水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ロジカル筋トレ

2021年07月19日 | 学年だよりなど
1学年だより「ロジカル筋トレ」


 部活動の時間に制限がうまれることで、どの分野でも工夫して練習するようになった。やみくもにたくさん走る、ひたすら回数をこなすといったタイプの練習は、減ったのではないだろうか。
 ただし、練習のすべてが科学的根拠に基づいた効率のよいものあったとき、必ずしも成果があがるとは限らない面もある。
 同じ技量、同じ力量の選手同士、チーム同士の戦いで、最後に勝敗を決する要因が「根性」であったりする。下馬評が低く、客観的力量も下に見えながら、勝つ場合さえある。
 「根性」とは、その人、そのメンバーの体にしみついた「記憶」ではないだろうか
 勉強も仕事も、遊びや恋愛においてさえ、最後の一歩をねばりきれる力を生み出すのは、それまでに積み上げてきた経験の記憶だ。その質は、科学的エビデンスだけでは説明しきれない。
 マリナーズの菊池雄星投手はじめ、多くのアスリートから信頼されるトレーナーの清水忍氏は、徹底してロジカルなトレーニングを追求する。たんに回数をこなす、あげる重さを競うというトレーニングでなく、その競技にどんな筋肉が必要で、そのために何をどうすればいいかを徹底的に分析したトレーニングを行う。
 その清水氏をしても、いわゆる「地獄系トレーニング」は全否定されていない。


~ ヘトヘトになるまでやるトレーニングは、体力や持久力を向上させたり、根性をつけたりするのを目的でやるのなら、けっこう効果的なものだ。だから、今日は根性をつける日だと割りきって50本ダッシュを行なったり、持久力をつける目的で300本ノックを行なったりするのならばまったく構わない。……スポーツには、結局最後には根性がモノを言う面もある。同じスキルと体力を持っている人が競走をすれば、根性がある人のほうが先にゴールテープを切るだろう。“地獄系のトレーニング”でいくつもの修羅場を越えて根性が鍛えられていれば、きっと「ここぞ」というところで粘り強さが発揮されやすくなるはずだ。
 それに、根性が鍛えられている人は、挫折をしてもそれを乗り越えやすくなるし、理不尽な目に遭ってもそれに耐えることができやすくなる。おそらく、“めちゃくちゃ理不尽で非合理的な地獄系トレーニング”を乗り越えてきた経験は、そういう打たれ強さにもつながっていくのではないだろうか。 (清水忍『ロジカル筋トレ』幻冬舎新書) ~


 あえて理不尽な仕打ちを受ける必要はもちろんないが、その時々において意味のわからないことが、実は大きな意味をもっていたことに後で気づくことがある。
 「何それ? 意味わかんない!」と若者は言いがちだが、本当に意味あることは、その瞬間に簡単に気づくものではないからだ。
 一瞬で意味のわかることしかしたくない時間を重ねるのは、人生的には相当もったいない。
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金の角持つ子どもたち(3)

2021年07月14日 | 学年だよりなど
1学年だより「金の角持つ子どもたち(3)」


 フィクションではあるが、綿密に取材された作品で、モデルもはっきりわかるようになっている。
 俊介が目指す「東筑」とは、筑波大付属駒場中学だろう。通っていた塾の「Pアカデミー」もSAPIXと早稲田アカデミーをあわせた名前に見える。
 実際問題、小学校6年生の一年で筑駒をねらうのは、業界的にはなかなか厳しい。
 塾の先生も、積極的には薦めないだろう。しかし、加地は「チャレンジしてみよう!」というスタンスで指導してくれた。
 最初は反対していた父親も、俊介を応援するようになる。と同時に、最高峰の筑駒は非現実的ではないかとわかってくる。せっかく頑張っているのだから、合格する可能性のある私立中学を受けさせたいと塾に相談にやってきた父親に、加地はこう答える。


~ 「受験塾の講師がこんなことを言うのはよくないんでしょうが、合格か不合格か、中学受験はそれだけではないと思います。いい受験だったか。そうでなかったか。それが最も重要なことだと私は思っているんです」
 不合格になったからといって、なにかを失うわけではない。それが中学受験なのだと加地は言葉に力をこめる。
「なにかを失うわけでは……ない」
「はい。戸田さんはもし俊介くんが東駒に落ちたら、あの子への信用を失くしますか? ダメなやつだと見損ないますか? 二月の合格発表後には、ただあの子が積み重ねてきた努力だけが残ります。合格、不合格。そんな判定とは関係なく、あの子がここまで頑張ってきた時間が残るんです」
 父親として志望校の変更を勧めるのはまったく構わない。でも、それでも俊介が東駒を受験したいと言うのなら挑戦させてやってほしいと伝えると、父親は一度深く息を吸い込み、大きく頷いた。 (藤岡陽子『金の角持つ子どもたち』集英社文庫) ~


