かみさんの誕生日 151

2022-04-28 17:21:40 | 小説

暑い暑いと言いながら、ヤマさんが店にやって来た。

そんな様子を見て、冬子さんが、「私は、昨日に比べて、少し肌寒いような気がするんですけど、ヤマさんは、良く動いていらっしゃるから、暑いのね。」と、言った。

腕まくりをして、マスターの淹れてくれたアイスコーヒーを一気に飲み干すと、やっと落ち着いた様子で、二人に、相談に乗ってもらいたい事があると言った。

「ヤマさんが、相談事なんて、珍しいね」

カウンターを拭きながら、マスターが、興味深げに尋ねた。

「実は、明日、かみさんの誕生日なんだけど、何をプレゼントしたら良いか、頭が痛くてさ・・。」

「あら、ヤマさん優しいのね。奥さんにプレゼントなんてステキだわ」冬子さんが、ヤマさんを、褒める。

マスターが、「私みたいな独り者に聞かれてもねえ、冬子さん、考えて上げて下さいよ」と、冬子さんに、賽を投げる。

「何時もは、どんな物を差し上げているの?」冬子さんが、ヤマさんに、尋ねる。

「何時もは、ケーキだったり、寿司だったりなんですけど、今年は、他の物にしてやりたいと思って」

「女の人は、バックだったり、装飾品が、良いんじゃないかしら?」 

ヤマさんも、冬子さんのアドバイスに、納得した様子で、お礼もそこそこに、店を飛び出して行った。

「ヤマさんて、優しいわね」冬子さんの言葉に、マスターも、「一見、ガサツなんですけど、ホントは、凄く優しいんですよね。」と、うなづいた。

 

 

 

 


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冬子さんに叱られる  150

2022-04-23 15:44:56 | 小説

久実さんが、しょんぼりしてマスターの店にやって来た。

「アイスコーヒーにしたよ。」

マスターが久実さんのテーブルに、アイスコーヒーのグラスを、置いてくれた。

久実さんは、すぐにコーヒーに手をつけず、グラスに付いた水滴が落ちる様子を、ぼんやり眺めている。

「冬子さんに怒られました。」久実さんが、ポツンと言った。この間の三つ葉の件だなと、マスターも、気づいた。

マスター自身も、久実さんの依頼を受けてしまったことを、後悔している。

当然、渚ちゃんも、誘われているものだと思っていたのに、仲間外れにされたようで、後味が悪かった。

「三人で集まるのは、かまわないけど、マスターの店を使うのは、渚ちゃんに対して、思いやりがなさすぎるって冬子さんに、言われました。」と、久実さんが、申し訳なさそうに言った。

