読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「あまからカルテット」柚木麻子

2017-05-06 19:31:17 | 小説


今回ご紹介するのは「あまからカルテット」(著:柚木麻子)です。

-----内容-----
女子中学校の頃から仲良し四人組の友情は、アラサーの現在も進行中。
ピアノ講師の葛原咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子は、それぞれ容姿も性格も違うけれど、恋に仕事に悩みは尽きず……
稲荷寿司、甘食、ハイボール、ラー油、おせちなど美味しいものを手がかりに、無事に難題解決なるか!?

-----感想-----
葛原咲子、立花満里子、島田薫子、深沢由香子の女子中学校時代からの親友四人組の物語です。
四人とも東京に住んでいて、咲子は二子玉川、満里子は桜新町、薫子は五反田、由香子は旗の台に住んでいます。

「恋する稲荷寿司」
咲子は自宅でピアノの講師をしている28歳の独身で恋人はいないです。
夏のある日、たまたま花火大会で隣のシートになった男の人に恋心を抱きます。
会話をしてお稲荷さんを分けてもらったりもして仲睦まじい雰囲気だったのですが、連絡先は交換できずにそのまま別れてしまいました。
咲子の家に集まった親友の薫子、満里子、由香子にそのことを話すと非難されたり慰められたりしていました。
そして奥手で滅多に出会いのない咲子のために皆で力を合わせてこの男の人を探し出そうとします。
手がかりは凄く美味しかった稲荷寿司だけです。

当初、この話は咲子の語りで進んでいくのだと思いました。
ところがすぐに咲子から薫子に語りが変わって、一つの短編の中で親友四人組それぞれの語りがあります。
他の短編も同じようになっていて、四人の中の誰かに起きた問題に対し四人で力を合わせて解決していました。


「はにかむ甘食」
「恋する稲荷寿司」の次の年の春になります。
由香子はとても料理上手で、「ごろぱんだな毎日」というブログで作った料理のレシピを掲載しています。
この由香子の料理レシピが好評で書籍化され薫子の出版社から出版されることになります。
さらにこの料理本の担当は薫子で、親友の本を担当するということで薫子は張り切っていました。

ところが薫子には心配していることがありました。
何と由香子が料理を作れなくなってしまったのです。

薫子の出版社では『ナチュラルママ』という雑誌を出していて、その雑誌のお料理ページにたまたま空きができた時に薫子の勧めで由香子が記事を書きます。
それが大反響だったためそのまま連載になりました。
相乗効果でブログも一日のアクセス数が10万を超える有名ブログになりました。
しかしある時由香子はネットで何気なく自分の名前を検索し、自分がネットで罵詈雑言を浴びせられ叩かれていることを知ります。
童顔の容姿を揶揄され、料理も有名料理家のパクリだと言われ馬鹿にされていました。
そのショックで由香子は何日も家に閉じこもり荒んだ生活をし、料理も作れなくなっていました。

そんな由香子を元気づけるため、三人は由香子の子供の頃の「甘食の思い出」に出てくるノンちゃんを探し出そうとします。
しかし満里子と薫子が喧嘩をしてしまい、咲子が「由香子がいないと、やっぱり駄目だね……。私達」と言っていたのが印象的でした。
一番大人しくても一番みんなを調和させられるのが由香子のようです。


「胸さわぎのハイボール」
お姫様気質の満里子は国内最大手の老舗化粧品メーカー「ボーテ」の社員で、日本橋のデパートの店舗で働いています。
そして店長になりました。
しかし店長の業務は大変で予算のノルマが頭の大半を占めていて心の休まる暇がないようです。
この話の冒頭から凄くピリピリとしていて、店長ではなかったこれまでとは大分様子が変わったなと思いました。

「恋する稲荷寿司」で付き合い始めた一歳年下のシステムエンジニア、高須雄太とは付き合ってそろそろ一年になります。
満里子はプロポーズを待っているのですが雄太にはなかなかその気配がなく、満里子はじれったく思っていました。

ある日、酔っぱらって帰ってきた雄太の口から雪子という女の人の名前が出て満里子は驚きます。
雪子は高校の同級生で一緒に吹奏楽部に所属していた仲間で、最近飲み屋を始めたので雄太はそこに行っていました。
ハイボールが素晴らしく美味しいとのことです。
そして料理も美味いと褒めちぎる雄太に、満里子は「私にだってそれくらい作れる」と激怒していました。

咲子、満里子、薫子、由香子の四人で珍しく有楽町のガード下で飲み会をしている時、満里子が「きっと、雄太を盗まれちゃう」とかなり弱気になっているのが印象的でした。
満里子は雄太が酔っぱらって帰ってきた日以来、雄太からの電話もメールも許否してしまっています。
二人を仲直りさせるため、薫子と咲子と由香子は雪子のお店を見つけ出して行ってみることにします。

薫子と満里子がまたしても喧嘩をしてしまいます。
薫子は満里子のことを「もう、知らない。あんなヤツ!」と言っていました。
しかしその後、「どんな時でも満里子の味方でいるって決めているんです」と言っている場面がありました。
喧嘩をしたくらいでは揺るがない友情があって、良い関係だと思いました。


「てんてこ舞いにラー油」
「胸騒ぎのハイボール」から2ヶ月が経ち11月を迎えています。
同じ出版社の先輩、バキさんこと膳場恭一郎と結婚した薫子は神楽坂の「ヴォーン神楽坂」というマンションに引っ越して新しい生活を始めていました。
しかしマンションでは奥様たちの付き合いがかなり濃密で、薫子は辟易しています。
出版社の仕事も忙しいので早くも結婚生活に疲れていました。

