水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

共通テスト2021年 古文(3)

2021年01月20日 | 国語のお勉強(古文)
〈本文〉
 かやうに思しのたまはせても、いでや、もののおぼゆるにこそあめれ、まして月ごろ、年ごろにもならば、思ひ忘るるやうもやあらんと、われながら心憂く思さる。何ごとにもいかでかくと(イ)〈 めやすくおはせしものを 〉、顔かたちよりはじめ、心ざま、手うち書き、絵などの心に入り、さいつごろまで御心に入りて、うつ伏しうつ伏して描(か)きたまひしものを、この夏の絵を、枇(び)杷(は)殿(どの)にもてまゐりたりしかば、いみじう興じめでさせたまひて、納めたまひし、B〈 よくぞもてまゐりにけるなど、思し残すことなきままに、よろづにつけて恋しくのみ思ひ出できこえさせたまふ 〉。年ごろ書き集めさせたまひける絵物語など、みな焼けにし後(のち)、去年(こぞ)、今年のほどにし集めさせたまへるもいみじう多かりし、(ウ)〈 里に出でなば 〉、とり出でつつ見て慰めむと思されけり。

注1 この殿ばら――故人と縁故のあった人々。
 2 御車――亡骸を運ぶ車。
 3 大納言殿――藤原斉信。長家の妻の父。
 4 北の方――「大北の方」と同一人物。
 5 僧都の君――斉信の弟で、法住等の僧。
 6 宮々――長家の姉たち。彰子や妍子(枇杷殿)ら。
 7 みな焼けにし後――数年前の火事ですべて燃えてしまった後。

 人物関係図
          彰子――東宮――若宮
          妍子(枇杷殿)
          長家(中納言殿)
           ∥
 大北の方      ∥
  ∥―――――― 亡き妻
 斉信(大納言殿)
 僧都の君


〈現代語訳〉
 このように(世の無常など納得できないと)お思いになりおっしゃってはいるが、「いやしかし、私はまだ世のあれこれを分かるのであるようだ、この上、数ヶ月、数年も経ったら、(亡き妻を)忘れることもあるのだろうか」と、自分の心ながら、つらいものだとお思いになる。
 (妻は)どんなことでも「どうしてこんなに」と思うほど(イ)〈 感じがよくていらっしゃったのになあ 〉、容姿をはじめ、性格、筆跡もよく、絵などにも関心が深く、つい先頃まで、熱心に、うつ伏しうつ伏ししてはお描きになったのだが、この夏に描いた絵を枇杷殿(妍子)に持参申したところ、たいそう素晴らしいと褒めなさって、納めていただいたが、B〈 「よくぞ持参しておいたことよ」と、思い残すこともないまま、何につけても恋しくばかり思い出し申し上げなさる。 〉長年、(亡き妻が)書き取りなさった絵物語などは、みな焼けてしまった後、去年、今年の間に書き取りなさったものも大変多かったが、(ウ)〈 実家に戻ったならば 〉、(その絵を)取り出して見て気持ちを慰めようとお思いになった。
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共通テスト2021年 古文(2)

2021年01月20日 | 国語のお勉強(古文)
〈本文〉
進(じんの)内(ない)侍(し)と聞こゆる人、聞こえたり。
   契りけん千代は涙の水(みな)底(そこ)に枕ばかりや浮きて見ゆらん
中納言殿の御返し、
   起き臥しの契りはたえて尽きせねば枕を浮くる涙なりけり
また東宮の若宮の御乳母(めのと)の小(こ)弁(べん)、
 X 悲しさをかつは思ひも慰めよ誰もつひにはとまるべき世か
御返し、
 Y 慰むる方しなければ世の中の常なきことも知られざりけり

〈現代語訳〉
進内侍と申す女房が(長家に)申し上げた。
 契りけん……
  一緒にいようと約束したという千年は、悲しみの涙の水底に沈み、あなたの枕だけが浮いて見えているのでしょうか。
中納言殿(長家)のお返しの歌は、
 起き臥しの……
  起きても寝ても誓った約束がすっかり尽きてしまうことはないので、枕を浮かせる涙なのですよ。
また、東宮の若宮の御乳母である小弁は、
 X 悲しさを……
  悲しみを一方では慰めてください。誰もがずっとは生きてとどまれないこの世なのですから。
(長家の)お返しは、
 Y 慰むる……
  悲しみを慰めるすべもないので、世の無常も納得することができないままですよ。
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直木賞は?

2021年01月20日 | おすすめの本・CD
 部活がないので、直木賞の候補作をまあまあ読めた。
 『オルタネート』。気になる人の一挙一動にどきどきしたったひと言に傷ついたりひと言で傷つけたりする高校生の描写が上手だ。「オルタネート」とよばれる高校生限定のSNSという設定は必要だったのかという根本的疑問がうかんだ。そう思わせるくらい日常の高校生活が上手に描かれてると感じたから。
 『汚れた手をそこで拭かない』。日常に潜むちょっとした違和感、それがそのままにされず恐怖や狂気にまで時にふくらんでいく人間の様子。「かまいたち」のネタをじっくりふくらませたような感覚を味わえる。
 『アンダードッグス』圧倒的なスケール感。一気呵成観。主人公、さすがに死ななすぎ観。一気読みさせる力の強さ。一気読みしないと話がわかんなくなるけど。
 『八月の銀の雪』手に汗握る感が全くないけど、いつのまにか引き込まれている。理系的うんちくが見事に日常の生活の描写に溶け込み、人生をちがう視点でみなおせるような感覚。現代人に必要な癒やしはこれかなと思わせるような、今ままであまり読んだことない感じ。
『心寂し川』上手。ただ、時代物をあまり読まない自分にとって、山本周五郎とか藤沢周平が比較対象になってしまうからなあ。『インビジブル』は読み終わってない。
 予想は、本命『八月の銀の雪』、対抗『アンダードッグス』、大穴『オルタネート』で。
コメント (1)
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