初任給が出たので 70

2021-04-29 07:44:37 | 小説

雨が降っている。

ドアが開いて、渚ちゃんがやって来た。

「おはようございます。」

渚ちゃんの、元気な声がマスターの眠気を覚ます。

「早いね。」

「まだ開店前ですか?」

「そうだけど、うちはお客さんが来てくれた時間が、開店時間みたいなもんだからどうぞ・・・。」

tvでは、三年前の資産家殺人事件の犯人が逮捕された映像が、流れてる。

マスターは、サイホンのコーヒーをカップに注ぎながら、「良く捕まったよね」と、言った。

「そうですよね。一時は、tvでも騒いでいたけど、ここの所静かだったから、迷宮入りかなと思ってたのに・・・。」

サスペンス好きの渚ちゃんらしく、「SNSの解析とかに時間を取られてたみたいですよ」と中々詳しい。

「あのー、前に初任給が出たら、みんなにごちそうするって言ったの覚えてます?」

「ああ、そんなこと言ってたよね。」

マスターがさらっと言う。

「出たことは出たんですけど、今月は、まだ半分で、来月から一月分もらえるみたいなんです。」

「皆気にしてないから、大丈夫だと思うよ。」

「でも、それじゃあ私の気が済まないので、これ皆さんにあげて下さい。」

紙袋の中から、ラッピングされた包みを取り出した。

この間、久実さんの店で、買って来たんです。

何?

「ハンドタオルです。これから暑くなるから、良いかなと思って、ホントは、もっと良いものあげたかったんですけど、予算がなくて・・・。」

「そんな、無駄遣いしなくて良いのに、冬子さんも、加藤さんも渚ちゃんが元気で仕事しててくれれば、それだけで、喜んでいるからさ。」

「でも、気持ちなんで、預かって下さい。」

「じゃあ、預かるけど、小遣いは大丈夫なの?」 まだ、心配しながら漸く、マスターが受け取った。

「雨で、行くとこないから、今日、冬子さん達来そうなんで、早めに来たんです。」

「そうなんだ。若いのに、偉いよ。みんな、喜ぶよ。」

「あの~、空君の分もあるんで・・・。お昼差し入れして貰ったんで。」

「わかったよ、ちゃんと本人に渡すよ、それより自分で渡せば良いのに。」

「でも、なかなか会えないから」と、ちょっと淋しそうに言った。

渚ちゃんが、帰ったあと、昼近くなって、加藤のおじいちゃんと、空君が二人でやって来た。

 

 

 

 

 


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ツツジが綺麗よ  69

2021-04-24 16:31:32 | 小説

「マスター、加藤さんのお庭のツツジご覧になった?」

冬子さんが、淡いピンクのストールを撒いて、マスターの店にやって来た。

「昨日、買い物帰りに、門のあたりから見せて頂いたけど、今が盛りですね。」

濃いピンクや、白、オレンジなど何種類かのツツジが、見事だ。

新聞ごしに顔をだした加藤のおじいちゃんが、「たいして手入れもしてないんだけど、良く咲いてるよね」と、他人事みたいに言っている。

何時もの席に座った冬子さんに、マスターが、コーヒーを運んでいくと、「はい、これこの間の

筍ご飯のお礼」といって、和菓子屋の包みを、差し出した。

筍は、ヤマさんの差し入れだからと、マスターが遠慮すると、それでもあんなに美味しい筍ご飯は、マスターじゃなきゃ、作れませんよと言って、改めて、包みを渡した。

マスターが、包みを開けると、柏餅が現れた。

緑色の方が、粒あんで、白いほうが、漉しあんですよと、冬子さんが説明してる。

加藤のおじいちゃんにも勧めると、コーヒーに、柏餅は、合うのかなあ?と首をひねりながら口を運んでいる。

「あら、美味しい。自分で買ってきて言うのも、なんですけど、意外に柏餅とコーヒーって、合うわね」と冬子さんが言った。

マスターが、「コーヒーは、煎餅にも合うし、どら焼きにだって会いますよ」と付け足す。

「確かに、上手いよ」と、加藤のおじいちゃんもご機嫌だ。

「これ、あそこの和菓子屋?」

加藤のおじちゃんが、冬子さんに、尋ねてる。

「ええ、松ぼっくりのですよ。」

「店の名前は、ちょっと変だけど、味は良いんだよね。」

加藤のおじいちゃんの言い草に、マスターと冬子さんが、声を上げて笑った。

松ぼっくりは、老夫婦二人でやっている小さな和菓子屋だけど、この辺りでは、評判の店だ。

ツツジを愛で、柏餅に舌鼓を打つ、小さな幸せ・・・。

 

 

 

 

 

 

 


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スーパーが混む理由

2021-04-16 13:39:25 | 日記

近所のスーパーに、行ったらやたら混んでいた。

売り出しでもないし、なんだろうねと思いつつ、間隔を開けて引かれた線の手前で、暫く並んでいた。

スーパーが、混む理由って幾つかある。

その1 売り出し

その2 ポイント2倍デー

その3 翌日が、雨

その4 給料日後

今日は、その3に該当って事か?

