静かな午後  205

2023-05-22 20:07:54 | 小説

冬子さんが、何時もの席で、レース編みをしている。

西日が、眩しいと言いながら、ちょっと手を休め、冷めた紅茶を啜った。

「随分、熱心ですね、あまり根を詰めると、肩が凝りますよ。」と、マスターが、忠告した。

そうねと言いながら、途中まで編んだレース編みを広げてみて、「後、もう少しなんだけど、今日は、もう止めておきましょうね」と、自分に言い聞かせるように言って、畳んだ編み物を、紙袋にしまった。

マスターが、見かねて、紅茶を入れ直してくれた。

「この間、図書館で、渚ちゃんに、親切にしていただいたお礼に、サマーカーデガンを差し上げようと思っているのよ」と、冬子さんが、マスターに話しかけた。

読みたい本が、本棚の高い所にあったので、あきらめて帰ろうとしたら、渚ちゃんが、何処かでその様子を見て、脚立を持ってきて、取ってくれたそうだ。

「渚ちゃんを見ていると、昔の私を見ているようで、とても愛しくなるのよ。」と、付け加えた。

ちょっとお転婆で、おせっかいで、困っている人がいると、ほっておけないのよね・・・。

「レースのカーデガン、きっと渚ちゃん喜びますよ」と、マスターが、太鼓判を押した。

 


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

持ち寄りパーティ  204

2023-05-14 17:29:44 | 小説

マスターが、ナポリタンの準備を始めようとした時、ドアが開いて、椿さん親子が、入って来た。

れんげちゃんが、早速、冬子さんの傍に座った。

知らない人が見たら、おばあちゃんと、孫に見えるだろう。

椿さんが、スーパーのお惣菜の残り物分けてもらったと言って、紙袋から次々、パックを取り出した。

海苔巻きや、お稲荷さん、野菜の天ぷら、ひじきの煮物、唐揚げが、テーブルを埋め尽くした。

マスターが、「これからナポリタン作ろうと思っていたけど、こんなにご馳走いただいたんじゃ、作らなくて良いよね?」と、ヤマさん達に聞いた。

椿さんが、「たくさんあるから、ナポリタン、食べきれないでしょ」と、口を添えた。

ヤマさんも、久実さんも、申し訳ないと言いながら、じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうと言った。

マスターが、れんげちゃんに、食事の後に、🍰ごちそうするから、あんまり食べ過ぎないで、と声を掛けた。

思わぬ展開に、冬子さんも、「皆さんと一緒に、お食事するなんて、本当に久しぶりね。」と、ごきげんだ。

時計の針が、やっと動き始めたようだ。

 


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夕飯作りたくない・・・。 203

2023-05-07 12:21:46 | 小説

ドアを開けるなり、はあ~疲れたと言って久実さんが、入り口の椅子に、倒れこんだ。

「大丈夫?」マスターが、尋ねると、「少し、休ませて下さい」と、片手で、髪をかき上げながら、

深い息を吐いた。

その様子を見ていた冬子さんが、「連休で、お店忙しかったんでしょう?」と、言葉を掛けた。

昨日、店に寄ったというヤマさんも、「かみさんに、母の日のプレゼントでもと、店に行ったんだけど、凄く混んでてさ、久実さんに頼もうと思ったら、忙しそうで、声も掛けられなかったよ」と、言った。

少し落ち着いたと言って、久実さんが、カウンター席に、移った。

マスターの作ってくれたアイスコーヒーを、一気に飲み干すと、「ここ数日、アルハンブラの奇跡のように忙しくて」と、言って笑った。

冬子さんが、「今まで、皆さん、縛られていたものから、一気に解放されたのよね。」と、久実さんを労った。

「家に帰って、夕飯作りたくないので、何でも良いから、何か食べさせて」と、久実さんが、マスターに頼んだ。

マスターは、カウンターを拭きながら、ナポリタンで良ければ、すぐ作れるけど、と言った。

それを聞いて、ヤマさんが久実さんよりも早く、「オレにも頼むよ。」と、言った。

奥さんが、支度してるんじゃないの?と言うマスターの問に、かみさん、久しぶりに友達と旅行に、行ったんだよと、答えた。

冬子さんが、どちらに行かれたの?と尋ねると、「箱根の湿生花園とか言ってた」と、答えた。

 


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする