チョコレート   264

2024-11-18 06:13:04 | 小説

赤いベースに鮮やかなグリーンの樅木がプリントされた六角形の缶の中から、チョコレートを取り出すと、クリスタルの小皿に取り分け、冬子さんの席に、運んで行った。

マスターが、昨日、空君が届けてくれたと、冬子さんに、話した。

「まあ、なんて、綺麗な包み紙なのかしら」

チョコレートを見て、冬子さんが、一言、言った。

「空君、お元気でした?」

「ええ、元気そうでしたよ。学生時代の友人に会うんで、出てきたついでに、寄ってくれたみたいですよ」

「そうなのね。」冬子さんは、チョコレートの包みを丁寧にほどきながら、口に運んだ。

「確か、渚ちゃんも、チョコレートが、好きだったわよね?」

言わずもがな事を口にしてしまった冬子さんは、少し、自分を責めたのか、その後、無言になった。

マスターも、チョコレートを、かさかさと、音を立てて剥いた後、口に入れた。

渚ちゃんの事は、とっくに吹っ切れたと空は、言っていたけど、口の中に広がるチョコレートのように、甘くて、ほろ苦い、想いは、消えることがないのだろう。

星達に、渡してほしいと預かったもう一箱の、チョコレート。   

なるべく、早めに渡そう・・・。   

 

 

 


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ポストがない?

2024-11-10 12:31:43 | 日記

先日、友人と二人で、鬼怒川に行ってきた。

美味しいものを食べて、温泉につかるのが目的の、シンプルな旅だ。

所で、ポストがない町ってあるんですね?

鬼怒川温泉駅で下車する予定だったのですが、一つ手前の駅の方が、ホテルに近い事が分かり、急遽下車しました。

家を出る時出そうと思っていた郵便物を、この駅で出そうと思ったら、ポストが、見当たらないのです。

住んでいる街には、駅の傍には、いくつもポストがある。

人生で、ポストを探したことなんて、無い!

駅に戻って、駅員さんに、尋ねると、不愛想に、この辺には、無いの一言。

仕方がないので、チェックインには、時間があったけど、ホテルに行って事情を話した。

やはり、この辺に、ポストは、ないそうで、ホテルのシャトルバスに乗って、鬼怒川に行くように、勧められた。

昼食を食べがてら、温泉駅に行って、無事、ポストを見つけ、郵便物を、出すことが出来た。

怪我の功名で、駅から少し歩いたレトロな中華やさんで、食べた醤油🍜が、安くて美味しかった。

翌日は、吊り橋を渡ったり、SL蒸気機関車の撮影も、楽しんで来た。

 

 


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春が来ないまま冬になる・・・。263

2024-10-29 16:45:03 | 小説

今年も、春が来ないまま、もうすぐ冬になりそうで、イヤになる

伊達さんが、ため息交じりに呟く。

「そんな事ありませんよ、春は、チャンと来たし、長ーい夏だって来たじゃないですか?」リンちゃんが、不思議そうに突っ込む。

航が、二人のやり取りを聞いて、吹き出したものだから、飲みかけのコーヒーが、辺りに飛び散った。

リンちゃんが、先輩、汚すぎと、身をよじっって、抗議した。

マスターが、航に、おしぼりを渡しながら、リンちゃんに、「春の意味が、違うよ」と、言った。

伊達さんは、「リンちゃんからみたら、私なんか、化石に見えるよね」と、ため息をついた。

何時もの席で、皆の話を聞いていた冬子さんが、「伊達さんが、化石なら、私なんてアンモナイトかしらね」と言って、皆を笑わせた。

商店街で、星と渚の、仲の良い姿を、偶然、目にしてから、伊達さんの落ち込みが、ひどいみたいだ。

りんちゃんが、航に、「いっそ、先輩と、伊達さんが、付き合っちゃえば良いんですよ」と、無責任な発言をした。

言われた当事者たちは、口をそろえて、全否定した。

冬子さんが、そんなに焦らなくたって、人生は、ながーいから、何時か、誰かに出会えますよと、伊達さんを、慰めた。

マスターが、皆のカップに、コーヒーのおかわりを、注いでくれた。☕

 

 

 


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キッチン   262

2024-10-22 17:32:21 | 小説

星が作ってくれた明太子パスタは、渚が想像してたよりずっと美味しくて、レストラン並みの味だ。

料理は、苦手で、インスタントラーメンくらいしか作らないと、聞いていたので、ちょっと、驚いてしまった。

星は、グレーのトレーナーの袖を、たくし上げ、サラダとコーンスープも、テーブルに、並べてくれた。

「星さんて、料理が出来ないんだって、ずっと思っていたのに、実は、ちゃんと、出来るんですね」と、渚が言うと、星は、困ったような顔をして、「マスターみたいに、上手くは、ないけど、学生時代から一人暮らしだから、簡単なものは、何とか作れるけど、面倒で、外食が、多かったよね」と、自嘲気味に、答えた。