奥の席で、二人の話を聞いていた加藤のおじいちゃんが、「自分達だけが、悲劇のヒロインのつもりになって、実は、他の人を傷つけていたって事だよね。」と、分析した。

「加藤さんの、おっしゃる通りです。私が、一番年上なのに、配慮が無さ過ぎました。」

渚ちゃんには、すぐ電話で、謝ったそうだが、気にしてないと言う割には、元気がなかったみたいだと言った。

三つ葉の会は、解散したそうだ。

「誰にもグチを言いたい時は、あるさ、でも自分の事を棚に上げて、人を、羨むのは良くないよね。」

加藤のおじいちゃんの話を、久実さんは、黙って聞いていた。

マスターが、「氷が解けて水っぽくなっちゃうから、早く飲んだ方が良いよ」と、久実さんにアイスコーヒーを勧めた。


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ハブなのかな? 149

2022-04-19 06:26:03 | 小説

若葉が陽の光を浴びて眩しい。

遅い昼食を取ろうと、公園に立ち寄った星は、桜の木の下のベンチに、渚ちゃんが、しょんぼり座っているのを、見つけた。

星が近づいても渚ちゃんは、全く気が付かないようだ。

「渚ちゃん」星が、声を掛けると、漸く気づいたらしく、ぎごちない笑顔を向けた。

「お昼ですか?」渚が、尋ねた。

「やっと、仕事が、一段落したから・・・。」

渚の横に、少し間を開けて、星が腰かけた。

「何かあった?」星が心配して尋ねると、「私、ハブにされたのかなあ?と、思って」と、言った。

伊達さんから、三つ葉のクローバーの件を聞いて、ショックを受けたのだと言う。

渚に飲み物を勧めながら、星は、サンドイッチを、ほおばった。

「気にしない方が良いよ。彼女たちには、それなりの言い分も有るんだろうからさ」

星の慰めにも、中々立ち直れないらしい。

「俺なんか、子供の頃から、ハブにされることが多くて、結構慣れちゃったのかな?」

傍から見たら、成績も良く、イケメンで、みんなからちやほやされたイメージの方が、強い星にも、そんな過去があったなんて・・・。

自分を、慰めようとして話してくれたのだろうけど、いつもはクールで、他人との間に常に一定の距離を保っている星の優しさに、改めて触れたような気がした。

 

 


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三人の女 148

2022-04-15 19:18:26 | 小説

久実さんから電話があって、三人分の夕食を作って欲しいと、頼まれた。

何が食べたいのかマスターが尋ねると、出来れば煮物とか、和食が食べたいと言う。

普段は、オムライスや、ハンバーグなどを用意することが、多いのだが、久実さんの頼みとあって、

マスターも腕をふるうことにした。

メニューは、グリンピースの炊き込みご飯、桜エビのかき揚げ、筑前煮、わかめの味噌汁、マカロニサラダ。デザートは、イチゴ大福ってとこで、どうだろう?

マスターは、忙しく頭をめぐらせて、メニューを、考えてみた。

イチゴ大福は、松ぼっくりで、買ってくれば良いだろう。

昨日から降り続いた雨が漸く上がった頃、三人のレディ達が、お洒落して店にやって来た。

久実さん、水川黎、伊達さんの三人だ。

マスターが、予想していたメンツとは、ちょっと違った。

一人分ずつ木製のトレイに載せた料理が、運ばれてくると、三人が、口々に美味しそうと、声を上げた。

「マスターに、無理にお願いしちゃたけど、有難うございます。」と、久実さんが、お礼を言った。

マスターが、このメンバーでの会食は、珍しいねって言うと、伊達さんが、三つ葉のクローバーの会合なんですと、答えた。

「四つ葉じゃなくて三つ葉なの?」マスターが、不思議そうに尋ねた。

「四つ葉のクローバーが見つかれば、ハッピーですけど、私達は、まだ見つかってないので、三つ葉なんです。」と、伊達さんが、説明してくれた。

「なるほどね。」マスターは、どうやら合点がいったようだ。

バツイチの久実さん、空のことが諦められない水川黎、星に片思い中の伊達さん。

渚ちゃんが、誘われなかった理由が、マスターには、何となくわかるような気がした。

 

 

 

 


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アイスコーヒーの出番  147

2022-04-11 18:04:50 | 小説

「桜が散り始めたと思ったら、まるで夏みたいな暑さですものね。」

マスターが、星の注文のアイスコーヒーを作りながら、加藤のおじいちゃんに、話しかける。

「私みたいな年寄りには、気温の変化についていけないよ。」と、新聞を見ながら、頷いている。

二人の後から、入って来た客も、アイスコーヒーを注文した。

どうやら星の顧客らしく、星が気づいて、丁寧にあいさつした。

客の方も、「先日は、良い部屋を、お世話して頂いて、有難うございました。」と、お礼を言った。

冬子さんのアパートが、一部屋空いて、その後に、引っ越してきたそうだ。

冬子さんからこの店の事を聞いて、コーヒーを飲みに来たと、言った。

「あのアパートの方たちは、皆さん親切で、今時珍しく仲が良いんですよね。」と、感心してる。

星が、「他のマンションも観て頂いたんですけど、あのアパートが、気に入られたみたいで」と、マスターとおじいちゃんに説明した。

マスターが、二人にアイスコーヒーを勧めた。

良かったらと言って、ガラス皿にバニラアイスを載せて出してくれた。

客が恐縮していると、加藤のおじいちゃんが、「この店は、注文しなくても、マスターの気分次第で、美味しいものが、出てくるんだから、遠慮しないで、お上がりなさい。」と、マスターに代わって、客に勧めた。

