秘密 113

2021-11-28 13:22:55 | 小説

図書館の傍にある公園の駐車場に、見覚えのある車が止まっている。

何時だったか空君が、兄貴に借りたんだと言って乗って来たブルーのBMWだ。

でも、今日は仕事のはずだから、見間違いだろうと思って、車の横を通り過ぎた。

渚ちゃんが、公園の出口に近づいた時、後ろから軽くクラクションが鳴らされた。

慌てて、銀杏の木の方へ身体を避けると、さっき駐車場で見たBMWが、静かに止まった。

窓が開いて、空君の兄の星が、顔を覗かせた。

公園の傍のマンションに、下見に来た帰りだと言った。

良かったら家まで乗って行かないかと、誘ってくれた。

お仕事中でしょうからと、渚ちゃんが断ったのだが、話しておきたいことが有ると言われて、

乗せてもらう事にした。

何時も、じいちゃんや、空がお世話になってありがとう。

最初に、星から話しかけられた時、な~んだ、話ってそんなことだったのかと、ほっとした渚ちゃんだった。

何時かマスターも言っていたけど、星と空君は、雰囲気は似ていても、顔立ちは、あまり似ていない。

空から、僕のこと何か聞いている?

唐突に星が、話し始めた。

何かって?

僕たちが、本当の兄弟じゃないって事。

えっつ!

星の言葉に、渚ちゃんは、絶句した。

もしかして、私の事からかっているのかも?

ドラマ好きだって思っているのだろうか?

渚ちゃんが、思いめぐらせている時、からかってなんていないよと、星が、渚の心を見透かすように、

呟いた。

爺ちゃんの孫は孫なんだけど、空とは、兄弟じゃなくて、従兄弟なんだ。

僕の両親が小さい頃、離婚して、その後父が亡くなったから、爺ちゃんに引き取られたんだ。

戸籍上は、空の両親の養子になってるんだよ。

でも、何で私に、話してくれたんですか?

じいちゃんも、空も僕の為に話さない方が良いって考えてるみたいだけど、後から他の人から聞くより、話しておきたくて・・・。

車は、いつの間にか、マスターの店の前まで来ていた。

窓から、懐かしい☕の香りが漂って来た。

 

 

 

 

 

 


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気まずい関係 112

2021-11-26 17:17:11 | 小説

ドアが開いて、やって来たのは、空君とヤマさん。

それに、水川黎も一緒だ。

3人は偶然、店の近所で会ったそうだ。

どうしたのよ?遅かったじゃない。

渚ちゃんの言葉に、ごめん、仕事が遅くなっちゃってと答えたのは、空君だ。

渚ちゃんは、ヤマさんに言ったつもりだったので、慌てて、

空君の事じゃないんですと、謝った。

ヤマさんは、頭をかきながら、段々かみさんに似て、口うるさくなっちゃって困ってるんだと、渚ちゃんを庇った。

水川黎を誘ったのは、南条君だった。

昨日、コンビニで合って、良かったらと、誘ったそうだ。

水川黎は、マスターに挨拶すると、持ってきたケーキの箱を預けて、後で皆さんにと言って帰ろうと

した。

その様子を見ていた冬子さんが、折角いらしたんだから、すぐ帰らないで、こちらへいらっしゃいよと、

自分たちの席へ呼んだ。

南条君の隣の席に座った伊達さんは、ふ~ん、面白くなりそうと、呟いた。

伊達さんは、南条君や渚ちゃんの先輩で、面倒見が良いのだが、ちょっとおせっかいな所が、玉に瑕だ。

空君は、加藤のおじいちゃんの座っているテーブルに座った。

気まずいのか、遠くから渚ちゃんの様子を見てる。

渚ちゃんは、相変わらずマスターを手伝って、料理を運んだり、空いた皿をかたずけたりしている。

れんげちゃんが、眠くなったからと言って、椿さん親子は、先に帰った。

水川黎の差し入れの🎂をお土産に貰ってれんげちゃんは、至極ご機嫌だった。

渚ちゃんが、綺麗なお姉さんが、くれたんだよと言うと、

そうかな?れんげは、渚ちゃんの方が、綺麗だと思うけどと言ってウインクした。

何だか、れんげちゃんに、励まされたみたいだ。

マスターが、渚ちゃんも皆の方へ行って、何か食べておいでよと、声をかけてくれた。

久実さんも、後は私が手伝うから、向こうへいってらっしゃいよと、言ってくれた。

南条君が、こっちにおいでよと手を振って呼んでいる。

 