渚は、結婚して初めて、付き合っていたころには、気づかなかった星の、新たな面を見たような気がした。

コンビニで、弁当を食べてた頃の星は、疲れて、痛々しかったが、こうして二人で、食事をとるようになってからは、

良く笑うし、明るくなったような気がする。

渚にとって、星が必要なように、星にとっても渚が必要だったのだろう・・。 

 

 


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ちょっと、寂しいかな?  261

2024-10-13 08:54:06 | 小説

マスターの淹れてくれた、ダージリンティーを、久実さんが飲み始めたところに、ヤマさんと、冬子さんが、やって来た。   

駅前で、お会いして、車に乗せて頂いたのよと、冬子さんが、ヤマさんと一緒に、来た訳を説明した。

星達のお土産の紅茶をいただいている所だと、久実さんが、ヤマさんに、お礼を言った。   

「お礼なんて、とんでもない、皆さんに、気を遣わせちゃって」と、丁寧にあいさつした。

冬子さんが、「あら、ヤマさんでも、そんなに神妙な挨拶なさるのね」と、言ったものだから、ヤマさんは、余計照れて、こんな挨拶は、一度っきりですよと、言った。

皆から、改めて渚ちゃん達の祝福をされると、「なんだかねぇー、嬉しいような、寂しいような変な気持ちだよ」と、言った。

マスターの淹れてくれたコーヒーを、ゆっくり、飲み終わると、知り合いのおじいちゃんに、エアコンの掃除を、頼まれてるんで、そろそろ行くわと言って、店を出て行った。☕

マスターが、冬子さんに、「父親の気持ちって複雑ですね」と、語り掛けた。


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水曜日  260

2024-10-09 15:47:35 | 小説

テーブルの上に並んだ幾つもの紙袋。

さっき、星が、皆さんに渡してくださいと置いて行ったイギリスみやげだ。

先週、イギリスの小さな村の教会で、渚ちゃんと式を挙げてきたそうだ。

現地に住む学生時代の友人夫婦に、立会人になってもらって、予てよりの希望通りの二人だけの結婚式。

マスターの淹れてくれたコーヒーを、一杯飲むと、他にも行く所があると言って、慌ただしく店を後にした。

水曜日で、店が休みだと言って、久実さんがやって来た。

紙袋の説明を受けて、久実さんが、「二人も、ついに、結婚したんだ。」と、感慨深かげに、呟いた。

マスターも、久実さんに、紙袋を、手渡しながら、「二人も、色々あったけど、やっぱり、運命なんだろうね。」と、答えた。

久実さんは、袋の中身の紅茶を取り出すと、「これ、早速、淹れてもらっても良い」と、甘えるような声で、マスターに、頼んだ。

マスターは、ブルーのティーポットを用意しながら、パウンドケーキも、頂いたから、切ってあげるよと言った。

久実さんは、「私には、運命の相手なんかいなかったけど、マスターが、優しくしてくれるから、それで、良しとするわ」と、言いながら、クスリと、笑った。

 

 

 

 

 

 

 


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 先の事は、考えない   259

2024-09-22 07:47:30 | 小説

又、雨が降り出したようだ。

昨日までは、9月とは思えない程の、暑さが続いていたから、この雨で、暑さが幾分でも和らいでくれるなら、ほっとする。

波野さんが届けてくれたコスモスが、カウンターの上の切子もどきの花瓶の中で、秋を感じさせてくれる。

「暑いと、花が、長持ちしないのに、良く咲いてるわね。」と、冬子さんが、マスターに、話しかける。

マスターは、淹れたてのモカブレンドを、冬子さんに、届けながら、「毎日、水を変えてるせいか、良く咲いてますよね」と、答えた。

波野さんは、母親の介護を、終えて、近くのマンションに、住んでいる60代後半の女性だ。

身寄りが、ないので、何かあった時のために、介護手続きや、亡くなった後の手続きを、してくれる業者に、登録していると、何時か話していた。

その場に居合わせた冬子さんも、あんまり先の事ばかり心配しても、自分で、寿命を決められるわけでもないし、あんまり考えすぎない方が良いわよと、声を掛けていた。

二人の会話を聞きながら、やがて自分にも訪れるだろう老いに、自分は、どうするつもりなのか?

