邦画ブラボー

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「張込み」

2005年07月24日 | ★人生色々な映画
切ないです。

松本清張の原作を橋本忍が脚色。
監督は野村芳太郎。

老練の刑事(宮口精二)と若い刑事(大木実)が
東京から列車に乗り込む。

クーラーなど無かった時代。
真夏。額には汗がにじみ、落ちる。

窓を開け放たれた蒸気機関車は何処へ?

彼らは強盗殺人犯を追って
男の昔の恋人が住む九州に向かっていた。

二人は女の家の向かいにある旅館に宿をとる。

黛敏郎の無機的な音楽が効果的。

吝嗇な銀行家の後妻になり、つつましく暮らしている女
(高峰秀子)の一日をつぶさに観察する刑事たち。

「きっと男は来る」

橋本忍の脚本が素晴らしすぎる。
張込みという緊張の中で
二人の刑事の人となりをあぶりだしていく。

ラジオに興じる家族、銭湯の賑わい
市場など、人々の生活も描かれ
時代の色も伝わってくる。

若い刑事の心の動きが興味深い。

「あんな地味な女がねえ・・信じられない」
徐々に同情にも似た気持ちが芽生えてくるが、
だからと言ってハリウッド映画のように
女と手に手をとって逃げカーチェイス!などという
劇的な展開にはなりません。

派手な演出抜きで
ぐいぐい見せていくのはさすが。

犯人(田村高広)はおよそ極悪人には程遠いようにみえる。
そんなところもまたリアルで哀しい。
何かの歯車が狂って犯罪に手を染めてしまったのか。

「東京のことを話そうね。東京には何でもあるんだよ。
そこでボクは三年・・働いたんだ。」

高峰秀子が体をよじりうめくように泣く声は
哀切極まりない。

サスペンスタッチの中に
普通の人々の悲しみを描いて、
汽笛の音と共にいつまでも心に残る。

1954年 野村芳太郎監督作品 原作 松本清張 脚色 橋本忍 音楽 黛敏郎

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
マッチョな大木実しか憶えていませんでした (乙庵)
2005-07-25 09:23:36
「張込み」は何故か私が小学生のとき、

学校から映画館へ行って見た記憶が有ります。

担当の教師が気に入ったのかも知れませんが、

10歳くらいの子供には理解できませんでした。

おとなになった今(充分なりすぎかも?)

改めて見てみたい映画ですねっ。

このブログによると、

黛敏郎の音楽もステキらしいし、

高峰秀子の後妻役も見てみたいです。
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たしかにマッチョです (spok23)
2005-07-25 11:18:25
小学生が「張込み」ですか。

素晴らしい映画ですけど、小学生に

この映画はちょっと早いかもしれませんね。



それにしても面白い先生ですね。



私は学校で例の「十戒」を見に行きましたが、

ほとんどの子供は、「海が割れたところだけ!」記憶に残ったようです。



高峰秀子は当時30代だったようですが

楚々としていてイイですよ~~



音楽はサスペンス気分を盛り上げてます。

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張込み感想 (KIM)
2005-07-25 11:21:11
 私も中学生のときにこの映画を見て、多少、かったるく思いましたが、再度見たときには、映画的にいろんな工夫があって、さすが野村監督だな、と思いました。
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中学生というのも (spok23)
2005-07-25 16:25:30
早いですね~。

やはり映画も「見時」がありますね。

でもきっと深層心理には

蓄積されていくのでしょうね。映像などは特に。

エピソードの入れ方とか

なんでもない会話なども

この作品の味になっているのだろうなと思いました。
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田村高広が良かったですね (tetorapot)
2005-07-29 23:20:52
数年前に松本清張特集で見ました。

緊迫したサスペンスなのに、大木実と宮口精二のやり取りが牧歌的で肩の力を抜いて見ることができました。げっそりと生活に疲れ果てた様子の田村高広と彼を待ち続けて彼に寄り添う高峰秀子がせつないです。この映画、「野良犬」に雰囲気似てますね。刑事のコンビも犯人像も。ふてぶてしく取調べを受けてる内田良平や旅館の女中さんの小田切みきもよかったです
返信する
そうですね (spok23)
2005-07-29 23:50:38
何気ない台詞がほんとに生きていました。

田村高広の草笛も切なかったです。



「野良犬」は未見なのです。

内田良平の面構えが(!)好きです。

イイ役者さんですね。

小田切みきっていえばそういえば

最近何かで見たなあ・・・・・・

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ランニング姿 (corkoak)
2005-08-14 23:51:08
おひさしぶりです~。

大木実がランニング姿になるでしょう?