 


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最悪の土曜日

2021-11-21 07:37:30 | 日記

駅に着いたのが12時。

改札付近に、大勢の人。

ああ、何かあったなと思いつつ、改札をくぐる。

上下線の電車が、ホームに停車している。

何処かの駅に、故障した電車が止まっていて、復旧の目途が立たないと言う放送が、流れている。

取りあえず、動かない電車に乗った。

かなり混雑している。

空いた席何て、あるはずがないと思いきや、私が乗るのと入れ違いに電車を、下りた人がいて、

座ることは、出来た。

でも、それからが長かった。

たまに入る放送では、相変わらず、電車が動かない。

復旧の見通しが、立たないと言うものばかり。

12時半前後に、動く予定だと言う放送が流れ、尚且つ30分経過してやっと電車が動いた。

大勢の乗客。子供の泣き声、携帯の話声、呼び出し音。

マスクをしている息苦しさ。

ホントは、途中駅で下車する予定を諦めて、地元の駅で降りることに決めた。

そこからが、又地獄だ。

バス停には、ここ最近見たこともないような、長蛇の列。

バスが遅れているらしい。

コロナが、下火になって何よりだけど、外に出たいと言う人々の欲求が、爆発した土曜日。

雲一つない晴天。秋の素晴らしい一日になるはずが、

結局家に帰れたのは、何時もの3倍近い時間が経ってからだ。

はあ、疲れた。


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引っ越しパーティ 111

2021-11-16 18:08:41 | 小説

南条君から、引っ越しパーティの予約が入った。

本来なら、南条君の部屋でというのが、筋なのだろうけど、

部屋が狭いし、コロナ禍ということもあって、マスターの店でと言う事になったらしい。

メンバーは、店の常連と、図書館の同僚が渚ちゃんの他に一人。

テーブルは、離して座るということで、準備を始めた。

渚ちゃんと久実さんが手伝いに来てくれた。

一人一人の皿にサンドイッチや唐揚げ、アスパラの肉巻きや、ポテサラ、串カツ、ミートボールが、

マスターの手に寄って素早く盛り付けられていく。

マスター、一人で作るの大変だったでしょう?

久実さんが、驚きの声を上げる。

まだ、散らし寿司や、おでんも有るよ。

皆が、きっと喜ぶよね。

渚ちゃんは、バイトの経験者だから、マスターの盛り付けた皿を、手際よくテーブルに並べて行く。

久実さんは、飲み物や、コップを並べる。

加藤のおじいちゃんが、ワインを持ってやって来た。

ちょっと早過ぎたかね?

皆さんも、そろそろ来るでしょうから、お座りになってて下さいよ。

加藤のおじいちゃんは、マスターに促されて、奥の席に座った。

次に来たのは、南条君だ。

ラフな感じの水色のセーターが、良く似合っている。

お世話になりますと、マスターに挨拶して、加藤のおじいちゃんや、渚ちゃん達にもお礼を言った。

大体、準備が整った頃、冬子さんと椿さん親子、図書館の同僚の伊達さんが、やって来た。

わあ、凄いご馳走ですね、この店に初めてやって来た伊達さんは、感嘆の声を上げた。

皆が、それぞれのテーブルに付いたのを見計らって、南条君が前に出て、簡単に挨拶した。

マスターのお蔭で、こんな美味しそうな料理を用意して頂いたので、皆さん楽しんでいただけたら、何よりです。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

加藤のおじいちゃんが、乾杯の音頭を取って、皆がグラスを重ねた。

マスターもカウンターの中から、乾杯とグラスを掲げた。

マスターの横に並んだ渚ちゃんが、それにしても、父さんと、空君遅いよねと、心配してる。

ドアが、開いた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 


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寒い朝  110

2021-11-12 08:02:35 | 小説

朝は、寒くなって来たわね。

冬子さんが、ニットの手袋をはめた手で、ドアを開けた。

そうですね。日中は、暖かですけど、朝夕は冷えてきましたよね。

マスターが、テーブルを拭きながら、答える。

ヤマさんは、今日来るかしら?

