったらいつでも電話して」去り際、ふと机の上の描きかけの入所者のイラストの描かれたノートを見付ける朝陽。「これって川村さん?」「それは見なくていいです!」慌てる音はノートを取り返そうとしたが、朝陽は渡さずさらにノートを見た。柔らかいタッチで精密に多数の入所者がイラストが描かれていた。「絵、描けるんだ」「描けないですっ。子供の頃から好きだっただけで」恐縮する音。「これだけ描けるし、画家とかイラストレーターとかそんな道に進みたいと思ったことはないの? ウチなんかでコキ使われるより違う可能性があったのかもしれないよ? 夢とかなかった?」何気に問う朝陽。「夢?」「皆、あるじゃない」「いやぁ、大変そう」
7に続く