邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「足摺岬」

2005年09月15日 | ★人生色々な映画
昭和初期の日本。
暗い世相。
左翼への弾圧は日増しに強くなっていき
主人公の青年も「アカ」の嫌疑をかけられる。

前半は
木村功演じる苦学生の周りの貧困、冤罪、自殺、母の死、
病苦、特高による恩師の逮捕、と
これでもかというくらいに
不幸の追い討ち、しまいには木村自身も喀血してしまう!

すべてに絶望した木村は
死に場所を求めて、思いを寄せる
津島恵子の故郷、「足摺岬」へと向かうが
そこで出会ったひとたちとの暖かい交流によって
再び生きる力を蘇えらせるのだった。


雨、雨、雨の場面が多い。

青年の心を表すように
足摺岬にはどしゃぶりの雨が降り続いている。

暗い世相の中で必死に生きていく人々の強さ、明るさ。
薬売り(殿山泰司)、遍路の老人(御橋公)。
人生経験豊富なこの二人の会話がすごくよかった。

「若いうちが華じゃ。命を粗末にしちゃいけない。」
こんな台詞も御橋公が言うとオイオイ泣けてくる~~

なんであんなにいい歌が歌えるんだろう、殿山泰司は。

献身的に青年を看病する娘(津島恵子)の優しさにも打たれた。

ラスト、木村功のまっすぐ前を見据える目がいい。

上手すぎる子役がいると思ったら河原崎健三
脊椎カリエスで寝たきりの少年を演じていて、
神木くんより上手かったかも。

人恋しくなる、
いい映画だった。

1954年  吉村公三郎監督作品 原作 田宮虎彦
 脚色 新藤兼人 撮影 宮島義勇音楽 伊福部昭  美術 丸茂孝

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「山の音」

2005年09月13日 | ★人生色々な映画
川端康成の作品の底に蠢く、
暗く激しい情念がうっとおしく
恐ろしく思ったことがあった。
だが惹かれた。
流麗な文章の影にある「死」の匂いに
憂鬱になると同時に、魅入られた。

川端康成原作を映画化した成瀬巳喜男のこの作品も
一見、
互いに思いやる
舅と嫁の愛情を細やかに淡々と描いているように見えるが
水木洋子脚本による
何気ない台詞のひとつひとつを聞き
登場人物の行動を見ていくにつれ
人間の心の底知れない深みをのぞいていかされる。

不穏な嵐の夜の描写、菊子が鼻血を押さえるシーン、
額のあざの話や能面のエピソード、
山村上原親子の会話など
全編を通してセクシュアルな雰囲気が漂う。

上原の愛人の激しさと
秘書の杉葉子の屈折。
そんなコントラストも
すべて計算しつくされている。

黙って耐えている聖女のような嫁の
心の底にある闇を原節子が熱演している。

新宿御苑での山村と原が並んで歩くシーンはいかにも
玉井正夫のカメラらしい美しい画だった。

鎌倉の川端康成の家を模したというセットがすごい。
上原謙と山村聡親子が並んで出勤するシーンが印象深いが
家の前の道までセットらしい。

中古智の美術の素晴らしさについては
「記憶の現場」にも詳しく述べられていたけど
恐ろしいほど完璧な仕事だったんですね。

成瀬の映画は文学でいうところの
行間を読む楽しみがあると思う。
俳優すらもそれと知らずに演じていたと
いうことも、もしかしたらあるのではないかしら。

そんな、言葉を超えた何かが
見る人々を捕らえて離さないのではないかと思う。

1954年成瀬巳喜男監督作品
原作川端康成 脚本水木洋子 撮影玉井正夫 美術 中古智 音楽斎藤一郎

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成瀬巳喜男の「妻」

2005年09月08日 | ★人生色々な映画
成瀬監督ってやっぱり意地悪だったのかも。

高峰三枝子
思いっきり生活臭のある奥さんを演じているのだが、

美しすぎる。文句なしに綺麗です。

上原謙だってそこらへんを歩いている会社員には
到底見えない浮世離れした美中年だ。

それにしてもまあ、成瀬監督は
「高峰さん、ご飯食べ終わったらそのお箸を楊枝がわりに!」とか、
「耳かき使うとき、口、ゆがめて」とか指導したのだろうか。

高峰秀子に言わせると
「成瀬監督って俳優に何にも言わないの。だから楽。」だそうだけど
高峰三枝子が自分の判断で
お寿司に何度もねちょねちょ醤油をつけ、
片手でお茶をぐいっと飲むわけはないだろう。
ましてやうがいを・・

