まるで夏のような暑さが続いたと思ったら、今日は、ちょっと肌寒い。
雨が、密やかに降り続いている。
カウンターには、白いティーポットに、こでまりの白い花が生けられている。
「夏になる前のこの季節が、私は、好きよ・・・。」冬子さんが、何時もの席から、マスターに話しかける。
「そうですね。桜の季節も良いですけど、若葉の綺麗な、今頃の季節も良いですよね。」マスターも、サイフォンの火加減を気にしながら、答える。
「雨が降ると、世間の騒音を包み込んでくれるようで、落ち着くわね。」
マスターは、サイフォンからカップに注いだコーヒーを、冬子さんのテーブルに、届けてくれながら、
「冬子さんは、時々、詩人のような事を、おっしゃるんですね」と、言った。
マスターの言葉を引き取って、加藤のおじいちゃんが、「冬子さんは、文学少女だからね」と、付け足した。
「お二人で、そんなにおだてたって、何にも出やしませんよ」☕をゆっくり、口に運びながら、冬子さんは、ちょっと、おどけて見せた。
ドアが、開いて、作業着姿の青年が、タオルで雨に濡れた肩のあたりを拭きながら入って来た。
「近所の方に教えてもらったんですけど、ランチとか出来ますか?」と、尋ねた。
「簡単なものなら、出来ますよ。」カウンター席に案内しながら、マスターが、答えた。
「メニューが、ないって聞いたんですけど、パスタとか出来ますか?」
「ナポリタンで、良ければ、すぐできますよ。」と、答えながら、メニューが、ないことを知ってるなんて、この店の常連が、教えたんだなと、マスターは、思った。