星のバニラアイスの横には、ブルーベリーが、幾つぶか添えられている。

星が、嬉しそうに、マスターに「ブルーベリーが、好きだって話したことありましたっけ?」と、尋ねている。

マスターが、「ある人の情報でね。」と、惚けると、加藤のおじいちゃんが、「マスターには、何でもお見通しだよ」と、星をからかった。

皆のやり取りを、楽しそうに聞いていた客は、アイスコーヒーも、アイスクリームも、冷たくて美味しかったので、又来させていただくと言って、帰って行った。

40がらみの、人の良さそうな客を、星が入り口まで送って行った。

何時もの星は、クールで、伊達さんを恋焦がれさせる程、カッコよいが、客には、あくまでも丁寧で、礼儀正しい。

マスターは、星の二つの顔を、まざまざと見てしまった。

 

 

 

 

 


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花にら  146

2022-04-08 06:56:09 | 小説

店の入り口の花壇に、花にらの白い花が、咲き乱れている。

植えた覚えもないのに、この季節になると白い可憐な花が、目を楽しませてくれる。

マスターが、箒を休めて眺めている所に、グレーの車が、止まった。

ドアが開いて、加藤のおじいちゃんが、下りてきた。

運転席の窓から星が、顔を出してマスターに、挨拶した。

用事を、終えたら又、戻るからと言って、加藤のおじいちゃんを残して去って行った。

店に入ると、加藤のおじいちゃんが、空から頼まれたと言って、もみじ饅頭の包みを、マスターに渡した。

「空君、広島に、行っていたんですね?」

「昨日帰って来たんだけど、今日は仕事に出かけたよ。」

「若いっていいですね、元気が良くて」マスターの言葉に、「マスターだって、私から比べたら、ずっと、若いじゃないの」と、加藤のおじいちゃんが、反論する。

「そうですけど、この頃、しみじみ年を感じますよ。眼鏡を掛けなければ、新聞の字が、かすむし、ちょっと、置いたカギが、見つからなかったり・・・。」

マスターが運んでくれた☕を飲みながら、「それならまだ良いよ、私なんか、この間、一生懸命眼鏡を探していたら、娘に、おじいちゃん、眼鏡掛けてるじゃないって、言われて、愕然としたよ。」

加藤のおじいちゃんの話に、マスターが、大笑いしている所に、星が、戻って来た。

淡いミントグリーンのジャケットが良く似合っている。

カウンター席に腰かけると、「アイスにしてもらって良いですか?」と、コーヒーを注文した。

 

 


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ブルーベリーヨーグルト 145

2022-04-03 06:49:50 | 小説

「仕事の帰り?お疲れ」伊達さんが、二人に、声を掛ける。

「公園の桜、満開でしたよ。」渚ちゃんが答える。

「休みなのに、出かけなかったんですか?」南条は、背負って来た黒のリュックを、イスに置きながら、

伊達さんに尋ねる。

マスターが、二人に珈琲を運んできながら、「どうしたら、もてるかって伊達さんに聞かれて困ってたところだよ」と、いたずらっぽく笑った。

「そんなこと、分かってたら、誰も苦労しませんよ。」

南条が、☕を飲みながら、冷たく言い放つ。

渚ちゃんには、伊達さんの気持ちが、何となく分かる。

「星さんは、ブルーベリーヨーグルトが、好きですよ。」渚ちゃんの言葉に、伊達さんが、反応する。

「なんで、加藤さんが、ブルーベリーヨーグルトが、好きだって知ってるのよ?」

「時々、コンビニで合うと、レジ袋の中に、必ず入ってますもん。」

「ふーん、考えてみたら、私、加藤さんの事、何にも知らないな・・・。それなのに、何で好きなんだろう?」

中二病みたいな伊達さんに、南条君が、「人を好きになるって、そういう事ですよ。自分でも何故好きなのかわからないけど、好きになるんですよ。」

二人のやり取りを聞いていた渚ちゃんは、空の事を、ふと、思い浮かべる。

有給休暇が、余ってるからと言って、今頃は、広島の向島辺りに、居るはずだ。

天然ソーダ水が、飲みたいからと言う理由だけで、旅に出てしまう空の事を・・・。


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