春というより、初夏の陽光に輝く海を、渚は長い間、黙って眺めていた。
星は、渚の様子を、少し離れたところから見守るように、立っていたが、日が傾き始めると、
「少し、冷えてきたみたいだから、お茶でも飲みに行こう」と、渚を促した。
鎌倉方面に戻り始めた頃から、道が込み始めて来た。
「平日でも、結構混むんですね。」と、心配する渚に、
星は、「大丈夫だから」と一言いうと、脇道に逸れ、山道の途中にある、お洒落な建物の横の
駐車場に車を止めた。
一見、個人の邸宅のように見えた建物は、フレンチレストランなのだと、星が渚に教えてくれた。
二人が、店に入ると、すらりとした中年の女性が出迎えてくれた。
星とは顔なじみらしく、お久しぶりですねと、声を掛けた。
海の見える窓辺の席に案内された星は、「ここのチーズケーキ、美味しいんだよ。」と、渚に勧めた。
運ばれてきた白い皿の中央にレアチーズケーキ、横には、ブルーベリーソースが、添えられている。
渚は、思わず、笑ってしまった。
星は、突然笑い出した渚に「何か、可笑しい?」と、怪訝そうに尋ねた。
「星さんって、本当にブルーベリーが好きなんだなと思って・・・。」
「ああ、子供みたいだって思ったんだ・・・。」
星は、ちょっと照れたように、何時か、ブルーベリーが好きなわけを、話さなきゃねと言った。