忙しい薫子を気遣い、咲子、満里子、由香子の三人は薫子の職場の近くの飯田橋にあるカフェでランチをしようと提案します。
そこに現れた薫子はかつてないほどやつれていて三人を驚かせました。
文芸の編集になった薫子は何人もの売れっ子作家を抱え、マンションでの奥様付き合いにも時間を取られ多忙を極めていました。
結婚生活については「そもそも、一緒に住んでいるのも忘れるほど、旦那に会ってないし。たまに帰ってきても、日付が変わってるんだもん」と言っていて、だいぶすれ違い生活になっています。
家の中が散らかりっぱなしなのを三人が整理すると言っても、「一度人を頼ったら二度と自力で立てなくなる」と考える薫子は断っていました。

そんなある日、薫子が帰宅するとマンションの玄関ドアに袋に入ったラー油がかけられていました。
物凄く美味しいラー油で色々な料理に重宝することから、料理をする気力のなくなっていた薫子も再び気力が湧いてくるほどでした。
当初料理上手な由香子が届けてくれたのではと思ったものの由香子ではなくて、一体誰が届けてくれたのかが謎でした。

この話では意地を張って親友の助けを拒み、一人で何もかも何とかしようとする薫子の姿が印象的でした。
人に頼るのは決して恥ずかしいことではなく、薫子も次第にそのことに気づいていきました。
追い詰められた時は意地を張らず好意を素直に受け取って助けてもらえば気持ちもだいぶ楽になると思います。


「おせちでカルテット」
この話は「12月31日 午後6時35分 薫子」のように、少しずつ時間が進みながら四人それぞれの物語が進んでいきます。
大晦日の夜、薫子がマンションで咲子、満里子、由香子を待つところから物語が始まります。
四人でおせち料理を作ることになっていました。
薫子は鹿児島に住む夫の母から膳場家に代々伝わる漆の四段重を渡され、立派なおせち料理を作るように言われていました。
しかし薫子にそんな料理の腕はないので、親友達の力を借りて何とかしようとします。
私的には漆の四段重を送ってまでしておせち料理を作るように言ってくる義母が嫌な人だなと思いました。
薫子も相手と張り合いやすい性格なので作れないとは言わず、四人がかりで立派なおせち料理を作って義母を圧倒しようと考えます。
義母は次の日の1月1日に来ると言っていたのですが、何とまだおせち料理も作っていないのにいきなりやってきて薫子は衝撃を受けます。

咲子はなぜか埼玉県の秩父市にいました。
神楽坂の薫子のマンションまで電車で2時間以上かかるのですが、この日は大雪が降っていて秩父線が運休になってしまい、咲子は途方に暮れます。
母親や親友達、恋人にも内緒で秩父のスーパーに試食販売のアルバイトをしに来ていました。
途方に暮れていたところで大学時代の元恋人の佐久間詠一郎とばったり再会します。

満里子は日本橋のデパートで新年二日にある初売り出し用の福袋の準備に追われていました。
ようやく準備が終わって帰ろうと思ったその時、後輩の遠藤保美が指にはめていた婚約指輪がなくなったことに気づきます。
満里子、保美、そして一緒に作業していた望月留美子、城山詩子(うたこ)の四人で探しますがなかなか見つからないです。
さらにもう全員帰ったと思った警備員にドアの鍵を閉められ、デパートの倉庫内に閉じ込められてしまいます。
これから薫子のマンションに向かうはずが満里子も窮地に立たされていました。

由香子はテレビ局で「深沢由香子のフカフカクッキング」という料理番組の収録をしていました。
夫は海外出張中で、二週間前に酔っ払った女から「ご主人が好きだから必ずあなたから奪ってみせる」という国際電話がかかってきたため由香子の胸中は穏やかではないです。
収録が終わって帰ろうとした時、テレビ局から「大雪の影響で5時間後に始まる生放送の新年特番で使うおせち料理が調達できなくなったから、変わりに何とか由香子に作ってもらえないか」と頼まれます。
戸惑う由香子ですがかつて親友四人で交わした約束を思い出します。
「仕事と恋のチャンスは友情より優先するべき。そんなことで壊れる私達じゃないもの。」
テレビ局から懇願され、普段は目立たないと思っている自分が頼られていることに気を良くした由香子は緊急のおせち料理作りを引き受けます。

四人それぞれ予想外の事態になっていました。
薫子はやってきた義母相手に気まずい思いをしていて、「明日夫が帰ってくるまで自分は義母相手に持ちこたえることができるのだろうか。」と胸中で語っていました。
咲子は詠一郎のへらへらとした態度にペースを乱され、かつての付き合っていた日々を思い出したりもしていました。
満里子はどうせ当分脱出できないならと、城山詩子を実験台にして福袋の中味の化粧品を使ってメイクアップをして、自社の福袋化粧品の力を確かめたりしていました。
由香子は普段からは考えられないようなリーダーシップを発揮しておせち料理を何とかするために奮戦していました。
薫子のマンションに四人で集まって義母対策のおせち料理を準備するという当初の予定とは全く違う展開になり、四人それぞれの話がどうなっていくのか興味深かったです。


軽いタッチの文章で書かれていて読みやすく面白い作品でした。
ある人がある人に対して持っていた印象が最初とは違ったものになり、その人の当初思い込んでいた人柄とは違う一面が見られる場面が何度かあったのも印象的でした。
四人の友情とともにそんな人付き合いの奥深さも描かれていていて興味深く読みました。
これからも結婚や出産での環境の変化があったり、喧嘩をしたりすることがあるかも知れないですが、この四人の友情は変わらず続いていくと思いました。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