読書日和

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「本日は大安なり」辻村深月

2014-06-04 23:59:12 | 小説
今回ご紹介するのは「本日は大安なり」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
一世一代のたくらみを胸に秘める美人双子姉妹、クレーマー新婦に振り回されっぱなしのウェディングプランナー、大好きな叔母の結婚にフクザツな心境の男子小学生、誰にも言えない重大な秘密を抱えたまま当日を迎えてしまった新郎。
憧れの高級結婚式場で、同日に行われる4つの結婚式。
それぞれの思惑と事情が臨界点に達した、そのとき―。
世界一幸せな一日を舞台にした、パニック・エンターテインメント長編の大傑作。

-----感想-----
11月22日の日曜日、大安吉日。
ホテル・アールマティで4組のカップルが結婚式を行います

11:30 相馬家・加賀山家 1F パールルーム
12:30 十倉家・大崎家  2F エメラルドルーム
13:30 東家・白須家   1F ロイヤルルーム
17:30 鈴木家・三田家  2F ゴールドルーム

物語は4組の結婚式それぞれの関係者によって交代で語られていきます。

加賀山妃美佳と加賀山鞠香は双子の姉妹。
一卵性双生児のためとてもよく似ています。
結婚するのは妹の妃美佳です。
この双子姉妹、せっかくの晴れの日に恐ろしいことを企んでいました。
何と妃美佳と鞠香が入れ替わり、鞠香のほうがウェディングドレスを着ているのです
新郎の相馬映一がウェディングドレスを着ているのが妃美佳ではなく鞠香だというのを見抜けるかどうかを、妃美佳は試そうとしていたのでした。
姉の鞠香も妃美佳が持ちかけたこの企みに乗り、二人してばれたら大騒ぎになるようなとんでもないことをしています。

十倉家・大崎家の結婚式を担当するのは、山井多香子というウェディングプランナー。
32歳で、ホテル・アールマティのサロンに勤務して5年が経ちます。
ウェディングプランナーとは、式や披露宴の段取りを提案し、打ち合わせを重ねながら当日までのお手伝いをする職業です。
山井多香子は新婦の大崎玲奈からの度重なる無理難題、クレームに辟易していました。
この案件から降りたいというくらい、うんざりしていたようです。
そして懸念していた通り、結婚式当日のこの日もトラブルが発生し…

東家・白須家の結婚式では、小学二年生の子ども、白須真空(まそら)が語り手。
新婦は真空の母親の妹で、小さい頃から仲良しの「りえちゃん」。
33歳で、駅前にある大きな薬局で薬剤師として働いています。
今日はりえちゃんの晴れの日なのですが、真空はこの結婚式を何としても阻止したいと考えています。
それというのも真空はある日、新郎の東(あずま)の「秘密の現場」を見てしまったのです。
東から「りえには内緒にするように」と口止めされたのですが、それ以来真空はこの結婚に危機感を抱くように。
さらに東は真空の母や祖母からも評判が悪く、家では東の悪口ばかり聞こえていました。
真空は子ども心に結婚式を阻止するような手を試してみますが、どれも失敗し…
大好きなりえちゃんを東から守るため、真空が色々悩みながら奮闘します。

鈴木家・三田家の結婚式の話は、色々な意味でかなりやばかったです。
語り手は新郎の鈴木陸雄。
17:30からの「イブニング・ウェディング」というプランで三田あすかとの挙式、披露宴を控えています。
しかしこの鈴木陸雄はなんと、「貴和子」という女性と結婚している既婚者
貴和子と結婚しているにも関わらず三田あすかと結婚しようという、最悪男だったのです
結婚式当日を迎えたものの鈴木陸男は三田あすかと結婚する気はなく、どうにかして結婚式を中止にしようと企てていました。
三田あすかとの不倫で貴和子を裏切り、結婚する気はないということで今日の結婚を信じている三田あすかをも裏切るという最悪ぶりです。
こちらは真空の子ども心と違って結婚式を中止にするために本当に犯罪を企んでいてやばかったです。

というわけで、この4つの物語が交代で進行していきます。
それぞれの視点で物語が進行していくこの構成は伊坂幸太郎さんを思わせるものがありました。
それにしても小説のタイトルは「本日は大安なり」なのに、物語的には全然「大安」ではないなと思いました(笑)
4つの物語のどれもトラブルを抱えていて順風満帆な結婚式ではなかったです。
しかしどの物語も意外な展開が待ち受けていてとても面白かったです

読み進めていくと明らかになる、山井多香子と大崎玲奈の衝撃の因縁。
大崎玲奈のほうは覚えていないようでしたが、山井多香子のほうはしっかりと覚えていました。
山井多香子は美容室の和木オーナーにかけられた言葉を思い出します。

すっごく気に食わない相手が来たらどうするの?この人の幸せなんて死んでも祈りたくないっていう相手。それでもやっぱり魔法かけてきれいにつつがなく仕上げてあげるの?

山井多香子にとって大崎玲奈はまさしく「この人の幸せなんて死んでも祈りたくない」という相手。
それでもプロとして、お客様の幸せのためには最善を尽くすべきと考える山井多香子の心の葛藤、興味深かったです。

ウェディングプランナーは挙式と披露宴には立ち会わないことが多いというのは意外でした。
その時には別の結婚式希望者との打ち合わせをしていたりします。
当日その場に居ることが出来ないというのはちょっと寂しいなと思いました。
ただクレーマーの大崎玲奈に辟易していた山井多香子には結婚式の当日に驚きの展開があって、これは読んでいて嬉しかったです

加賀山妃美佳と鞠香の双子姉妹の物語は、読んで行けば読んで行くほど、引き込まれていきました。
妃美佳は姉の鞠香に対して苦々しい思いを持っています。
一方の鞠香は妃美佳をとても大事に思っています。
しかし読み進めていくとどうやらそうでもないようで…
鞠香は妃美佳の心の内にある程度気付いているようでした。
そして妃美佳に負けず劣らず、心の内が怖いです
さらには妃美佳と鞠香が入れ替わった状態で挙式、披露宴が進んでいき、周りは当然妃美佳を鞠香と呼び、鞠香を妃美佳と呼び、本人たちもお互いになりきって演技しているので、読んでいてこんがらがらないようにするのが大変でした(笑)
この双子姉妹に試されている新郎の相馬映一が果たして入れ替わりを見抜けるのかどうかは非常に興味深かったです。
鞠香が相馬映一に対して心の中で「あなたに勝ち目はありません」と勝利宣言していた場面が印象的でした。

ここまでトラブルを抱えた4組の結婚式の物語、果たしてどうなるのかと思いましたが、意外にもなかなか良い終わり方をしてくれて良かったです。
正直壊滅的な最後になるのではないかと心配していました。
読後感も良く、この作品を読んで良かったと思いました
最後に、作中において最も印象的だった山井多香子さんの言葉をご紹介します。

大安は、六輝の中で何事においても全て良く、成功しないことはないとされる。だけど、大安はただそれだけでは実現しない。それを可能にするのは、私たちだ。それが、ウェディングプランナー。大安を作り、支える職業。

いくら大安吉日とはいえ、当人たちだけでは結婚式は行えません。
素晴らしい結婚式になるように準備し、大安を真の”大安”にするというウェディングプランナーとしての誇り高さが垣間見えた、良い言葉だと思いました。


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