航が、店の近くまでやって来ると、店から美味しそうなカレーの匂いが、漂ってきた。
ドアを開けると、中から賑やかな話声が、聞こえてくる。
「いらっしゃい」声を掛けてくれたのは、渚だ。
今日休みを取っているのは、知っていたが、マスターの店を手伝っているとは、思わなかった。
マスターが、知人のお悔やみに出かけたので、急遽、ピンチヒッターを引き受けたそうだ。
カレーを仕込んで、用意している所に、冬子さんや、椿さん親子が、映画を見た帰りに寄り、
加藤のおじいちゃんも、今来たところだと言った。
店の奥には、三人連れの妙齢のご婦人もいて、いつになく盛況だ。
「何か手伝おうか?」航が、渚に声を掛けると、悪いけどお願いと言って、カウンターから、真っ白なエプロンを渡した。
「皆さん、カレーで良いっておっしゃるから、奥の席から、運んで貰える?」
航は、渚の指示通り、トレイにカレー皿を載せると、奥の三人の席から配り始めた。
「あら、素敵なおにいさんが、運んでくれたわ」三人のご婦人方に、冷やかされながらも、コーヒーカップをかたずけ、一人ひとりにカレーを配膳していく。
椿さんが、「航くんが、来なければ、私が手伝おうって思っていたので、助かったわ」と、言った。
テレビを見ていたれんげちゃんも、航おにいちゃんエプロン似合ってるじゃんと言った。