この1年、山本朋広議員が、家庭連合トップ・韓鶴子総裁を「マザームーン」と呼んだことが批判されている。
「マザームーン」と呼んで、何が悪い。
人間が、相手に気に入られるために、「相手の言語(語彙)を使う」のは、社交のテクニックの、基本中の基本。
親が、子供の学校の先生を、「先生」と呼ぶ。
親にとって「先生」ではなくても、先生と呼ぶ。
弁護士が、クライアントの社長を、「社長」と呼ぶ。
むしろ、クライアント社長を「◯◯さん」って呼ぶ弁護士はいないんじゃないか?
弁護士が、クライアントの社内用語(隠語、スリーレターワードなどの略称)を使う。
私だって、三菱系の製造業で挨拶するときの第一声は「ご安全に!」だ。
歴史上、「相手の語彙を使う」のは、伝統的に使われてきた、社交術。
例を2つ挙げる。
■ 白洲次郎
戦後、白洲次郎が、GHQに対して、「日本のやり方」を説明するときに、their way と言った。our way とは言わなくて。中立性を装った。
オレは日本の犬ではないぞ、メタ認知できる客観性を持っているんだ、とアピールした。アリストテレスの弁論術における「エトス」の演出である。
これは”Jeep way letter”として歴史に残っている。Tシャツにもなっている。
国立国会図書館(こちら)
武相荘のTシャツ(こちら)
■ 山岡鉄舟
戊辰戦争のとき、幕府軍(東軍)の山岡鉄舟が、官軍(西軍)のボス西郷隆盛に会うにあたり、「朝敵慶喜家来・山岡鉄太郎(鉄舟のこと)、まかり通る!」と大音声で叫んで、西軍の度胆を抜いた。
禅の達人の鉄舟ならではの度胸。幕臣が、自分のボス・徳川慶喜を「朝敵」呼ばわり… この鉄舟の、ハッタリというか度胸というか肝の据わりっぷりに感服した西郷隆盛は、その遺訓で
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり。」
という有名な一句を残した。この「命もいらず、名もいらず…」は、鉄舟のことを指している。
この、「相手の語彙を使う」山岡鉄舟のコミュニケーション能力を、内田樹が高く評価している。
内田樹の研究室(コミュニケーション能力、2013年)
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白洲次郎や山岡鉄舟が歴史に残したように、「相手の語彙・敬称を使う」のは、もう社会人の基本といえるくらいの、社交術。
山本朋広議員はそれに従っただけにすぎない。山本朋広さん、これからもバンバン「マザームーン」と使ってください。
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ちょっと宣伝ですが、この白洲次郎と山岡鉄舟の話題は、今年に出版される『英語交渉術』に書きました。出版されたらぜひご購入をよろしくお願いします!