これも立派な汚れ役である。

豊田四郎監督も細かいが、
些細な仕草やちょっとした目線で
その人となりを出すのが憎たらしいくらいにうまいですね。

上原謙と高峰三枝子は倦怠期の夫婦。

変わりばえしない日常生活にうんざりしている夫は
ふとしたはずみから同僚の子持ちの未亡人(丹阿弥谷津子)と
いい仲になってしまう。
妻はそれを知って・・

息がつまるようなテーマだけど、この夫婦の家は
二階を間貸ししているために人がしょっちゅう出入りする。

開かれた家なのだ。

夫婦の周りにいる人物の配置が絶妙で、
うっとおしいテーマなのに開放感があるのはそのためだと思う。

未亡人の丹阿弥谷津子は殺したら化けて出そうな
じと~~っとした女だが
最後は意外にあっけなかった。

上原が浮かれてホイホイしたり、
帰ると妻の前で黙りこくりじ~~っと下を向いている様子も
とても可笑しく見た。

三國連太郎が
下宿人のユーモラスな味の画学生役で抜群。
うますぎ。
どこかしらなよ~っとしていて
役によってからだの動きも全然違うってすごい。
一挙一動を凝視してしまう。

この作品の脚本は井出敏郎だが
皮肉めいた、
厭世的な結末は監督の恋愛・人生観も反映しているのだろうか?

「フルムーン旅行」というキャッチフレーズの
CMが人気を博したが
まさにこの二人が温泉に入っていたなあと懐かしく思い出す。

1953年 成瀬巳喜男 監督作品  脚本  井手俊郎 撮影 玉井正夫  音楽 斎藤一郎 美術  中古智

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「花嫁吸血魔」

2005年09月06日 | ★恐怖!な映画
成瀬成瀬と騒いでいたら、
ケーブルTVで新東宝の怪談もの
やっていることに気がついてしまった。

これは見ねばなるまい。

主役には「池内淳子」とある。
今なお変わらない美貌で、
落ち着いたベテラン芸者役などやらせたら上手い人だ。

それが!

とんでもないことになってました!

はじまるやいなや暗い森の中に
顔半分がつぶれた醜いせむし男登場!
蝙蝠が舞う薄暗い洞窟に入っていくと
そこには気味の悪い老婆が祭壇に向かい怪しい祈りをささげていた。

振り向いた顔は
せむし男とどっこいどっこいの、
いや
それよりももっと醜い、正視に耐えない恐ろしいしろものだった。

老婆の「いつものやつを早く!」という言葉に男は反応し
でっかい網のようなものを持ち出してくる。

(い、いつものやつってなんだろう・・・)

男は獣のように咆哮して網を振り回し
飛んでいる蝙蝠をすばやく捕まえるや
ぶすりとナイフをつきたて
その生き血を杯に受け、老婆に差し出す。
老婆うやうやしく杯をかかげ恍惚として飲み干し
「これぞ・・云々・・!」と最高潮に達し気勢をあげるのだった。

わたしがそのままTVの前に座り込んだのは言うまでもありません。

・・ここまで読んでくださったかたは
醜い老婆が「池内淳子か」と思われたでしょうが
これから事態はもっとすごい展開になっていくのです!

舞台は「ごく普通の世間」に移ります。
池内淳子は期待されている女優の卵。
だが売り出す寸前に
女ともだちのねたみを受けて
崖から突き落とされ、
顔半分に醜い傷跡が残ってしまう・・・

失意の淳子は何かに導かれるように山奥の洞窟へ・・・
待ちかねていた老婆から
同じ血筋をひいている同族であることが明かされる。

そして老婆の施術によって
美しい娘は蝙蝠とも熊ともつかぬ化け物に変身し
復讐鬼と化してしまうのだった!

