瀬崎祐の本棚

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そらのは  塩嵜緑  (2016/05)  ふらんす堂

2016-05-26 22:09:32 | 詩集
 第2詩集。97頁に24編を収める。
 生活がふわっと折りたたまれていくひだのようなところでの思いが、丁寧に書きとめられている。
 「そおっと」では、春の夜に「記憶の扉をたずねあて」ている。それは、幼い日に大人たちが談笑している部屋の隣での眠りであったり、生家を揺らして過ぎた小さな地震(ない)であったりする。

   どれもどれも取りこぼさぬよう
   たいせつに扉の奥におさめて

   眠らな

 誰でもが自分だけの扉をもっているわけで、私(瀬崎)の場合だと、夏の夜に父がTVで見ていた野球中継の傍らにあった蚊取り線香の匂いなどになる。それらの事柄は、他の人にはなんの意味もないようなそんな事柄である。しかし、それらが今の自分へ繋がってきているわけで、素直に共感できる作品。
 作者は奈良に住んでおり、その地に積もっている歴史への思いも詩われている。「修二会」は東大寺二月堂でおこなわれる神事。お水取りの行事が有名だが、そのたいまつの明かりを遠くに眺めている。昔、間近でそれを見たとき、

   親しい者の死も 別れも
   未だ知らない頃であったのに
   なんと ふかく くらい炎であると
   思ったことか

 今は何人もの方の死を送ったのだろう。歴史は個人の時間にも積もっている。
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