雪でも降りそう  192

2023-01-27 09:03:13 | 小説

お持たせの栗どら焼きを口に運びながら、冬子さんは、曇った窓の外を気にしている。

「何だか、今にも雪が降って来そうね」 

「この空じゃ、降って来そうだね」加藤のおじいちゃんが、老眼鏡を額にずらしながら、相槌を打つ。

マスターは、冬子さんリクエストの抹茶を、立てている。

「昨日、空が神戸に行ったんだけど、あっちは雪がひどいみたいで、気がかりでね。」と、加藤のおじいちゃんが、言った。  

「仕事ですか?」マスターの問に、「向こうで就職が決まったみたいでね」と、言葉に元気がない。

良かったじゃありませんかという冬子さんに、「ふらふらしないで、家の仕事でも手伝えばよいのに」と、辛らつだ。

抹茶をすすりながら、「私は、星と空を分け隔てなく育てたつもりなんだけど、やっぱり空には、甘かったんだろうかね?」自問するように言ってため息をついた。

マスターが、「そんなことありませんよ、空君もしっかりしてますよ」と、空を庇った。

冬子さんが、肩のショールを引き寄せながら、冷えると思ったら、やっぱり降って来たわよと、窓の方を見ながら二人に告げた。


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それで、どうなったの? 191

2023-01-18 17:40:25 | 小説

入って来たのは、伊達さんだった。

赤いショート丈のコートにグレーのフレアースカート。

久実さんが、伊達さんのファションを褒めた。

「伊達さん、赤いコート、良く似合ってるじゃない」

久実さんに褒められて、気を良くした伊達さんは、マスターに、カフエオレとケーキを久実さんの分まで注文した。  ☕ 

久実さんが、「そんな気を使わなくて良いから、クリスマスデートの話聞かせてよ」と、言った。

伊達さんは、「デートだなんて、無理に頼んでコンサート行ってもらっただけですから・・・。」と、

珍しく、赤くなっている。

「コンサートの後、星さんが、食事をご馳走してくれて、家まで送ってくれたんです。もう、最高でした。」と熱く語ってる。

久実さんは、伊達さんに、付き合ってって、言えばよかったのにと、嗾けた。

マスターは、星が誰を好きか知ってるくせに、久実さんって、ちょっと意地悪だなと、思いつつ、

黙って二人のやり取りを、聞いていた。

 


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小旅行 190

2023-01-13 07:30:48 | 小説

久実さんがやって来た。

「お休み?」

マスターが尋ねると、「久しぶりに連休が取れたので、下田に行ってきたお土産」と言って、

大きな紙袋を、カウンターに置いた。

「金目の干物と、わさび漬け、マスター好きでしょ?」

マスターが、気を使わなくて良かったのにと言うと、気は使ってないけど、お金は使ったと、冗談を言って、笑った。

コーヒーが、運ばれて来ると、一口飲んで、「ああ、マスターのコーヒーは、最高」と、褒めた。

「下田は、暖かったでしょ?」マスターに聞かれ、こっちより大分暖かくて、水仙が見ごろだったと言った。

久実さんの話を聞いていると、マスターも、久しぶりに旅に出たくなった。

考えてみたら、随分旅に行ってないなと思った。

ドアが、開いた。


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静かな時間  189

2023-01-06 13:30:03 | 小説

以前は、正月も必ず誰かがやって来たので、店を休むことはなかった。

ただこの2,3年は、正月三が日は、店を閉めている。

昨日あたりは、初もうでの帰りに寄った客や、常連も顔を見せたが、今日は、まだ客が来ない。

そんなんで大丈夫かと、冬子さんや加藤のおじいちゃんが、心配してくれるけど、今のところ、まあ何とかなっている。

第一、珈琲屋を辞めても、仕事が見つからないだろう。

満員の通勤電車に揺られて仕事に行くくらいなら、この店で干からびている方がましだと思っている。

ドアが、開いた。

椿さんとれんげちゃん親子が、新年のあいさつに、やって来た。

れんげちゃんが選んだという、うさぎ模様の手ぬぐいと、手作りのクッキーを、届けてくれた。

れんげちゃんには、オレンジジュース、椿さんには、ミルク多めのカフエオレを用意した。 

椿さんが、こんな静かなお店、久しぶりですねと言った。

客で賑わう店も良いけれど、コーヒーの香りが漂って、ゆっくり時間が流れるこの時間も、マスターには、捨てがたい時間だ。

 

 


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