池内淳子に比べれば
高峰三枝子の汚れ役などまだ綺麗なものだとわかった。

80年代に「ハウリング」とか「狼男アメリカン」
いう映画やさらにマイケルジャクソンの
「スリラー」なんてのがありましたが、
これ、それよりはるかに古いけど
変身の様子がたいへんショッキング。

これを体当たり演技といわずしてなんとしよう。

さらに老婆役の五月藤江が最高。

このかたは中川信夫の傑作「亡霊怪猫屋敷」でも
化け猫老婆を演じていた。
台詞まわしの気色悪さは抜群。
他にも多数怪奇映画に出演されているベテラン怪婆女優(?)さんだ。

池内淳子がまさか獣変身ものにも出ていたとは驚いた。
新東宝の怪奇映画はやはり見逃せない。

成瀬はしっかり(たぶん)録画しています。

1960年 並木鏡太郎監督作品 脚本 長崎一平 撮影 吉田重業 美術 小汲明

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「人斬り」

2005年09月01日 | ★ぐっとくる時代劇
五社英雄+岡田以蔵ときては・・
さぞかしズバドバッ!(凄絶な殺陣)だらけだろうと思っていたら

やっぱりそうでした。

女(倍賞美津子)もあります。

脚本橋本忍、勝新太郎、仲代達矢、
石原裕次郎、三島由紀夫のクレジットで
そそられない時代劇ファンはいないはず。

ところが私ときたら、今回がまるっきり初見でした。

拾ってくれた恩人、武市半平太から命ぜられるままに
殺戮を繰り返す以蔵。
恐るべき刺客の顔とは別に、
心優しく、子供のように無垢な顔も持っていた。

勝新にぴったりの役柄。

なのに
この後味の悪さはなんでしょう。
哀れな末路か・・それとも・・

石原裕次郎は坂本竜馬で
いいとこ取りをしているが
幕末の士、竜馬としてはちょっと太りすぎだと思う。

三島由紀夫が田中新兵衛役。
台詞は結構あるが
何度もとちって勝新に助け舟を出されたとか。

嬉々として演じているように見え
豪快な殺陣も披露しているが
武市の謀略によって濡れ衣を着せられて
あっと思った瞬間
筋肉もりもりのもろ肌脱ぎ、一瞬の気合とともに
切腹!唐突!

三島由紀夫が切腹するんですよ。
・・・絶句・・・するしかありません・・・
このシーンは三島にとってはずせなかったのだろうけど、
見ていて精神的に消耗した瞬間だった!

仲谷昇を久々時代劇に見た。
公家の姉小路公知。(綾小路きみまろではありません)

一番貧乏くじをひいたのは
目的のためには手段を選ばない
冷徹な人物として描かれている武市半平太役の
仲代達矢で、汚れ役を一手に引き受けている。

冒頭、暗殺シーンを覗き見していた以蔵の驚きの表情が
次第に陶酔の表情に変わっていくところがすごい。
「俺が・・俺が斬ったら・・」
「き、斬る前に『天誅!』って言うんだな・・『て・・天誅・・!』」
と半眼になる様子はなんとも奇怪で
この映画の中でもっとも印象に残った場面だった。

最後まで見ていて、とうとう違和感の原因のひとつがわかった。

音楽(佐藤勝)がこの作品に合わないと思う。
以蔵が斬り込みに走るシーンに明るい青春時代劇風の曲。
目をそむけたくなるリアルな斬り合いの合間に軽いメロディ。
トーンが合わなすぎ。

様々な人物、思想、が交錯する中、
時代はいやおうなしに大きく動いていく。

五社+勝新って鰻とステーキのようで、
とにかく濃いですわ~

1969年 五社英雄監督作品 脚本 橋本忍 撮影 森田富士郎 美術 西岡善信

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