週末は雨って言ってたものね。

それに、今日は4月16日ってことは、昨日年金が振り込まれたからなんだ。

何時か、15日に美容院の予約を取ろうとしたら、いっぱいで、美容師さんが、年金支給日の後は、

混むんですって、言っていたのを、思い出した。

そう言えば、行列に並んでいる人は、高齢者ばかりだ。

しかも、レジかご2杯に目いっぱい、買っている人も多くいる。

そんなことを考えているうちに、やっと自分の番になった。

コロナの勢いが止まらないから、いずれ又緊急事態宣言が、出るのだろうか?

マンボウなんてで、お茶を濁していても、事態は、改善されないと思う。

ゴールデンウイークも、庭の草むしりでもして過ごすしかないのかな?

 

 


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何とかやっている 68

2021-04-11 15:51:07 | 小説

お客さんにタケノコ貰ったからっと言ってヤマさんが、店に来た。

「筍ごはんにでもしてくれって、かみさんに言ったら、皮をむいたり、茹でたりがめんどくさいっていうから、マスターの所に持って来たよ」と言っている。

「少し時間がかかるけど、時間があるなら、作ろうか」とマスターが言ってくれた。

「そう来なくちゃ、やっぱりマスターだね。」とご機嫌のヤマさん。

「褒められても、何にもでないよ。」

そう言いながら、さっそく鍋に湯を沸かし始めた。

「今日は、休み?」

「ここの所、コロナの時期だっていうのに、それなりに忙しくて、休んでなんかいられないよ」と言いながら、美味しそうに、コーヒーを啜った。

「ヤマさんは、親切だからたよりにされるんでしょ?」

冬子さんが、いつもの席から声をかける。

「マスター程じゃないけど、電気屋だか、便利屋だか自分でも分でもわからなくなる時があるけど、

お客さんの頼みを聞いてあげてるお蔭で、仕事も何とかなってるんだと思いますよ」と言った。

湯にぬかを入れて、皮の付いたまま、半分に切った筍をマスターが茹で始めた。

「へぇー、皮を付けたまま茹でるんだ。」

ヤマさんが、関心している。

「マスターに任せておけば、美味しい筍ごはんが食べられるわよ」と、言いながら冬子さんが、帰り支度を始めた。

「食べて行かないんですか?」

マスターに声を掛けられた冬子さんは、ちょっと買い物してから又来るわと言って、店を出て行った。

ヤマさんは、野球中継を見ながら、筍ご飯のできるのを子供みたいに、待ちわびている。

ドアが開いて、二人連れの客が、入ってきた。

 

 

 

 

 


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昨日も今日も、電車が遅延

2021-04-07 17:39:43 | 日記

昨日の仕事帰りも、今朝も電車が遅延した。

電車が遅延すると、車内の混雑が凄いことになる。

密どころじゃない。

バーをつかんでいても後ろから押されて、前のめりに倒れそうになる。

コロナウイルスが、潜んでいたら、あっという間に広がるだろうな?

そんなことを考えながらの通勤は、ストレス満載だ。

知人に、メンタルをやられて、電車に乗れなくなった人がいるが、

こういう状況に置かれると、その人の気持ちも理解できる。

リーモートで、乗客が減ったからって、通勤時間帯の車両を減らすのはやめて欲しい。

日中は、乗客も少ないだろうけど、朝夕の通勤時間帯に、本数を減らしたり、車両を減らされると、ほんとにキツイ!

3月からのダイヤ改正は、コロナ禍の中、通勤しなければならない人達にとって地獄だ。

早、桜は散って、季節は移って行くけど、心の中は、曇り空の日が続いている。

 

 


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桜が散り始めた公園で・・・。 67

2021-04-04 17:40:54 | 小説

12時を少し回った頃だろうか、図書館のカウンターに分厚い本が2冊置かれた。

「これ、貸して下さい。」

声に顔を上げると、空君が立っていた。

「カードを、お預かりします。」

冷静を装っていても、渚ちゃんの声は、普段より少し上ずって、それでも何日までに、返却お願いしますと付け加える事を忘れなかった。

「空君が、お昼、食べた?」と小声で聞いた。

軽く首を振ると、公園と書かれたポストイットをサッと渡して、立ち去った。

隣の席の度の厚い眼鏡をかけた生真面目な先輩にも、気づかれなかったと思う。

15分程して、食事に行っていた別の先輩が帰って来て、交代で食事に行くように言われた。

急いで、図書館の隣の公園に行くと、散り始めた桜の木の下のベンチに空君が、座っていた。

「突然、ごめん。」

「爺ちゃんから、本借りるついでに渚ちゃんの様子を見て来いって指令が出て」と、笑ってる。

ハンバーガーの入った袋と、飲み物を出して、一緒に食べようと言った。

「今日は、お休みですか?」と渚ちゃんが尋ねた。 

「相変わらず、リーモートで、出社は、週1位かな。」

時間を、持て余してると言う空君の肩に、桜がひらひら落ちた。

「まさか、来て下さるなんて思っていなかったので、何だか申し訳なくて・・・。」と、渚ちゃん。

緊張気味の渚ちゃんを見て、こっちこそ邪魔しに来ちゃってごめんと空君があやまった。

遠慮する渚ちゃんに、ハンバーガーを勧め、自分もハンバーガーをほおばった。

空君は、渚ちゃんの昼休みが終わる少し前まで、ベンチに座り、本の話や旅行の話をして帰って行った。    

桜吹雪の中を去っていく空君の後ろ姿を見て、渚ちゃんは、自分の頬を抓ってみたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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