 先日の「ドラゴン桜2」を思い出す。原作のコミックとは話が変わっていて、主人公の一人早瀬さん(南沙良さん)は東大に合格できなかった。最後のHRで早瀬さんがみんなの前でこう言う。


~「くやしかった! あたし、自分がこんなに悔しいって思えるなんて思わなかった。東大目指して、よかった。自分が変われたから。」(「ドラゴン桜2」最終回)~


 早瀬さんは、東大を目指して本気でがんばったからこそ、本気の悔しさを感じることができたのだ。そしてその悔しさは、必ずその後の人生の糧になる。受験は人生においてはあくまでも通過点に過ぎない。最終目標ではない。それは高校生活全般にも言える。だから、どれだけチャレンジできるかだ。部活動でも、人間関係でも、チャレンジして失敗するのはむしろ大きな糧になる。
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野球部壮行会

2021年07月10日 | 日々のあれこれ
7月10日(土)12時~ @本校第一講堂

 「野球部壮行会」演奏曲

 ~ 戦闘開始 ~ We will Rock You ~ スピードスター
 ~ ダイナミック琉球 ~ 夜に駆ける ~ 怪物
 ~ スパニッシュフィーバー ~ 紅蓮華 ~ かっせーパワプロ
 ~ インフルエンサー ~ HIT ~ KEオーレ ~ 校歌 ~

         お互い、がんばりましょう!!
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金の角持つ子どもたち(2)

2021年07月06日 | 学年だよりなど
1学年だより「金の角持つ子どもたち(2)」


 息子の夢を応援したい気持ちにうそはないが、家計の苦しさはいかんともしがたい。妹の美音には先天性の難聴という障害があり、パートにでることをためらっていた。美音は、学童に預けられてもいいから、お兄ちゃんのためにがんばってと手話で伝えてきた。
 そんな家族のためにも、俊介はがんばらないわけにはいかなかった。
 四泊五日の夏合宿は、予想外に立派なホテルでの勉強漬けだった。朝食の後、1時間半の自習、昼食をはさみ夕方六時半までテストと授業が続き、夕食後、11時の消灯まで自由時間だが、俊介は自習する。「そろそろ部屋にもどれよ」と言いに来た担任の加地先生が、テンパっている俊介に気づく。「どうした、死にそうな顔をして」「ダイヤグラムの書き方がわからなくて……」
 なんだ、そんなことか、よしこの一問だけ一緒にやるかと、ヒントを与えてくれる。


~ 正解を見つけた時の心地よい痺れが頭の中に拡がっていく。暗闇に小さな光を見つけ、その光がどんどん大きくなっていくような感覚だ。トンネルの中から外に出ていく解放感が、俊介の胸を高ぶらせた。シャーペンを握り直し、俊介はノートの余白を使って式の計算を始める。ここまできたら答えが出たも同然。あとはいかに早く正確に計算式を解くかだ。シャーペンを持つ手の熱さを感じながら計算式を解き終えると、
「正解!」加地先生が大きな赤マルをつけてくれた。ボールペンの先が紙の上を滑る音が嬉しくて、目の奥にじわりと熱いものが滲む。 ~


 出来なかった問題ができるようになることが、こんなに嬉しいとは思っていなかった。
 加地は、こどもたちに「武器」を身に付けさせたいと思っていた。


~ 難問に出合った時に逃げ出さずに粘る力。どうすれば解決するのかと思考する力。情報を読み取る力。ひたすら地道な反復練習や暗記。勉強で身につく力は、仕事をしていく上で必ず役に立つ。決してずば抜けた頭脳になれといっているのではない。努力ができる人間であってほしい。たいていの人は、大人になると働かなくてはいけない。外で働くだけではなく家事や育児、介護といった家の中での仕事もあるだろう。仕事をもった時、勉強で身につけたあらゆる力は自分の助けになってくれる。人生を支えてくれるのだと加地は生徒たちに教えてきたつもりだった。 ~


 おそらく今の子ども達は、自分が経験した以上に厳しい世の中を生きることになる。
 そのままの自分という丸腰の状態で立ち向かえるほど甘くはない、と。
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「あの歌1・2」

2021年07月05日 | おすすめの本・CD
 ふとあの歌を聴きたくなったとき、たとえば山口百恵さん「夢先案内人」がふと口をついたときとか、自宅の段ボールをさがせば絶対に存在するし、DVDもある。なのに面倒くさくてAmazonを検索してしまい、いやだめだ無駄遣いするなと自制する。Youtubeで視聴すればいいだけなのだが。そんなふうに、ふと聴きたくなる可能性の高い楽曲上位十数曲を網羅してくれた、このCDは、たぶん私のために上白石萌音ちゃんが選んでくれたに決まっている。
 とはいえ、実質二枚組で5000円を超えてると、ちょっとためらうものがあったのは事実だが、週刊SPAのCD紹介欄の文章を読んで、即注文した。
 