マウターは、自問した後、FMラジオの音量を、心持ち、上げた。☕

 


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9月に入ったというのに・・・258

2024-09-08 12:49:46 | 小説

朝晩は、いくらか涼しくなったとは故、日中は相変わらず暑い。

昨日、娘さんの所から戻った冬子さんが、早速、松ぼっくりのおはぎを手土産に、店にやって来た。

マスターの淹れてくれたコーヒーを時間を掛けながら、ゆっくり味わっている。

「この香り、この味よ。」

お持たせのおはぎを、海の底のように青い皿に載せて運んできてくれたマスターが、吹き出している。

「まるで、CMのキャッチコピーみたいじゃないですか」

「そうかしら?」小首をかしげながら、コーヒーを味わう冬子さんは、まるで少女のように、あどけない。

甘いものは、あんまり得意じゃないといいながら、若草色のずんだのおはぎを、食べ始めた加藤のおじいちゃんが、これは、うまいよと、一言、うなった。

「そうでしょ、松ぼっくりの新作ですってよ。」

冬子さんが、自慢気に、頷く。

小豆や、きな粉のおはぎは、定番だが、枝豆を潰したずんだのおはぎは、めずらしい。

松ぼっくりは、駅前にある、老夫婦二人で営む和菓子屋だが、主人が、研究熱心で、新作の和菓子が、

店頭に並ぶこともめずらしくない。

ドアが開いて、近くのマンションに住んでいる波野さんが、コスモスの花束を、抱えて、やって来た。


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冬子さんの電話   257

2024-08-30 07:51:04 | 小説

夕べ、最期の客を、送り出して、店を閉めている所に、娘さんの所に行っている冬子さんから、電話があった。

本当なら、今日あたり、帰るつもりでいたのだけれど、この雨じゃあ

、帰れませんものねと言って、暫し沈黙が流れた。

マスターが、「無理なさらないで、台風が落ち着くまで、そちらにいた方が良いですよ。」と、言うと、

娘にも、きつく言われて居りましてねと言って、悲しそうに笑った。

雨の様子や、店の心配をした後、マスターの淹れてくれる☕が、飲みたくてねと、言って長い電話が、切れた。

マスターに分けて頂いたコーヒー豆を挽いて、飲んでいるのだけど、マスターの味には、かなわないとも言っていた。

冬子さんは、この店の開店当時からの常連客だ。

店を、オープンした頃は、会社員を辞めて、コーヒー専門学校で、習っただけの素人だった。

それでも、冬子さんや、ヤマさん、加藤のおじいちゃんの応援のおかげで、マスターのコーヒーじゃなければと、言ってもらえるようになれた事に、感謝している。

前回の台風の時も、店を休むつもりでいたが、結局、店を開けてしまった。

今日も、どうしようか悩んでいたら、久実さんから、メールが来て、これから、行っても良いかと、

尋ねてきた。

皆に、美味しい☕を、淹れてあげる。

自分に出来ることは、それ位しかないから、どうぞ、お待ちしてますと、返信するつもりだ。


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台風接近中   256

2024-08-16 08:27:10 | 小説

テレビから、台風接近のニュースが、流れて居る。

ゆっくりした速度で、関東地方に、近づいてるらしい。

こんな日は、さすがに、店に来る人もいないだろうと、思いながら、マスターが、店のドアに、本日臨時休業の貼り紙を、貼っている所に、加藤のおじいちゃんが、現れた。

「ああ、やっぱり、お休みするんだね。」貼り紙を見ながら、加藤のおじいちゃんが、悲し気に呟いた。

娘に、こんな日に、出かけるのは止めて下さいと言われたのを、押し切って、出かけてきたが、自分の、愚かさを、知らされたようで、何ともきまりが悪かった。

「店の営業は、休みにしますけど、加藤さんと、おしゃべりしたいから、店に入って下さいよ。」と、マスターが、声をかけてくれた。

それじゃあ、マスターに、申し訳ないからと、言っている所に、ヤマさんが、やって来た。

かみさんに、こんな日に行ったって、お店、やってるわけないって言われたそうだが、コーヒーが飲みたくて、やって来たそうだ。

マスターが、店は、休みますが、プライベートな来客は、歓迎ですと、二人を、店に誘った。

こんな日に必ずやってきそうな冬子さんは、娘さんの所に、泊りに行っているそうだ。

お時間、少しかかりますけど、とびきり美味しい☕入れますんで、おしゃべりでもしていて下さいと、マスターが言った。

店の☎が、何回か鳴ったけど、マスターは、電話に出ようとしなかった。

ヤマさんが、電話に出なくて良いのと、尋ねると、今日は、お二人の貸し切りですからと、答えた。

まだそれほど、雨も風も強くないが、そのうちだんだん、酷くなるのだろう。

地震だ、台風だと、息つく間もなく、天災が、やって来る。

つかの間、マスターの淹れてくれたコーヒーを、味わったら、厳しい現実に、立ち向かって行かなくては、いけないのだろうと、ヤマさんが、考えてる時、

加藤のおじいちゃんが、「80年も生きてきて、まだこんな目に合わなくちゃいけないなんて、人生は厳しすぎる。」と、他人事のように、呟いた、


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