竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌1613から集歌1617まで

2021年03月23日 | 新訓 万葉集
万葉集 集歌1613から集歌1617まで

賀茂女王謌一首  長屋王之女、母曰阿倍朝臣也
標訓 賀茂女王(かものおほきみ)の謌一首  長屋王の女、母は曰はく「阿倍朝臣なり」といへり
集歌一六一三 
原文 秋野乎 旦徃鹿乃 跡毛奈久 念之君尓 相有今夜香
訓読 秋し野を朝(あさ)往(い)く鹿の跡(あと)もなく念(おも)ひし君に逢へる今夜(こよひ)か
私訳 秋の野を朝に行く鹿の行方も知れないように、恋の行方も判らずに慕っていた貴方に逢えた今夜です。
左注 右歌、或云椋橋部女王作。或云笠縫女王作。
注訓 右の歌は、或は云はく「椋橋部女王の作れり」といへり。或は云はく「笠縫女王の作れり」といへり。

遠江守櫻井王奉天皇謌一首
標訓 遠江守櫻井王(さくらいのおほきみ)の天皇(すめらみこと)に奉(たてま)つりしし謌一首
集歌一六一四 
原文 九月之 其始鴈乃 使尓毛 念心者 可聞来奴鴨
訓読 九月(ながつき)しその初雁(はつかり)の使(つかひ)にも念(おも)ふ心は聞かも来(こ)ぬかも
私訳 九月になるとやって来る、その初雁の「故郷に戻りたいと云う便りの使い」と云う故事のような私の気持を、お察しにならないでしょうか。
注意 原文の「可聞来奴鴨」は、標準解釈では「所聞来奴鴨」と校訂し「聞こえ来ぬかも」と訓じます。

天皇賜報和御謌一首
標訓 天皇(すめらみこと)の報和(こた)へ賜(たま)へる御謌(おほみうた)一首
集歌一六一五 
原文 大乃浦之 其長濱尓 縁流浪 寛公乎 念此日 (大浦者遠江國之海濱名也)
訓読 大(おほ)の浦しその長浜に寄する浪寛(ゆた)けく公を念(おも)ふこの日 (大の浦は遠江國の海濱(はま)の名なり)
私訳 大の浦のその長浜に寄せ来る浪がゆったりとしているように、広い心を持つ貴方を尊敬した今日です。
注意 原文の「念此日」は標準解釈では「念比日」と校訂し「思ふこのころ」と訓じます。なお、歌は後漢の蘇武の故事である雁書を踏まえたものです。

笠女郎賜大伴宿祢家持謌一首
標訓 笠女郎(かさのいらつめ)の大伴宿祢家持に賜(たまは)れし謌一首
集歌一六一六 
原文 毎朝 吾見屋戸乃 瞿麦之 花尓毛君波 有許世奴香裳
訓読 朝ごとに吾が見る屋戸(やど)の撫子(なでしこ)し花にも君はありこせぬかも
私訳 朝が来るたびに私が眺める家の撫子の花にも、貴方の面影はないのでしょうか。
注意 標の「笠女郎賜大伴宿祢家持」の「賜」は、標準解釈では「贈」と校訂します。なお、このように校訂すると笠女郎と家持との間での身分関係が不明になりますので、歌が詠われた時代推定が不能になります。

山口女王賜大伴宿祢家持謌一首
標訓 山口(やまくちの)女王(おほきみ)の大伴宿祢家持に賜(たまは)れし謌一首
集歌一六一七 
原文 秋芽子尓 置有露乃 風吹而 落涙者 留不勝都毛
訓読 秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留(とど)めかねつも
私訳 秋萩に置いている露が風が吹いてこぼれ落ちるように、落ちる涙は留めることができません。

コメント
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