赤いベースに鮮やかなグリーンの樅木がプリントされた六角形の缶の中から、チョコレートを取り出すと、クリスタルの小皿に取り分け、冬子さんの席に、運んで行った。
マスターが、昨日、空君が届けてくれたと、冬子さんに、話した。
「まあ、なんて、綺麗な包み紙なのかしら」
チョコレートを見て、冬子さんが、一言、言った。
「空君、お元気でした?」
「ええ、元気そうでしたよ。学生時代の友人に会うんで、出てきたついでに、寄ってくれたみたいですよ」
「そうなのね。」冬子さんは、チョコレートの包みを丁寧にほどきながら、口に運んだ。
「確か、渚ちゃんも、チョコレートが、好きだったわよね?」
言わずもがな事を口にしてしまった冬子さんは、少し、自分を責めたのか、その後、無言になった。
マスターも、チョコレートを、かさかさと、音を立てて剥いた後、口に入れた。
渚ちゃんの事は、とっくに吹っ切れたと空は、言っていたけど、口の中に広がるチョコレートのように、甘くて、ほろ苦い、想いは、消えることがないのだろう。
星達に、渡してほしいと預かったもう一箱の、チョコレート。
なるべく、早めに渡そう・・・。