「梅雨だから仕方ないんでしょうけど、また雨ね・・・。」
雨の中、冬子さんが、やって来た。
雨が降ると、腰が痛くてと、こぼしながら手提げ袋から、紙包みをだして、マスターに渡した。
「何ですか?」
「松ぼっくりの、紫陽花饅頭よ。」
「いつもすみません。」
マスターが、包みを開けると、紫色と薄紅色の饅頭が、現れた。
「綺麗な色ですね。」
「餡は、白餡と紅芋餡ですよ」と、冬子さん。
マスターが、ほうじ茶を入れた。
「娘が、最近また、帰って来いって、うるさいのよ。」
「たまには、顔を見せて上げたら良いんじゃないですか?」
「そうじゃないの。もう一人暮らしは、止めて、同居しろって事なのよ。」
「冬子さんが、いなくなったら、皆が悲しむけど、娘さんの気持ちも、分からなくはないし・・・。」
それだけ言うと、マスターは黙って、カウンターを拭き始めた。
「年を取るって、嫌ね。今まで、普通に出来ていたことが、出来なくなったり、自分では、若いつもりでも、脳みそもいかれちゃって・・。」
冬子さんの愚痴は、いつまでも続く。
止まない雨のようだ。
そんな時、ドアが開いて、空君がやって来た。
冬子さんに挨拶した後、マスターに、にが~い☕淹れて貰えますかと、オーダーした。