~ 強すぎる感情移入や過剰な演出が感じられず、アレンジも奇をてらったところがない。~

 そうそう、カヴァーもので、やたらアレンジだけおしゃれにしたり、とんがってみたりするのがある。
 なるほど! と思えるものが少ないのは、やはり原曲の強さがあるからだ。

~ 素直で真っすぐな歌いっぷりと清潔な声、多彩だが節度のあるアレンジが、原曲に否応なくまとわりつく時代の刻印を拭い去った普遍性を鮮烈に伝えてくる。だから原曲をリアルタイムで体験した中高年も、初めて接する若者も、新鮮な気持ちで聴けるはずだ。~

 もお、文章上手なんだからー、小野島大さん。知らない方だけど。
 読んで感じた見事な日本語は、聴いてみてまさしくその通りだと感じた。
 こんな子とカラオケ行けたら、このおれさまでさえ歌わずに、ひたすら聴いてたい。

 1 年下の男の子~キャンディ~君は薔薇より美しい~夢先案内人~木綿のハンカチーフ……
 2 世界中の誰よりきっと~AXIAかなしいことり~Diamonds~まちぶせ……

 どれだけおっさんのツボを心得ているのだろう。
 何を歌ってもそのアーティストの作品にしてしまう方と、でも原曲の方がいいなと思わされる場合と、カヴァーはどっちかにぶれてることが多いように思える。このCDは、原曲のよさをストレートに伝えながら、やはり萌音さんの歌でしかという絶妙のバランスの味わいがある。
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金の角持つ子どもたち

2021年07月02日 | 学年だよりなど
1学年だより「金の角持つ子どもたち」


「サッカーをやめて、塾に通いたい。中学受験させてほしい」
 俊輔が母に打ち明けたのは、小学5年の冬だった。幼い頃からサッカークラブでがんばってきた。
 仲のいいともだちとともに中心となって活躍し、将来はJリーガー、日本代表を目指したいとまで考えていた。しかし、目指していた地域トレセンに入れなかった。
「おまえ、それは逃げなんじゃないのか」父親が言う。一度挫折したくらいで、諦めるな、と。
 しかし、俊輔はサッカーから逃げたいのではなかった。
 「中学受験したい。国立に受かって、有名な科学部に入りたい」と涙ながらに訴える俊輔の望みを、母の菜月は、なんとか叶えてあげたいと思った。


~「お義母さん、俊介は将来やりたいことがあるらしいんです。それで、自分の夢を叶えるために行きたい中学があるって。私と浩一さんは、それを応援しようと決めたんです」
「そんな、子どもの言うことをうのみにしちゃって。夢なんてね、叶えられる人なんてごくごくわずか、ひと握りなのよ」
「おっしゃる通りだと思います。私も夢なんて、持ったこともありませんでした。17歳の時から必死でただ働くばかりで……。私はダメだったけれど、俊介には夢があって、もしかしたらその夢を叶えるかもしれません。まだ11歳なんです。自分がやりたいと願うことを、好きなことをとを、職業にできるかもしれないんです」 (藤岡陽子『金の角持つ子どもたち』集英社文庫) ~


 子どもを塾にやるなんて、可哀そうだと義母の光枝は言う。
 実際通い始めてみると、こんなに大変だったとは驚くことばかりだ。しかし入塾して一ヶ月、一度も弱音をはかず、なんとか遅れをとりもどそうと、食事をとる時間も惜しんで頑張る姿が、「可哀そう」だとは思わなかった。


~「お義母さん、俊介はいま毎日必死で勉強しています。その姿を見ていて私は胸が締めつけられるくらいに感動しています。すごいと思ってるんです。誇らしく思ってるんです。俊介は私の息子です。私が育てているんです。あの子の人生は私が責任を持ちます。だからお願いです、俊介には受験や塾に対して否定的なことを言わないでください。応援してくれとは言いません。でも全力で頑張る俊介に、沿道から石を投げるようなことはしないでください」 ~


 言いながら、菜月の目に涙が浮かんでくる。義母に逆らうのは、結婚して初めてだった。
 光枝は何も言い返せずに玄関に向かう。従順だったはずの嫁の態度に怒っている様子が見て取れた。「よく言った」と菜月は心の中で眩く。自分の思いを、本心をきちんと伝えることができた。
 わが子を守るために強くなったと自分を褒める。自分が高校を中退した時の悲しさや悔しさは、こうして我が子を守るために役立っているのだと感じる。
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