すみません、お騒がせしちゃって。支払いを済ませ、営業職らしい客は、くしゃみを連発した詫びを言って、店を出て行った。
「花粉、今日は、ひどそうだね。」加藤のおじいちゃんが、気の毒そうに、呟いた。
「今日は、20度位になるって言ってましたものね。これじゃあ、花粉の量も、多そうですよね。」マスターが、客のコーヒーカップを片付けながら、相槌を打つ。
「話は、違うけど、久実さん、自分で店を始めるらしいね。」
星から聞いたのだろう、心配そうに、マスターに尋ねた。
「そうみたいですよ。今月で、アルハンブラ辞めて、5月には、店を始めるって、言ってましたよ。」
「準備期間が、短いけど、大丈夫なのかね?」
「店は、帽子屋のショウケースなんかが、そのまま使えるみたいですし、仕入れは、以前雑貨屋に勤めていた時のつてが、あるみたいですよ。」
「星も、手伝えるところは、手伝うって言ってたけど、資金繰りも大変だろうに・・・。」
元々、不動産会社の経営者だった人だから、加藤のおじいちゃんが、久実さんを心配するのも、マスターには、良く分かる。
「久実さんは、しっかりしてるから、何とかなるんじゃないですか」マスターが、言うと、
「年を取ると、つい、心配してしまってね」と言って、自嘲気味に笑った。