腕にあるのは、あれは弾の痕なのだろうか、それとも種痘?・・・そんなことが気になってそこばかり観てました。(笑)
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なってましたね (spok23)
2005-08-15 07:21:21
さすがcorkoakさん!

視点が鋭い!(笑)



弾の痕と思いたいところですが

たぶん種痘ではないでしょうか???



それにしても

余韻が残る映画でしたね!

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「張込み」は名作です (mirage)
2023-02-22 17:15:25
リストの中に、懐かしい映画「張込み」がありましたので、コメントしたいと思います。

感想文の中にあった、「サスペンスタッチの中に普通の人々の悲しみを描いて、汽笛の音と共にいつまでも心に残る」→私も全く同感で、映画を観終えた後、いつまでも心に残る作品ですよね。

刑事映画には、夏の暑さがよく似合いますね。
黒澤明監督の「野良犬」の冒頭で、三船敏郎扮する刑事が、バスの中で拳銃を掏られるのは、太陽がギラギラと照り付ける日でしたね。
この野村芳太郎監督の「張込み」でも、暑さが重要なポイントになっているように思います。

警視庁の大木実扮する、柚木刑事と、宮口精二扮する、下岡刑事が、鹿児島行きの夜行列車に横浜駅で飛び乗ります。
三等車は満員で、新聞紙を敷いて、通路に座るしかない。
人いきれと、うだるような暑さが、画面からリアルに伝わってきましたね。

到着した佐賀市でも、この二人の刑事は、汗まみれになりながら、高峰秀子扮する、強盗殺人犯の昔の恋人の張込みを続けるんですね。

高峰秀子が差す日傘。旅館の女将がごちそうするスイカ。これらの小道具が、実に印象的でしたね。
この映画は、ロケ撮影が多い作品で、後半の追跡劇や温泉宿のシーンでも、真夏の光が画面を支配していましたね。

この「張込み」は、松本清張原作、橋本忍脚本、野村芳太郎監督のトリオによる第1作目の作品で、代表作はもちろん「砂の器」ですが、その作品に匹敵する程の出来栄えの作品だと思いますね。

出演者の顔ぶれは地味だし、謎解きや派手な見せ場もありません。
だが、恋人と別れた後、金に細かい年上の銀行員と結婚し、生気を失ったかのような日常を送っていた主婦が、一瞬、命を燃やすように輝くんですね。

高峰秀子が、ほとんどセリフのない演技で、この女性の変貌を見事に見せてくれましたね。
この映画の実質的な主人公は、この高峰秀子だと思いますね。

そして、映画が終わった後も、画面の向こう側で、刑事や女たちの暮らしが続いているような、そんな現実感がありましたね。
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mirageさんへ (ブラボー)
2023-02-23 10:00:28
天候が映像に
もたらす効果は絶大だと思います。
刑事さんが噴き出る汗をぬぐいながら捜査を
しているシーンは、おっしゃるように
「野良犬」を思い出しました。
高峰秀子が家の前を念入りに掃除している様子を見て
「やけに丁寧だな」「亭主がうるさいんだろう。可哀想に」という台詞が印象的でした。橋本忍の、人間を深く見つめる視線が感じられましたね~~

関係ないですが洋画の「セブン」は
この「張り込み」や黒澤監督の「野良犬」を彷彿とさせるブラピとモーガンフリーマンのバディものでしたが、あの映画では暗い「雨」がずっと降っていてなんともいえないムードを作っていましたね~
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