この間、来てくれたんで、今日はどうでしょうね?

しまっておいた炬燵を出してみたら、調子が悪いのよ。

新しいのに取り替えたいのだけど・・・。

ヤマさんの店に電話しましょうか?

マスターが尋ねると、そうして頂けると助かるわと、冬子さん。

電話すると、ヤマさんがちょうど、電話に出て、昼頃には新しい炬燵を届けてくれるそうだ。

店にいつも在庫が有るわけではないが、シーズンなので、何台か取り寄せて置いたそうだ。

大きさや値段を言わなくても、ヤマさんは、ちゃんと心得ているはずだ。

冬子さんも、お任せだ。

マスターの淹れてくれたカフェラテのカップで、手を温めながら、

私も、いつまで一人暮らしができるかなって、この頃考えちゃうのよと言った。

出来るだけ、ここにいて下さいよ。

私や、ヤマさんも出来る事は、するつもりでいますから。

ありがとう、そう言っていただけると嬉しくて。

何時か皆、年を取るじゃないですか、お互い様ですよ。

でも、段々人様にご迷惑かけることが多くなって・・・。

そんなことないですよ、南条君、冬子さんのおかげで、良い部屋が見つかったって喜んでるそうですよ。

そうかしらね?私でもまだ役に立つことが有るのね。☕

 


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南条君の引っ越し  109

2021-11-08 17:08:28 | 小説

昨日、南条君が引っ越したそうだ。

早耳のヤマさんが、マスターに教えてくれた。

なんでも、冬子さんのアパートが、一部屋開いたそうで、

ここで以前、ワンルームの部屋が狭すぎてと、こぼしていた南条君に、早速冬子さんが、連絡してあげたそうだ。

冬子さんが住むアパートは、2Ðkで、オーナーは、加藤のおじいちゃんだし、

久実さんや、椿さんも住んでいる。

冬子さんのオススメで、部屋を見た南条くんは、一目で気にいって引っ越しを決めたそうだ。

マンションの様に、オートロックはないけれど、何より顔見知りの人たちが、住んでいると言う安心感が、決め手となったようだ。

ヤマさんも家電を買ってもらったお礼に、引っ越しを手伝ったみたいだ。

コーヒーを飲みながらヤマさんが、南条君って、いい青年だよねと、褒めた。

冬子さんや、久実さん、椿さんから、れんげちゃんまで大人気でさ、そのうち引っ越しパーティやろうって、盛り上がっていたよ。

それは、良かったよね、うちのお客さん同士が世代を超えて仲が良いのは、何よりだよねと、マスターも、嬉しそうだ。

☕を飲み終わると、貧乏暇なしでさ、仕事に行かなきゃといって、千円札を置いて出て行こうとするヤマさん。

マスターが、おつり持ってってと、声をかけると、この間の分もだよと言って、サッサと行ってしまった。

ヤマさんなりの気遣いなんだろう・・・。

 

 

 


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さぼりたい日  108

2021-11-05 07:29:17 | 小説

久実さんが、やって来た。

黒のパンツに、黒のカーデガン。

襟元には、ラメの入ったストール。

是から出勤?

マスターが尋ねると、そのつもりで家を出たんですけど、何だか気が変わって、

今日は、さぼっちゃおうかなって思って・・・。

たまには、そんな日があっても良いんじゃないの。

マスターは、淡々と答える。

カウンター席に腰掛けた久実さんは、バッグからスマホを取り出すと、

アルハンブラに電話して、急に用事が出来たので、休ませてほしいと、告げた。

マスターの淹れてくれた☕のsaucerに、キッスチョコが二つ乗っかっている。

何故休むのか、どうしたのとかマスターは、敢えて尋ねたりしない。

キッスチョコ二つが、マスターの優しさ・・・・。

 


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