「マスター、アイスコーヒー、出来る?桜もまだ咲かないのに、夏みたいだよ。」
店に入ってくるなり、額の汗をふきながらヤマさんが、アイスコーヒーを注文した。
マスターは、笑いながら、「天気予報で、暑くなるって言っていたので、氷を注文しときましたから、バッチリですよ。」と、答えた。
又、ドアが開いて、渚がリンちゃんと一緒に入って来た。
リンちゃんは、羽織っていた水色のカーデガンを脱ぎ捨てるように、イスの背に掛けた。
渚も、ボダーシャツの袖をたくし上げ、「マスター、アイスカフエオレ出来ますか?」と、矢継ぎ早に頼んだ。
先に来ていたヤマさんが、「親子で、騒々しくて、悪いね」と、マスターに謝った。
ヤマさんに、やっと気づいた渚が、「お父さん、仕事の帰りなの?」と、聞いた。
ヤマさんは、リンちゃんに、「ごめんね、親のしつけが、悪いもんだから、がさつでさ、仕事でも、迷惑かけてないといいんだけど」と、言った。
リンちゃんは、そんなことないですよ、良い先輩で、いつも仕事教えてもらって、助かってますと、ホローした。
ヤマさんが「そんなに褒められたら、奢らないわけにいかないな」と言って、作ってもらったアイスコーヒーを一気に飲むと、マスターに、二人の分も一緒に払うからと、支払いを済ませ、
もう一軒、寄るところがあるからと言って、さっさと帰っていった。
リンちゃんが、渚に、後でお父さんに、お礼言っておいて下さいと頼んだ。
「気にすることないから、ああいう人だから」と、他人事のように渚が言った。